サティのスペック
「あの魔法は、なんだろう……」
「火属性光属性融合上級魔法、サンライズ……」
「そのやけに長い魔法は何」
「サティの魔法です。サティしか扱えないほど、難しい魔法であるため、固有魔法と言っても差し支えありません」
ただ九星としての記憶がない彼女は、その魔法は使えない筈だ。
「固有魔法!って、そんなもの、あるんだ~」
カーティス様は、無邪気そうにそう言う。
「かなり少ないですが。固有魔法の持ち主なら、この学園に特待生として入れたのも納得ですね」
僕は、そう言ってステージに目を向ける。
無事、サティが白星を得たようで、万歳をして喜んでいた。
対戦相手は、そんなサティに苦笑いだ。
相手が優しかったからよかったものの、プライドが高い貴族なら、それだけで不興を買っても仕方がない。
「あれは、喜んでますね……」
ルーが、苦笑いしている。
「アイン、厳しく言いつけておけ」
「了解しました」
さすがにマティ様も思うところがあったのか、表情が固かった。
サティは、ずっと緊張していただろう。一応、戦ったことはないので。
その喜びが出たのも仕方ないと言えようが、もうちょっと堪えれば完璧だった。
それに親代わりの人に自分の活躍を見せられたのもあるだろう。現に、観客席の方に手を振っている。
「次は準決勝ですね」
「まだ4-Eと当たらないのが幸運だね~」
「当たるなら、決勝か」
「サティ……すごいですね」
「スペックだけなら、九星とどうなんだ、アイン?」
「……いい勝負かと」
「そうだよな?」
マティ様の笑顔の圧に、僕は顔をそっと逸らす。
「九星って、都市伝説ですよね?……そうですよね?」
「そいつはその九星の一人だぞ」
「さ、流石にそれは……」
「俺を疑うのか?」
「い、いえ……」
ルーが委縮する。カーティス様が、かわいそ~、と言って茶化す。そんなカーティス様は、どうやら心臓に毛が生えているようだ。
「そもそも、急ごしらえの結界は、魔法攻撃には強いが物理攻撃に弱いという特徴を持っている。だが、サティの結界は難なくそれを防いだ。――お前の知り合いの中にいそうだな、そういう奴が」
それは、オットー兄さんのことだろうか。
「九星は、あの程度の結界よりも強固な結界を張れますよ。ただ、九星は名の通り、九人です。十人目なんかいませんよ」
「そうか、一応今は納得してやる」
「事実ですよ……」
九星は九人だ。それは、ずっと変わらない。彼女がもし、九星に匹敵する実力があったとしても、九星になることはない。
「ただいま戻りました!」
「アイン」
「サティ、貴方が戦う相手は、ほとんどが貴族です。貴族は少なからず、選民思想を抱いており、中には平民にかなり厳しい方もいらっしゃいます。
今回対峙した方は、大衆派の貴族だったために、特に大きな問題にはなりませんでしたが、もしあの方が貴族派だったなら、怒りを買うことは目に見えています」
「え!勝っちゃだめってこと!?」
「いえ……ただ、喜ぶのは、天幕に戻ってからにした方が、よろしいかと」
「あ、確かにそうだね!ありがとう!」
素直なのは、美徳だ。
「僕が一番最初に対峙した方は、貴族派だったので、平民である僕にあっさり負けたのが認められず、僕の刀が魔道具ではないか、と言った嫌疑をかけてきましたね?」
「あ、もしかして、私もああ言われるかもしれない、と?」
「僕は水属性に適性がないにもかかわらず、氷魔法を使ったので、そういう嫌疑をかけやすかったのですが、サティはリレーでもう既に実力を見せていますから、言いがかりをつけられる可能性は少ないと思います」
あれはあの場だったから言い返せたものの、もし場所が違っていれば、僕は問答無用で失格になっていただろう。
いくら大衆派がいたとて、ここは身分社会。僕たち平民は、貴族に気を使うことが必要だ。
「うん、確かに、気を付けた方がいいかもしれない。ありがとう」
「いえ、マティ様も危機感を感じていらっしゃいましたし、平民はほとんどの場合、貴族と関わる機会は少ないので、これから学んでいけばいいんですよ」
「ちょっとは家でも勉強したんだけどな……」
ちょっと落ち込んでいるようなので、フォローを入れる。
「特にサティ側の大きな過失はありませんし、大丈夫ですよ」
「本当?よかったぁ」
安堵して、ほっと胸を撫でおろしていた。大体は向こうからのいちゃもんなので、難しい。今後も貴族と関わるならば、気を付けていかなければならないだろうが、ここだけの関係ならば、案外そうでもない。
この学園を出て城で働いても、貴族とほとんど会うことはないのだ。きちんと平民と貴族の住みわけがなされている結果だ。
「あ、その、試合は……」
「とてもよかったですよ。特に、あの魔法。初めて見ました」
「やった!褒められた!」
「でも、結界を信用しすぎないでくださいね」
「はい!」
サティが元気よく返事を返す裏で、カーティス様とルーが顔を見合わせて頭に?を浮かべていた。
「ん?」
「初め……て?」
「名前も知っていたのに?」
次は、3-Bとの戦いだ。