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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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ドロドロ、ドロドロ

Side Finlay


「――で、何がどうなってこうなったんだ」

俺の部屋には、アイン、ラファエル、そして――子供が一人。この構成なら、その子供も彼岸じゃなかろうか。


その子供は、アインに大人しく抱きかかえられていた。



「ちょっとした注意喚起に」

「ちょっとした注意喚起で部屋に勝手に入るな」

「僕の力を使わないと、マティ様に気づかれちゃうから。僕の部屋でやるより、効率いいし、それに今僕は解毒できない毒を研究しているから」

「とんでもないものを作っているな」

アインが表情を一切変えずに話しているのが憎たらしい。それに、悔しくも納得もしてしまった。


「で、そこまでマティアス王太子に気づかれたくないのか?」

「余計なことを知れば、危険に晒されるから……。できれば、必要最低限の人物しか、知らせたくない」

「俺らはいいのかよ?」

アインがやや俯きながら言った言葉に、ラファエルはあえて明るく話す。


「うん。もう既に関係者だから。ラファエルも、ウルガも、もちろんフィンレーも。何も知らなくとも、殺される可能性が高い」

顔を上げて、強いまなざしでこちらを見るアイン。俺達を助けたいのだろう。


「関係者……俺は理解できるが、そこの二人はなんでだ?」

アインの関係者、という言葉に、疑問が出た。


「今は、言えない。多分、物凄く混乱すると思うし、それは僕が言うべきことじゃないと思うから」

「そうか」

「とうさんガ、オレにかくしごとしてるってのか!?」

「ウルガ、レイモンドがウルガを大切に思っているのは事実だから。――信じてあげて」

「……」

舌足らずな感じで、子供――ウルガがアインに問い詰める。ウルガは、アインの言葉にふくれっ面になって黙った。


「俺の方も、言えないのか?」

「ごめんね。――僕よりも、相応しい存在がいるから。それに、いつかの選択の時に、先入観をなしに選択してほしい」

「選択の時?」

「うん。少なくとも、今は関係ないから、あまり気負わなくていいよ」

「……よくわからんが、分かった」

アインは、大切な所を、はぐらかしながら理由を話す。だが、なんとなく、分かった気がする。


俺はアインに目を向ける。目が合ったアインは、俺が気づいたことに気が付いたのだろう。静かに首を横に振った。



「ラファエル、皇月影について、どこまで知ってる?」

「えーと、絶世の美男子で、行方不明。久遠の第九魔王子くらいか?」

「それにこの情報も加えた方がいいんじゃないか?王位継承権第二位という事も」

「は……?」

「めっちゃえらいじゃん」

ウルガには、流石に難しかったらしいが、それがどれだけの地位なのか、少しは理解できているらしかった。

そして、ラファエルはそれがどれだけありえないことなのか、理解できたようだ。



「魔族は、元々実力主義。その実力主義が都合がいいのが、高位貴族。だから、此岸を積極的に登用している現魔王と魔王太子は、一部の高位貴族にとっては、面白くないんだ」

「フィンレー」

色々と話し出した俺を咎めるように、アインが俺の名を呼ぶ。


「月影が消えた理由。邪神討伐のためじゃないだろ?」

「……」

「一応聞いておく必要があるとは思わないか?」

誰がとは言わないが。


しばらくにらみ合った後、アインが諦めたように目をつぶった。


「わかった」

「ありがとな。――話を続けるが、そこで始祖が生まれたんだ。始祖は、全ての魔族の誰よりも強い存在。実力主義なら、誰だって魔王に相応しいと思うだろうな」

「その始祖が、月影だった、と」

「ああ。しかも魔王太子の母親は、片方は四大公爵家の蒼鳥の出身なんだが、もう片方は平民なんだ。

そして、月影の母親は、四大公爵家の紅月の当主と翠風の姫の娘。血の正当性でも、月影の方が上だ」

「でも、月影にも、同腹の兄姉がいるんじゃないのか?」

「いる。だが、始祖は月影だけだし、吸血鬼なのも月影だけだ。あとは――物凄い下衆な話になる。アイン、耳を塞ぐか?」

「……」

アインは、黙ってしまった。ちょっと、呼吸が荒い気がする。


「塞いどけ。あと、ウルガにも聞かせれない話だろ?」

そう言って、ラファエルがアインの耳を塞ぐ。


「アインは読唇術もできるだろ。目もつぶっとけ」

「分かった」

アインは、ウルガの耳を塞いで目をつぶる。ラファエルは、なんとなく嫌な気分になったのか、表情が険しくなっていた。


「魔王は、何が何でも子を成す必要がある。だから、一夫多妻が認められている。でも、月影は夫側の務めを果たせない」

「何で?」

不思議そうに聞くが、そこも下衆な理由があるんだよな……。無理そう、というのもあるんだが。


「体が原因じゃないんだ。魔族は、人間とは体のつくりが違うからな……。とにかく、普通は妻側は重婚はできないが、一つ例外がある」

「まさか、魔王の王配は複数人なることが可能なのか……?」

「ああ。そして、四大公爵家のうち一つは、悪魔の一族だ。そこが、紅月と翠風を唆して月影を魔王にしようとしている」

「それは、体目当てにしか聞こえないんだが」

「その通りだが?」

「くそだな」

「政治はそういうのがわんさか転がっているさ」

というか、月影を魔王にしたいのは、主に悪魔一族――金華だ。そこが国中を奔走して、月影の正当性を上げたのだ。


「つまり、それが嫌で逃げだした、と」

「それもあるんだろうが、単純にそのままじゃクーデターが起きる可能性があるからな。月影は、とても国想いの人物だ。それに、久遠の法律で、王位継承権は成人しないと放棄できない」

「だから、成人まで失踪した、と」

「あくまで理由の一つだが、徹底的に行方をくらませた理由がこれだな。敵は情弱、そもそも行方を躍起(やっき)になって眩ませるほどでもない」

「まあ、月影のことがよくわかった。――なんだか、大変だな……」

ラファエルは、月影に同情していた。まあ、同情するよな、こんなの。それに、行方不明は今も続行という事は、今も成人していない、という事になる。ラファエルは、気づいているのかいないのか。



「ああ、もういいぞ」

「フィンレー。変な話をしないで」

「そんなに嫌か?お前も、言ってないことが多すぎるんだよ。月影のことを調べたら死ぬことになる、って。それ嘘だろ」

「はあ!?」

「……」

「まあ、今は仲間割れしている暇もないしな。――ほら、アインの話は?」

俺は、さっさと話題を変える。アインはしばらく俺を睨みつけていたが、溜息を吐いて口を開く。


「僕の話は、ウィキッドの生態についてだよ」

「ウィキッドの生態?」

「ちょっと面倒だからね。教えてしっかり警戒して貰おうと思って」

「俺もか?」

「ロースタスなんて、チーズルにも近いし、ウィキッドが国の中に入り込んでいてもおかしくないよ」

「あ、確かに……」

だから、俺にもウィキッドへの注意喚起をしようとしていたのか。納得した。

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