ゲームとの差異
Side Gabriel
これから、私の婚約者であるカーティス様の試合が始まる。この、湧き上がる興奮を、私は抑えることが難しかった。
「今日も麗しいですわ……」
「さすが、ガブリエル様の婚約者ですわ」
「必ずお勝ちになりますわ。ほら、相手の方。勝負も始まっていないのに、意気消沈していらっしゃいますわ」
本当に、情けない姿だこと。1年生相手に、あんなに腰が引けていらっしゃいますわ。
「!始まりましたわ!」
目にもとまらぬスピードで、カーティス様が動く。
生意気にも、相手が抵抗してきたが、見事カーティス様はそれを返り討ちにしていた。
「さすがは私の婚約者ですわ!」
「そうですわ!まさか、3年生に勝ってしまうなんて!」
「ほら、見なさいな。情けないこと」
「オーホッホッホッホッホッホ!気分がいいわ!――あら?あの女は誰かしら?」
「あの女は……あの平民女ですわ!」
「生意気な……!」
私たちは、あの女にわからせてやろうと思ったが、門前払いを受けてしまった。
「許せない……あの女、許せない……!」
「そうですわ……。アイン様にも気安く接していますし、王太子殿下とも身をわきまえずに……」
「悪女ですわ!!」
「一体どうしてやろうかしら……」
そこには、暗い笑いを浮かべる少女たちがいた……。
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Side Raphael
俺は、天使だ。翼が生えている。だからこそ、空を飛べる。
そして、この個人戦には空を飛んではいけないというルールはない!
対戦相手は、同学年のEクラス。アインはどうやら大将ではない。なら、先鋒か中堅か。あの王太子は、なんだかアインを先鋒に据えそうだと思った。
「まさか、トップバッターがお前とは……」
「悪いな、勝たせてもらう!!」
「用意――始め!!」
俺は一気に相手に肉薄する。手に持つ剣を振り下ろすが、受け止められる。
一旦距離を取り、構える。
「結構、重いな……」
「そうか?しょっちゅう羽のように軽い、って言われているのにな」
「誰にだよ」
「さあな」
俺は適当に答えると、相手は苦い顔をした。
「さっさと決着をつけるぞ!」
「望むところだ!!」
俺は、相手の背後に滑り込み、首を掴む。
「!?」
「ライトニング!!」
俺は、火と光属性の融合魔法を至近距離から撃った。
前世のアクションゲームを参考に魔法を作った。そのうちの一つがこれだ。
相手は白目を向き、手を離すとその場に倒れこむ。
「勝者、ラファエル!」
相手はあっけなく気絶し、1-Aの先鋒戦は無事、俺が勝利を収めることができた。
その後、一回負けたが、何とか三勝し、決勝ブロックへと勝ち進めた。
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「おっと……」
「さすがだね」
一人外に出てきた時、突然背後から声がした。
「何でここにいるんだ、アイン」
「なんとなく。1-Aが勝ち進めたのかと、気になってね」
「きちんとシード権を獲得したから心配すんな」
「それはよかったです」
そんな無表情で言われても、全く嬉しくない。
「それにしても、早すぎないか?俺たちの試合が始まったとき、そっちはまだ二戦目の中堅戦やってなかったか?しかも、一勝一敗だったし」
「僕が速攻で終わらせて、他お二方があまり長引かせずに終わらせたからね。副将戦は、しっかり見させてもらったよ」
物凄く、嫌な感じだ。多分、アインならあっさりと戦略を立てるだろうな。
「……怖いな」
「それはどうも」
褒めてない。
「お前は、暗殺者だっけな」
「そうだね。――だから、マティ様が言わなければ、僕はこれに出る気なんか、なかったよ」
「……」
なんだか、普段と同じ声な筈なのに、冷たく聞こえる。立ち振る舞いは変わらないのに、気圧される。
「……ごめんね。当たるつもりはないんだ」
しばらく黙っている俺に気が付いたのか、アインがすまなそうな声を上げる。
「ああ。――大丈夫か?」
「大丈夫。そろそろ、自分の天幕に戻ろう。多分、他ブロックの対戦も終わる頃だよ」
「わかった。またな」
俺は、アインの後姿を見守る。
「……聖水でもぶっかけたか?」
アインから、なぜか聖なる気配がした。まるで、聖水と同じ――。
確か、彼岸は聖水が苦手だった筈だ。更に、血が濃ければ濃いほど、聖水が苦手に。
アインは、俺が知る限り最も血が濃い存在だ。確か、聖水で何度も死にかけたことがある、と言っていた。
なのに、聖水の気配を漂わせている。何故だ?
俺は、聖水をひっかけた時に痒くて痒くて仕方なかったんだが。それも、そこまで質の高くない聖水で。
その聖水で死にかけた経験を持つアインが、聖水を嫌うなんて、火を見るよりも明らかだと思うのだが……。
それに、あの言葉。思わず出た、と言った感じだったが、もしや、自分が暗殺者という事を厭っているのではないだろうか。
邪神を倒すためにすべてをかけていると言っても過言ではないアインが、もし誰かを殺すことを嫌がっているのであるならば……。
精神が不安定になるのも、仕方がないのか……?
「いや、まさか。アインは、ゲームでもそういったことは言っていなかった。アインは、失声症と人間不信をヒロインに直してもらう、というのが主なストーリーな筈だ。それ以上の闇なんか、ある訳が……」
俺も、言っていておかしいことぐらい、知っている。
マティアスが、アインに対して過保護なのも、いつ消えてもおかしくないからだろうか。
「なんか、昔はただの乙女ゲームだと思っていたのにな」
たった一文で知らされるこの国の滅亡。そんな未来を避けるために、奔走している人物がいる。
俺ができることは、なんだろうか。
「そう言えば、ウィキッドが学園の中にいる、と言っていたよな」
昨日、アインから聞いた言葉がよみがえる。俺ができるのは、ウィキッドを倒すことだろう。
決意を固めた後、クラスメイトが呼びに来た。どうやら、対戦相手が決まったそうだ。
次に戦うのは――。