職業病
なんか言葉足らずですみません!
「ウィキッドは、元々はフィンレーと同じ人間だった。異世界って知ってる?この世界とは異なる世界」
「このせかいジャないのがあるのか!?」
ラファエルは前世の記憶というものがあるからか、落ち着いていたが、フィンレーとウルガは驚いていた。
「ある。そして、彼らは邪神を信仰する人間だった。そして、その邪神は、自分を信仰する信者に力を与えた。それが、ウィキッド」
「力……それが、厄介のか?」
「うん。上層部に近ければ近いほど、与えられる力が多い。だから、末端はほとんど人間と同じ。ちょっと魔法のような力があるけれど、それだけ。
けれど、部隊長以上のウィキッドになると、厄介さが急激に増すんだ」
「成程」
フィンレーが頷く。
「まず、通る攻撃が制限される。特に、邪神直轄の信者は、通らない攻撃はほとんど効かない」
「は?チートかよ!!」
「ちー?」
「何でもない」
ラファエルが思わず、と言った風に口を滑らし、フィンレーが訝しむ。ラファエルは慌てて誤魔化したが、フィンレーはそこまで甘くないと思うのだが、これ以上何も言わなかった。
「通る攻撃は、彼岸の力による攻撃、それと、異能力での攻撃。逆に、それ以外の攻撃は通らないから、オケディア出身の戦闘員か、彼岸に警護を負かせるといいよ」
「オケディアって確か……」
「ステラの旧国名だね。ロースタスは、イーストフール、ヴァイド、ゼスの元々の国名」
ラファエルの言葉に、僕が軽く説明を入れる。ちなみにウルガは全く理解できていないようだ。まあ、レイモンドはここら辺の事情、言わなくても理解できているし、問題ない。
「ああ、ずっと不思議に思ってたんだ。ちなみにチーズルは、何かあるのか?」
「確か、チーズルは星の革命でなぜか滅亡してたよな?何故だ?」
「そもそもチーズルは、オケディアと同盟を結ぶ前に滅亡していたんだよ。元々いい噂しか聞かない国が、あのオケディアと同盟を結ぶわけがないし、ずっとおかしいと思っていたんだよね。調べてみたら、ウィキッドの巣窟だったよ」
「じゃ、邪神もそこに……?」
「いや。邪神はそこにいない。あとで、このことも説明するよ」
「……」
フィンレーの視線が刺さる。僕は、その視線の意味に気が付いていない振りをした。
「それで、ウィキッドは師団くらいで、邪神直轄のウィキッドは、連隊くらいをまとめる長だね。前にステラ侵略に来た時に、九星に結構倒されているし、連隊長二人死んでるから、旅団近くに減ってるかも」
「そんなに少ないのか」
ラファエルが驚いていた。
ちなみに、連隊は3000くらいの規模だ。それが、六つ。
「異世界から直接来ているからね。当然、少ない。それに、結構死んでるからね。異世界から来たウィキッドは結構いた筈なのに、今はもう四人らしい」
「じゃ、じゃああとはこの世界で生まれたウィキッド……?」
「そういうこと。けれど、ウィキッドは世界の敵だから、増える間もなく殺されるし、むしろまだここまでいる、という感じかな」
「それに、たぶん今邪神を討たないと、これからは増えてく一方なんだろうな……」
フィンレーが、とても嫌そうな顔をしていた。確かに、ロースタスも、ウィキッドに入り込まれてもおかしくない状況だ。下手すれば、王族の中に紛れ込んでいるかもしれない。
「ウィキッドがここまで減らない理由は、その異世界から来たウィキッドの存在が一番だね。彼らは、邪神からかなり力を与えられているから、寿命がかなり延びている。魔族の観点から見ても、とんでもなく伸びているよ」
「そうなのか」
「寿命も延びてるのか……下手撃てば国が乗っ取られるな」
「乗っ取られてるから、チーズルが滅亡しているんでしょ」
「「確かに」」
ラファエルとフィンレーの声が被った。
「連隊長は、残り四人。パスティア、グレース、ヌフィスト、そしてバンヴァタール。パスティア以外だね、異世界人は。今いるウィキッドの異世界人は四人だよ」
「グレース、ヌフィスト、バンヴァタール……あれ?三人じゃん」
「そのうち一人は、離反したんだよ。ウィキッドも、一枚岩って訳じゃない」
「離反……」
「信者なのに?」
「だって、今のウィキッドは、過去異世界から来たウィキッドの子孫がほとんどだよ?邪神のことが気に入らないウィキッドも現れても頷けるし、それが異世界にいた時から同じなら、その一人がたまたま気に入らない信者だった、というだけ。とにかく、その三人が特に厄介なんだ」
僕は、一息ついて、また話し始めた。
「レイモンドと悪魔がやっているのは、今忍び込んでいるウィキッドの調査。流石に悪魔とウルガをレイモンドと一緒とはいえ、同じ空間にいさせることはできないから、僕が預かっているんだ。
そして、ウルガはレイモンドが溺愛するせいで力加減があまり上手くないから、何かを破壊しないように抑えているだけ」
「成程。いつの間に仲良くなったのかと思った」
「こんなやつ、スキじゃない!!」
「僕の部屋には、とんでもないものがあるからね」
「それってもしかしてエ……」
「性転換薬とか、頭がジャガイモに見える薬とか、そんなものを飲ませる訳にはいかないからね。あと、悪夢を見させる薬とか。
そんなことさせたら、レイモンドに怒られる」
「「どんな薬だよ」」
またハモった。
「失敗作だけど、処理する方法に困ってね……」
「もうちょっと厳重にしないのか?」
「誰も僕の部屋に入らなければいいだけの話でしょ?」
「お前って、割と几帳面じゃなかったか?」
「さすがに触れるだけで全てを溶かす薬とか、とんでもない媚薬とか、解毒剤が効かない毒を濃厚にしたやつとかは、きちんと金庫にしまっているよ」
「「何でそんな薬を持っているんだよ!!」」
「前の研究で失敗したから……」
「逆に何の研究をして、どんな失敗をすればこんなバラエティー豊かな薬をつくれるんだよ」
「お前の部屋には一生行きたくなくなった」
「それが一番だよ」
僕の言葉に、三人が溜息を吐いた。全く持って心外だ。
「おまえのへや、こわい……」
ウルガは、僕の腕の中で静かに震えていた。安心してよ、僕はリーリアと違って紅茶に性転換薬を混ぜることはしないから。
僕が笑って、そういう風なことを言えば、三人が真剣そうな顔でこう言った。
「「「そもそも部屋の中にそんな薬がある方がやばいでしょ」」」
「そう、なのかな……?」
昔からこうだったし、むしろ部屋に薬がないとそわそわしてしまうくらいなんだが。職業病だろうか。




