襲撃の裏の者たち
Side Rosetta
私は、風紀委員長だ。貴族ばかりのこの学園の中で、平民の特待生や、平民に近いミドルネームが”ド“の者たち。
彼らに対し、陰湿ないじめをするものが、一定数必ずいる。
例えば、先日ハロルド・フォン・アムステルダムとの婚約を解消されたグリンダ・フォン・オストワルト。
カースティス・フォン・マルティンの婚約者、ガブリエル・フォン・ガナーシャを唆してサティに嫌がらせをしていた。
本来は風紀がサティを保護する筈なのだが、マティアス・ドゥ・セオドア第一王子殿下が手を回してくださったお陰で、大事に至らずに済んだ。
それに関しては、感謝している。だが、生徒会は学園の風紀を乱しがちだ。
従弟のシエルとノエルは、よく廊下を走っている。それに、嫌がらせに対して過剰防衛で返している。その度に問題になっているし、彼ら自身、いたずら好きなので、それも風紀に通報されている。
王太子殿下も王太子殿下でよく教師の神経を逆なでしていらっしゃる。それに、王太子殿下の熱烈なファンがよく王太子殿下が所属している1-S に押しかけていた。
過去形なのは、王太子殿下がそういう連中に釘を刺した上に、殿下の専属護衛のアインがブチ切れたのが大きい。
彼は取り乱したことに関して恥じているようだが、もはやあそこまでされないと人の迷惑も考えれない連中にお灸をすえてくれて、とても爽快だ。
そんな奴らは大体は何度も風紀に捕まっているような奴らだ。そうだろうな、と思った。
あとは、マルティン。彼はよく女性に囲まれているのをガナーシャに見つかり、よく騒ぎを起こしている。
しかも必ずと言っていいほど自傷騒ぎになるから、面倒くさい。
そこで一切問題を起こしていないのに私に会う度に謝るアイン……。何なら風紀が駆けつける前に問題を解決してくれる時もある。いつか、絶対に生徒会から風紀に引き入れたい人物だ。
そんな生徒会と共に魔法祭を実行していたのだが、そこで問題が起きた。
いや、問題は起きる前提で常に警戒していた。お祭り騒ぎで問題行動が増えるなんて、毎年恒例の出来事だからだ。
それに、外部の人間も入れるため、不審者も紛れ込みやすい。だから余計に警戒していたのだが、二日目の魔法祭、決勝戦までは問題はなかった。
問題があったとすれば、ループスが学園の設備を壊したり、迷子の子供を保護したくらいだ。
だから、ループス vs アインも、普通に始まると思っていた。突然の乱入者によって、その場が阿鼻叫喚になるまで。
「委員長!どどど、どうしたらいいですか!!?」
「まずは、保護者と生徒、教師の避難誘導をしろ!放送部と連携を取って、パニックを押さえながら避難させるんだ!」
「「「「「わ、分かりました!!」」」」」
私は、次々に指示を出す。全ては、安全に人を逃がすために。
あの緑髪の女が叫んだ“皆殺し”という言葉に、パニックになりかける人々。パニックは敵だ。群衆事故が起こる可能性がある。
「落ち着いてください!」
「まだ時間はあります、急がないでください!」
「出口はこちらです!お一人ずつ、落ち着いて出口へどうぞ!」
風紀委員が避難誘導をする。私は、乱入者、いや――襲撃者たちの足止めに化成すべく、歩を進める。
「おい!放せよ!!」
聞き覚えのある声が、空から降ってくる。思わず空を見上げると、そこには翼を広げ、恐らくループスを抱えて飛んでいる、恐らくラファエルがいた。
彼は、生徒会所属で入学時、有翼人としてかなり有名になった生徒だ。
「とんでる……」
思わずぼうっとしてしまったが、ループスが抱えられて飛んでった、という事から、彼の対戦相手であるアインが一人で残っている筈だ。ループスもいるし、何とかなると思っていたのだが……。
私は小走りで駆け付けようとしたその時、背後から男の声が聞こえた。
「そちらは危ないので行ってはいけませんよ」
「……貴方は?」
「申し遅れました、私はレイモンドといいます」
「……侵入者か?」
警戒する私に、やや肩をすくめて男――レイモンドが言った。
「私は、あの襲撃者を撃退する者に、協力しています」
「なら、私にも協力しろ。私も、襲撃者の撃退に参加する」
「無謀ですね。――カーディール・ディ・ループスといいましたか、彼は」
そう言いながら、さっきラファエルが飛んでいた空を見つめるレイモンド。
「それが、どうした」
「彼では、全く手も足も出ません。強いだけでは、意味がないのですよ」
「意味が解らない」
頭脳勝負でもしているのだろうか。
「意味が分からなくて結構です。――ああ、貴方はウィリアムですか」
「私の名前はロゼッタだ。それに、その名は男性名だが?」
「誤魔化しても無駄ですよ。ただ、それならば、貴女はより近づかない方がいいですね。……もしかしたら、抹殺されるかもしれません」
「抹殺……」
私の表情が、訝しげなものに変わる。
「――――――。――――――――――――――。――ああ、気にしないでください」
「私は行かせてもらう」
そう言った直後、とんでもない轟音が響く。今まで、聞いたことのないほどの大音量。思わず、体が硬直してしまった。
「あれは、ただの風の音ですよ」
「は?そんな訳がない!きっと、爆発する――」
「なら、隠れてみてみればいいです」
そう言ってレイモンドは穏やかな物腰とは反対に、荒々しく私の腕を掴み、私が向かおうとしていた方向へ、歩みを進めた。
「隠れて居られる訳が!!」
「――隠れておいてくださいね」
レイモンドは一方的にそう言い、私を物陰に押し込んだ。
「――お」
「静かにしてください」
レイモンドが人差し指を口に押し当てる。
そして、見てしまった。地面に転がる、片腕を。
「――!!」
「おや、片腕が転がっていますね」
レイモンドは、何でもないように言った。
「片腕が……。大怪我じゃないか!しかも、あれは――!!」
「右腕ですね。まあ、大丈夫でしょう」
「え……?」
こっそり戦いを見てみると、そこには片腕を失ったアインと、そんな彼と対峙する緑髪の女性がいた。
「なにしてるんだ、レイモンド」
「ラファエルですか」
ループスを連れて飛んでいたのは、やはりラファエルだったようだ。美しい純白の翼が畳まれている。
「って、なんで風紀委員長が……。それに、アインは何やってるんだ……」
「ラファエル、あれが吸血鬼の戦い方ですよ。貴方が弱すぎて、自傷する価値もないと思われているのですよ」
「自傷が一つの基準なのかよ……」
ラファエルがドン引きしている。だが、それだけだ。
「ともかくラファエル、戦いに参加してください」
「分かった」
「私も連れて行け」
「「駄目です」」
「何でだ」
2人に同時に禁止され、口を尖らせてしまう。
「人間では、あいつらには全く攻撃が効かない」
「あまり言いたくはありませんが、そういうことですね」
「……」
「委員長」
「分かった。私では、手も足も出ないのだな?」
「そういうことです。ようやくお分かりいただけましたか」
「ああ。流石に、あんなのを見せられてはな……」
そう言いつつ、指をさすと、笑いながら腕を生やしているアインがいた。
「ああ、確かに……」
「あれは……人間ではありませんね」
「そういうことだ。私は大人しく引き下がる。では、健闘を祈っているぞ」
私は、その場から立ち去った。道中でループスと出会ったが、私はループスをすぐに気絶させ、あの戦いにループスが乱入しないようにした。
――無事、勝利することを願っている。




