無茶ぶりと危険人物
『次は、借り物競争です。この競技に出場するハリエット委員会に代わり、私シャーロットと』
『僕、モーリスがお送りします』
『さて、解説のシルクリーンさん、この競技の見どころはどこでしょうか?』
『それはもちろん!お題に「好きな人」と出され、今まで友人同士だったあの子が妙に気になる……男同士なのに、という展開ですね!!』
『どうやら聞く人を間違えたようですね、この危険人物には気を付けてください』
僕は、今日は生徒会席ではなく、クラス席にいた。そこでこんな放送を聞いたのだ。
「なんというか……個性が強いね」
「ルー、よくわからないのですが、マティ様から彼に会わないように、と言いつけられているのです」
「逆にこの放送を聞いておいて、分からないの!?」
「はい」
ルーは頭を抱える。別に、ルーもサティもあまり変わらないように見えるのだが。二人はいい人だから、そこまで酷い人とは思えないのだ。
「確か、この借り物競争に、マティアス様も、ハロルド様も、サティもフィンレー様も出ているよね?」
「はい。サティはともかく、マティ様やハロルド様、フィンレー様が出場されるとは、思いませんでした」
「そうだよね。それに、カーティス様は出場されていないみたいだし……」
「それも意外でした」
そう会話しつつ、僕は視線をグラウンドに向ける。そこには、マティ様とハロルド様、サティ、フィンレーがいた。更に、そこから離れてラファエルもいる。結構知り合いが出場している。
これは学年混同競技だからか、他にも生徒会長、シエル様、ノエル様が出場している。と思ったら、向こうも僕たちを見つけたらしく、手を振った。僕は礼でそれに返した。
また僕たちのクラスの方へと目を向けると、今度はサティが手を振っている。僕はまた礼で返す。ルーは手を振り返していた。
「借り物競争って、定員五人の筈なのに、こんなに知り合いが出るなんて……」
「そうですね。リレーよりも知り合いを見かけます」
リレーよりも定員はずっと少ないのに、なぜかすごく見かける。あ、今生徒会長がヴォンジョン様に揶揄われている。
昨日の生徒会長、風魔法も使っていたのに物凄く遅か……これ以上は何も言うまい。
『はいーさっさと定位置についてくださいねー、委員長と生徒会長』
「わ、私も!?」
どうやら、生徒会長はみんなから愛されているらしい。
『位置について、用意――――ドン』
その掛け声とともに一気に走り出した。
『まず最初に辿り着いたのは、ラファエル君ですね。お題の書かれた紙を一つ開きます。どんなお題が書かれているのでしょうか』
『用意したのは、我々放送委員会ですからね!好きな人とか、初恋の人とか……』
『誕生月が同じ人や、適正属性が同じ人とか、そういうものしかありませんから、安心してください』
『いや、一つ何とかして紛れ込ませたぞ!!』
『あとでモーリス君は教師からお話があるそうです』
『僕はその時間、絵を描くのが忙しいと言っておいてくれ、シャーロット!!』
――もう既に言ってる。
僕はそう思わずにはいられなかった。
「ええっと、自分より明るい髪の人……?無理だろ!!!」
「ラファエル、白髪なのに自分より明るい髪の人だなんて……」
「ものすごく運が悪いですね……」
「それに、白髪の人なんていましたか?」
「ぼ、僕は知らない……」
ルーは震える声でそう言った。それは、ラファエルが永遠にゴールできないことを意味する。
「おいアイン!白髪の人間知らないか!?」
「知りません」
「終わった……」
がっくり膝をつくラファエル。その哀愁漂う姿は、ただただ哀れだ。
「探しますよ。――流石に、可哀想なので」
「ありがとう!!」
僕は、こっそり蝙蝠を飛ばす。まあ、明るい髪色はいるが、そもそも白髪は見当たらない。どこにいるかな。
「頭痛い……」
「ああ、そうか。情報量が多すぎるのか」
「一気に蝙蝠とばしすぎた……」
「そこまで必死にやらなくてもいいからな」
「うん……」
蝙蝠から情報を受け取ろうとすると、一気に脳に直撃した。最近、半年前程精力的に情報を集めていないから、忘れていたのだ。
「あ、いた」
「いたのか!?」
「えっと、4-Eのところの女子生徒。頑張って」
「ありがとな」
ラファエルは僕に礼を告げて去っていった。
『生BL!生BL!』
『やめなさい』
放送委員がうるさい。言葉の意味は分からないが、なんだかイラっとする。
「アイン」
「マティ様、どうしましたか?」
マティ様は、どこか剣呑な雰囲気を漂わせながら、こちらに近づいてくる。ルーがちょっと委縮していた。
「ちょっと落ち着いてください、マティ様。ルーが怯えていますよ」
「ああ、すまないな」
「いえ……どうしましたか?」
「なんでもない。それより、行くぞ」
「はい……?」
マティ様は、僕の手首を掴み、歩き出す。僕も慌てて歩き出した。
「マティ様、お題は何ですか?」
「秘密だ」
マティ様は、僕を掴んでいる方とは逆の方の人差し指を口に当てる。いつも浮かべる不敵な笑みは、逆光も相まって、格好よく見えた。
『生BL!生BL!』
『やめなさい』
さっきも聞いた放送を聞きながら、僕たちはゴールへと向かう。まだラファエルは白髪の少女を見つけれていないようで、誰もゴールの前にいなかった。
『ゴール!!』
僕たちは、一着だった。ファンパッション様とシルクリーン様が魔道具を持ってこっちに来る。
『さて、王太子殿下のお題は何だったのでしょうか?』
『最も信頼できる人、だ』
マティ様がシルクリーン様から魔道具を強奪し、魔道具に向けてそう言う。
僕は、マティ様の言葉の意味が理解できると、顔が真っ赤になってしまった。
「最も、信頼できる……」
「ああ。俺の命は、お前にしか預けられないからな」
マティ様が、そう言って、僕の頭を撫でる。僕はやや俯いていたので、慎重さも相まって、マティ様が穏やかな笑みを浮かべていることに気が付かなかった。
「生、B…L……!!」
そう言って、シルクリーン様が倒れた。僕がびっくりしていると、マティ様が僕とシルクリーン様の間に割って入る。
「こいつは危険人物だ。お前は近づかない方がいい」
「わ、分かりました……」
僕たちは、そのまま全員がゴールするまで、その場で待機していた。
ハロルド様は、お題がハーフアップの男性で、カーティス様を連れてきた。
サティは、お題が眼鏡をかけている人で、ルーと一緒に来た。
フィンレーは、お題が茶髪の生徒で、ジェシカ様をエスコートしていた。
会長は、お題が適性が水属性のみの人で、クァッド様と走ってきていた。
シエル様は、お題が不真面目そうな人で、ロレンツォを引っ張ってきていた。
ノエル様は、お題が土属性魔法を使える人で、2年の先輩らしき人を引っ張ってきていた。
「何で、不真面目そうで俺なんだよ」
「だって、ホスト教師は不真面目そうでしょ?」
「誰がホスト教師だ!!」
ホスト教師と言われたくなければ、きちんとした服装をすればいいのに。
ちなみに、ラファエルは三着だった。ようやくの思いで見つけた白髪の女子生徒を、横抱きにして走ってゴールしていた。
何とかゴールできたようでよかった。