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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified
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蛇と蛙の暗闘

「だから、団体戦にアインとカーティスがいれば、優勝も確実だったのにな」

「「……」」

僕とカーティス様はそっと顔を背ける。何も言えない。何せ、3年生を秒殺したからだ。向こうはたかが1年生に圧倒的敗北を味合わされた。


団体戦の1-Sは、ベスト8まで進出したが、3-Bに敗北した。他の1年生が一回戦で敗れている中、僕たちのクラスは二回勝ち進んだ。


だが、向こうは団体戦向けの範囲攻撃魔法を容赦なく撃ってきた。結局、立っていたのはマティ様だけで、マティ様はすぐに降参した。

てっきり、僕はそのあとマティ様が何とかすると思っていたのに予想外だった。


マティ様の実力は測り損ねているが、案外九星に匹敵するんじゃなかろうか。別に、魔族の世界じゃ、九星ぐらいの力はかなり探せばいる。


まだ、九星は弱い。だが、まだ成長の余力を残している以上、希望がある。



「ものすごくアインが強かった……。それに、吸血鬼って……!」

「はい……。あまり言っていなかっただけですが……。人間社会で生きるには、僕が人間と思われていた方が都合がいいんですよ」

「あ……確かに」

ルーがしょんぼりするが、人間よりも吸血鬼の方が強い印象を受けるので、ちょっと生きづらくなる以外には、大して影響はない。


むしろ、護衛なら魔族の方が喜ばれるだろう。



「吸血鬼なら、血が必要なんでしょ?本で読んだ!」

「必要ですが、十分もらっていますよ」

「え、いつの間に……」

「サティからは吸っていませんよ。そこは、少し難しいんですよ」

「難しい?」

サティが首をかしげる。


「はい。血にも好き嫌いがありますから」

「なるほど……」

「ああ、あとにんにくはあまり好きではありませんが、それは個人的な理由ですし。十字架も平気です」

「水は!?」

「大丈夫ですよ。むしろ、そこまで弱点が多いなんて、生物として欠陥じゃないですか」

「確かに!」

最初、小説で吸血鬼が出てきた時、本当に驚いた。そもそも、吸血鬼含め、彼岸はみなウィキッド――邪神を討つために彼岸から此岸(この世界)へ連れてこられた存在だ。

人間に討たれるための存在じゃない。



「しばらくは、暇になるな」

「そうですね。僕たちは決勝ブロックに進めたので、他のブロックの試合が終わるまで、暇になりますね」

「シード最高!」

サティはかなり喜んでいた。団体戦は大変だったそう。


「ルー、魔力は大丈夫ですか?」

「大丈夫。まだ魔力には余裕があるよ。でも、流石に上級魔法はあまり使いたくないかな」

「そうですね。魔力は温存しておきたいです」

「アインは温存という概念はないでしょ」

「そーだよ。本当に、どんだけ強いの」

「僕に関しての都市伝説も存在するくらいですよ。嘘もありますが、真実もあります」

カーティス様が口を尖らせながら、僕にそう尋ねる。


確か、僕に関する都市伝説は、世界を裏から牛耳っている、とか、戦場を敵味方血祭りにあげた、とか、どんな人間にも成り済ませて、もしかしたら近くにいるかもしれない、とか。


世界を裏から牛耳るなんて、僕にはできないし、そもそも軍の規定からして、戦場で味方にも攻撃することは許されない。

確かにどんな人間にも成り済ませれるが、どちらかと言えば潜入の方が多い。


そう考えると、結構嘘が多いな。



「いや……。真実がある方が怖いんですけど……」

「九星ですからね。それに、僕はそんな大層な存在でもありませんよ」

「いや、結構すごいよ!物凄く心強い」

ルーが興奮したように言う。けれど、九星の中では、僕だけが二属性しか持っていないし、魔族で二属性だけなのは、落ちこぼれの域だ。


簡単に操られるし、九星が革命を起こしたときも、僕は暢気に眠っていた。いくつかの置き土産を残していたのも使って、革命を成功させたのだろうが、そもそもノア兄さんなら、置き土産がなくとも革命は成功できる。


男性恐怖症なんて、情けない。本当に。



「アイン?」

「……」

マティ様は、僕が自虐することを、あまりよく思っていない。なんでだろう。おかしなことを言ってはいない筈だ。

それに、僕は口に出していない筈なのだが。マティ様の突き刺さるような視線を、僕は正確に読み取った。



「アイン?」

「な、何でもないです……」

マティ様は、笑顔でも怖い時がある。


僕は、もう既に死んでいた身だ。だから、マティ様は僕の命はマティ様のものとよく言っている。あの時、マティ様が僕に血を与えてくださらなければ、きっと気を失ったまま吸血衝動を起こし、衰弱で死んだだろう。


特定の殺し方をしなくとも、殺す方法はあるにはある。そのうちの一つがこれなのだが、この死に方は結構苦しい。


だからこそ、あの時血を分けてくださったマティ様に恩を感じているし、だからこそこの命がマティ様のものというもことにも全く持って構わない。


だが、自虐しないというのは難しい。今でも、自然に施行に出てしまうのだから……。



「ねえねえ、俺、どうだった?」

「そうですね……。かなり容赦がなかったですね。僕はずっと戦場にいたので、好ましいと思ったのですが……」

「おー、戦いのエキスパートに褒められるなんて、照れるね~」

「近づく前に、動きを封じたのはよかったです。ただ、魔法を撃たせたのがあまり……油断こそ、最大の敵なので」

「あ~そっか。確かに油断しちゃったな~」

「対魔戦なら、そこで油断しても問題はないんですが、対人戦なら怖いですね」

「成程ね。うん、ありがと~」

「いえ、これくらいしか言えないので……すみません」

「うん、それ以上に俺がよかった訳でしょ~?いや~照れるね~」

「さすがです、カーティス様!」

ルーが目をキラキラさせながらカーティス様を称賛する。


そこで、まさかカーティス様が蛇に睨まれた蛙の気分を味わっているとは思わずに、カーティス様と会話を続けていた。

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