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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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風 vs 聖

Side Grace


――くッ、こ、この男、やるわね。



前にオケディアを襲撃した時にあった人間たちとは、訳が違う強さだ。


前は、ほとんどの攻撃が命を脅かすものではなかったため、暢気でいられた。

でも、今回は一回の油断が命取りになる――!


「まさか、たかが100年も生きていない人間に、ここまで追い込まれるとはね――!」

「……朧」

「あはは、その攻撃はもう見切ったわ……!」

霧のように消える男。確かに気配もそこにある。だが、実態はそこにはない。


それでも、なんとなくわかるのだ。どこに男がいるのかが。



「死になさい、一陣――!」

「――!!」

風を切る激しい音。それとまぎれて、肉が斬り落とされる生々しい音が聞こえた。

少し離れたところに片腕が現れる。それは、どうやら右腕のようだ。


朧だっけ?それを見抜いた敵には、今まで会ったことがなかったのだろう。そりゃそうだ。この私も、何度も引っかかった。


「私はね、ずっと昔から生きているのよ。あんたなんかに殺されてやらない」

そこにいる筈の男に私はそう言う。すると、やはりそこに男がいたようで、片腕を押さえながら、苦痛に表情を歪ませて立っていた。

そこにある筈の腕と引き換えに、大量の血が流れていた。


「あら、人間は片腕を治すことができないんじゃなかったかしら?」

「そうだね。人間なら、ね」

「なにを言って――」

「よかったよ、血が大量に流れた」

片腕を失った筈なのに、笑いながらおかしなことを言う。

自分の血が流れて嬉しいのは、吸血鬼のみだ。――まさか!



「黒髪、吸血鬼。お前は!!」

「僕は、皇月影。まさか、ここまで気づかれていなかったとは、流石に思っていなかったな」

冷笑しながら、片腕を生やす彼は、確かに人間ではない。


「まさか、私を煽ったのは……」

「うまくいくとは思っていなかった。少なくとも、今気づかれているし」

「はは、まさかここにいるとは、全く思わなかったわ。オケディアか、ロースタス、もしくはエネリシアのどこかかと思っていたわ」

「そうだろうね。だから僕はそこにいるのは最低限にした。――ウィキッドは、あまりにも情報収集能力が低いからね」

「それでも、皇月影を見つけた。もう関係ないわ!――パスティア、目的変更よ!皇月影を生け捕りにするわ!」

「皇月影!?」

この私に見つかったのが運の尽きね。これで、皇月影の完璧な論文が手に入る……!



私は、この高揚感が抑えきれない。邪神様の役に立てる!



「血操術、叢雲」

周囲に赤色の霧が広がり、視界が完全にふさがれる。


「そんなもの、吹き飛ばしてくれる!」

私は、鉄扇を大きく動かす。そこからとんでもない強風が吹き荒れるが、一切視界が晴れない。



「三日月」

「そんなもので攻撃したつもりかしら!?」

そう言って、私は不可視の風を織り交ぜながら攻撃するが、攻撃する度にした血の匂いが、一切感じられない。


「そっちこそ、攻撃したつもり?」

「死になさい!!」

闇雲に攻撃しても、一切当たらない。でも、相手は皇月影。それなら私の方が圧倒的有利だ!!



私は、手も足も出ない状況から抜け出すために、懐からとあるものを取り出す。

それは、とんでもなく禍々しい物質で、手に持つのも緊張するくらいだ。


「ほら、これは貴方にかけた呪い。それを強力にするものよ」

「それが?」

「こうやって使うの!!」

「ぐッ?!」

禍々しい力を込めたビー玉を割ると、苦しそうな声が聞こえて、一気に視界が晴れる。そこには、皇月影が苦悶の表情を浮かべて倒れていた。



「あはは!私たちに逆らうからよ!」

私は、高らかに笑う。もはや、私の勝ちであることは、決定された未来だ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Ain


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!

全身に聖水で清められた鉄杭を打ち付けられているような気分だ。だが、このまま倒れている訳にもいかない。


幸運にも、身体強化したままだ。身にまとった祝福が呪いを軽減してくれる。それでも体に走る激痛を堪えながらなんとか立ち上がる。


だが、手足が動かない。それを抹消で痛みを消して、無理やり動かす!



「身体強化!」

「まだ動けるの?さっさと諦めなさいよ!」

高速で突っ込む僕を迎え撃とうとするグレース。僕はグレースに攻撃を仕掛けるが、あと少しのところで届かなかった。


なぜなら、とんでもない強風に、体が吹き飛ばされたからだ。



「あら、体、軽いのね?」

「……」

僕は慌てて翼を広げる。バランスを空中で取る。

僕は飛行に関しての能力が、種族特性しかない。だから、あまりに鍛えすぎると、飛べなくなる。それ故にある程度は軽い。だから簡単に吹き飛ばされる。


「いい?私はずっとずっと昔から生きているの。ここに来る前から、ずっと昔から」

「……」

「だから、こんな子供に負ける訳にはいかないのよ!!」

そう言って、鉄扇を複雑に動かす。鉄扇を動かすたびに、殺傷能力が乗った風が生まれる。後ろには、パスティアと戦っているラファエル、終夜、レイモンド、ウルガ。


ここにいるのが僕だけなら、何も気にせずに、避けて終わりだ。しかし、戦っている存在を、僕は無視することができない。



「ほら、当たっちゃうわよ、あんたの味方にね!」

「――月下美人」

「は?」

どうしても、出したくなかった。しかし、この状況じゃ、この技を使わざるを得ないだろう。


月下美人は、全ての攻撃を無効化し、聖属性の攻撃の威力を上げる。という事は当然、僕の異能力、身体強化も強化される。纏っている祝福も。

そしてこの技には、デメリットがある。まず、闇属性と魔属性の力が使えない。という事は、魔法半分と使い慣れた抹消と小刀が使えない。

それに、聖属性を使うと、少なからずこちらにもダメージがある。


そして、最も僕にとって不都合なのが、姿を隠す魔法、魔道具が使えない。それはどうなるか。



アインとして過ごすために、僕は闇属性魔法で、あえて容姿を(みにく)くした。ロースタスを美貌で三国に分けた姉がいるのだ。

その姉と似ている僕が素顔のままだと、人間の国で大騒ぎになる。だから、顔を偽ることにしたのだ。



「まだ手は残ってるわ。その程度で、私に勝ったつもり?」

「まさか。貴女を殺す。僕の勝利は、それ以外ありえない」

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