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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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僕は、結局

――また、裏切られるかもしれない。もう、嫌われているかもしれない。


――それでも構わないから、近くにいたい。


――近くにいた所で、報われない運命なら、意味がないだろう?


――そもそも、会って間もない。恋にすら落ちてない。なのに、どうしてこんなに離れがたい?


――きっと、気の所為だ。極上の血で、おかしくなっているだけ。


――それでも、構わない。



相反する主張が頭を駆け巡り、混乱する。でも、これから僕は、この国で働く事になり、王太子と会う機会が増えていくだろう。


いつしか、半身を求める吸血鬼の本能が大きくなり、恋に落ちるかもしない。若しくは、彼が婚約者と結ばれるのを、笑顔で見届けるかもしれない。



僕は、彼の血の味に囚われてしまった。それは変えようのない事実で、九星の皆の元に帰りたいという願望を、ここにいたいという願望が上回った理由だ。



――結局、僕は吸血鬼なのだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラース兄さん、ノア兄さん、リズ姉さんがステラ王国に帰って数日。僕の扱いは、今のところ丁重に扱わねばならない捕虜だった。

何も変わってない。ここに残ったところで、この国の国王を暗殺しよ(ころそ)うとした者だ。


別に、この国で満足に働けると思っている程、僕は馬鹿じゃない。拷問されていないだけマシというものだろう。



「やあ、吸血鬼。お前、どうやって王太子殿下に取り入った?」

「……」

「何とか喋れよ、な!!」

「――っ」


殴られるだけでもマシだ。それだけで済むように、髪を伸ばした。周囲の目が怖いから。長すぎて、顔の半分を覆い隠す前髪は、僕が周りを見ないように、障壁になってくれる。

それに何より、誰も、僕の顔を見ることができない。


だから、これでいい筈だ。たとえ、声が出ないことでより暴力を振るわれても。



最悪さえ来なければ、それでいい。



「おい。何やっているんだ?」

殴られ過ぎて幻覚が?らしくない。


「そいつは同盟国になるであろう国の捕虜だぞ?貴様等はこの国を亡ぼす気か?」

「いえ!そんなことは!」

少し怒っているように見える王太子に、若い兵士がくすみ上がる。


「そもそもこの事態が“絶対零度の司令官”にばれていないと、本気で思っているのか?」

「王太子殿下。いくら九星と噂されているとはいえ、何百㎞も離れた地。感知など、出来はしないでしょう。

ああ、そうそう。王太子殿下もどうですか?国王陛下を暗殺しようとした憎き者に、制裁を加えましょうぞ」

僕を殴っていた兵士の中で、一番老齢な兵士が王太子をリンチに誘う。

王太子が僕の方を見たが、僕は顔を逸らした。そして、彼は兵士に向き直って言った。



「こいつは俺の物だ。で、誰の許可を得て殴っている?父上か?母上か?」

「で、殿下……。そのような者でなくとも、優秀な者など、幾らでもいますよ?」

「は?誰の許可を得て、俺の所有物を貶している?

まあ、今ので貴様の無能さが炙り出されはしたが。ん?貴様は己の無能を自慢していたのか?」

「な……!」

王太子は、僕が殴られていたことに対して、怒っていたようだった。

でも、この施しを受けると、後が怖い。



【僕は大丈夫です。日常茶飯事ですから】

「はァ?お前は俺の物だ。たとえ、お前自身でも、俺の物を貶める行為は許さないぞ」

「!!」

僕の心臓は、大きく脈打った。そして、それを止めることができない。病気なのだろうか。突然動悸がするなんて。



「いいか。分かっていないようだったから、もう一度言う。お前は俺の物だ。俺の許可なしに殴られるのも、貶されるのも許さない」

【ゆるさない】

「そうだ。お前の所有者の名は?」

【王太子様】

「違うだろ?マティアス様、だ。ほら、書いてみろ」

【マティアス様】

「そうだ。それ以外で俺の名を呼ぶのを禁ずる。いいな?」

【はい】



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Jessica


「これでよかったのか?」

「寧ろ上出来。これでぽっと出のヒロインに取られる事は無くなったわね」


美しい花々が一望できるテラスで、マティアスから聞いた話は、とてもよかった。

押せ押せに弱いアインは、きっと今頃謎の動悸に振り回されている頃だろう。

それで、マティアスと会う時に何故か動悸が再発してきて……こう思うに違いない。これって病気かな……?と。



――ああ、萌える!



私は恋愛観に忌避感などない。その上、()()()()を達成してくれそうなカップリングは、手を貸して、時には障害を作って、より一層燃え上がらせる!



「本当に旨くいくのか?行かなかったら、承知しないぞ?」

「勿論大丈夫よ。アインがマティアスに落ちないってことはありえないもの。だって、転生して、中身が違う筈の貴方だって、アインのことが好きだし、貴方の口調が俺様なのにも意味がある。多分、アインの好みがそれなんじゃないかしら。それに、変えられないものは仕方ないし、ね?」


不安そうな彼を励ます。知ってるかしら?ここは仮想(ゲーム)ではなくて、現実(リアル)。こっちの方が、人物の気持ちは分かりやすい。

ふふ、何故、ゲームでは仲違いしたのかしら?ああ、マティアスが幼過ぎただけだったからよね。可哀想なアイン。

運命の人と呼ぶべき人物が、幼過ぎた所為で、あんなにも傷ついていたから。彼の運命(マティアス)さえ、大人であれば、もう少しは、彼の未来も真面だっただろうに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「これから、大事なことを聞くわ。いい?貴方、もしヒロインが登場した時、ヒロインに乗り換えたりしない?もし、魅了魔法を使われたとしても。強力な媚薬を使われたとしても。自信がないなら、今すぐ手を引きなさい。今なら、まだ取り返しはつくわ」


私は、アインに不幸になって欲しくない。アインが、恋した相手に捨てられる事態を避けたい。だからこそ、これだけは確認しておきたかった。

私の言葉に、目の前の彼は顔を険しくさせる。



「乗り換え?する訳がないだろう?アインは俺ので、俺が手を引いた瞬間に別の誰かのになる。そんな事態、俺が許すと思うか?」

強気な言葉が返ってきて、ひとまず安心する。そんな私に、更に言葉を畳みかける。


「俺は魅了にも媚薬にもかかる訳がないだろう?寧ろ、心配なのはあっちだ」

「そうね。そういうイベントあるし、あれが起こんないと、アインの死が確定になってしまうのよね……」

「……………起こさないと駄目なのか?」

「凄い渋るわね。――ええ、そうよ。()()()、アインとマティアスの、親密度上昇のイベントなの。あれがないと、邪神の甘言にアインは囚われてしまい、例の敵に寝返るバッドエンドになるわ」

王子らしからぬ顔をしているが、仕方ない。ゲームではあれは、アインの破滅の一助となっていたからね。



「いい?あのイベントは必ず起こすこと。要は、媚薬を飲まされたアインを上手く助け出して、介抱すればいいのよ。それまでに、ある程度、親密と信頼を上昇させといてね」

「俺がやるべきことはそれか?」

「ええ。じゃあ、そろそろ解散しましょうか」

「ああ。そうだな」

あの後すぐにアインに会いたそうだったマティアスを置いて、私は足取り軽く、テラスから出ていった。

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