○○は障害を乗り越える
わりと内容変えました!
――誰か来た!
蝙蝠からの情報に僕はとっさに目を閉じ、クッタリとする。しばらくして、床の軋む音が大きくなり、そして、酷く音を立てながら、扉が開いた。
――声からして男の三人組、大柄、壮年。金属を身に着けている?
部屋にひっそりと隠れる蝙蝠から情報を得る。
そこに映っていたのは、力なくベッドに横たわる僕と、大柄な騎士の三人だった。そのうちの一人が足を大きく振りかぶって……!?
「いい加減起きろ!」
「――!!?」
鳩尾を蹴られた。無防備な急所への攻撃に、僕は一瞬息を止めた――演技をする。結界を張るまでもない、弱い攻撃。だが、こういう人物は、痛がらないと面倒になる。僕は特に痛がる演技が上手かった。
大袈裟な程咳き込みながら、僕は彼らを頑なに視界に入れない。絶対気絶する。そうと分かっているのにするのは、馬鹿か必要に駆られてだ。不必要に気絶したくない。
「お前、ずっと気に入らなかったんだよ」
「俺たちの出世邪魔しやがって」
「捕虜の分際で、王族と仲良くすんじゃねーよ、身を弁えろ」
「……」
「あ゛あ゛?」
「……」
「ふん、こいつ、何も言えやしない」
僕が何も言えないのを知ると、彼らは好き勝手言い始めた。
「王太子も物好きだよなァ!こんな陰気臭い奴を気に掛けてさ」
「いや、あの俺様王子、案外変わり者じゃあないか?」
「はは、言いえて妙だな!あの俺様王子も実は臆病で、こいつみたいに殴ればすぐに言うこと聞くんじゃないか?類は友を呼ぶって言うしな!」
「おお、いいかもな!あの俺様の心を折るの、楽しみだ!」
男たちの汚い笑いがおんぼろ小屋に響き渡る。
耳を塞ぎたい。聞くに堪えない。黙らせたい。
――これ以上その汚い口で、声で、我が半身を罵るな。
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――色々と我慢してきたけれど、もう我慢できない。
「な、なんだ!?」
「今何が起こって――」
おんぼろ小屋が吹き飛ぶ。中にいた男共は強風の中転げ回る。
――僕の半身を悪く言うのは許せない……!
「幾ら、頑丈ではないとはいえ、何重も巻いた縄を引き千切るなんて!!」
手が自由になった。男共が怯える。
――九星を知らずにこんなことしたの?でも、手加減はしない。
「お、お前が九星なのは、本当か?」
おずおずと、聞くのに苛立つ。
――それ今重要?僕が九星の一員でも、そうじゃなくても、君達の未来は決まってる。絶対に、僕は許さない。
「た、助けてくれ!!なんでもする!なんでもするから!!」
「お、俺も!」
「こいつらは見捨てて良いから、俺を助けろ!」
情けない、意気地なしの言葉に耳なんか誰も傾けない。
――さて、どうしようかな。
「な、何を……」
男共は困惑している。
――やっぱり、助けない。半身を貶された怒り、分からないでしょ?
「は、話が違うじゃないか!」
場違いすぎるその言葉に、呆れる。
そんな、誰か一人を生かしておけるほど、僕は馬鹿でもないし、甘くもない。
――いや、僕は今まで命乞いをしろ、ともそうしたら、命だけは助けてやる、と言った?僕は、わざわざそんなリスクは起こさないよ。
「ヒッ……!」
話が通じな過ぎて苛つく。どんどん圧力をかけていく。
誰も、生きて返す気はないのに。
――あれ?今気づいたけど、会話できてるね。なんでだろう……あっ」
男共は、僕の濃厚な殺気に当てられ気絶していた。
「僕は、こんな声をしていたんだ……」
久しぶりに聞いた自分の声は、記憶の中の声より高かった。
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さて、これから僕はどうしようか。勝手に気絶した彼らを尻目に、僕は考える。どこなのかも分からない、手持ちはあるが、食料はない、人里もない。下手に動くと遭難しそうだが、今の状況でも十二分に遭難しているのではないだろうか。気絶した奴らが憎い。……もういっそのこと、殺そうか。
「はああぁぁぁ」
僕は深い溜息を吐く。僕らしくない失態に、自己嫌悪が過去最高に深くなる。それもこれも全てはマティアス様の所為だ。
「?」
ふと、セオドアの王城が視界を過った。脳裏に強く焼き付いた、とかではない感じだった。本当に見えたのだが、あの感じは――。
「蝙蝠?」
口に出してみると、案外しっくりきた。そうか、蝙蝠か、そうか――。
――マティアス様に伝えてみる?
ふと浮かんだ考えを、僕は即座に打ち消す。伝えたところで、一蹴されるし、何より蝙蝠は言葉を喋れない。キーキーと鳴く声は大変可愛らしいのだが、流石にそれでは吸血鬼でもないマティアス様には伝わらないだろう。
僕は、蝙蝠を駆使して今どこにいるかを探ることにした。セオドアにいる奴らと、セオドアの西に位置するステラにいる奴ら、それからセオドアの北西に位置する、リセーアス王国と言う、ステラ王国がまだオケディア王国だった時の対戦国だ。
セオドア王国とは友好国で、近頃、ステラとも友好関係を結ぶ予定だが、ステラもリセーアスも国王が曲者過ぎて、一筋縄ではいかないと、僕は思っている。
……セオドア国王も曲者だから、案外上手くいくかもしれないが。
閑話休題。
この三カ国に僕は蝙蝠を置いている。その数は言う程多くはない。
この蝙蝠達で何がやりたいかと言うと、蝙蝠達が超音波を発し、聞こえてきた秒数を図って現在地を特定しようというものだ。音波とはいっても、これだけ距離があれば届かない。
したがって、音を聞くのではなく、蝙蝠達が発する魔力を感じ取るのだが、一様に広がるようにすれば問題はない。そして、地図にそれぞれの蝙蝠との距離を書き込む。三つの円が一つに合わさる地点があるはずなので、そこが現在地なのだろう。では、試してみよう。
結果から言うと、現在地は、セオドアの西側の国境付近だということだ。流石にここまで遠いとは思ってもみなかった。蝙蝠達の魔力がなかなか感じ取れず、内心焦った。でも、人里がない地域は、新興国の中ではかなり珍しいが、セオドアには少ない。その数少ない一つが、ここ西側の国境なのだ。理由は、ここが戦場になりやすかったかららしい。思い当たりしかない。




