悪魔の性質と天夜の息子
Side Shuya
「やあ、久しぶり」
「お、お前は……!」
「そんなに警戒しないでよ、カナシイなァ~」
オレは、前に吸血鬼と一緒に戦っていた天使に声をかけた。
「何でここにいる……!」
「何でって……たまたま?」
適当に返すと、天使は明らかに嫌そうな顔をした。ここで攻撃しないのは、賢い選択だ。
ただ、なんか過剰に警戒されてるような……。
「あれ?吸血鬼から聞いてない?」
「なにを?」
「政略結婚のハナシ」
「誰と誰が」
「オレと吸血鬼が――」
にやにやと笑みを浮かべながら、そんな衝撃の事実を言おうとした瞬間だった。
急に視界がぶれて、体に衝撃が走った。
「あ……ラファエル、大丈夫!?」
「あ、ああ……。大丈夫だが……」
「本当に?なにもされていない?」
「いや、それより……」
どうやら、天使はオレが言ったことが気になるのだろう。
「悪魔、さっさとここから去れ」
「なあ、アイン――」
「うーん、どうしようかな~?」
「なあ、さっき――」
「どうする?今すぐここで戦ってもいいけれど」
「アイン、お前――」
「お、楽しそう~」
「ちょっとは俺の話を聞け!!」
吸血鬼は無意識だろうが、オレはあえて天使をムシしていた。
ソレに腹に据えかねたようで、天使が怒った。
「アイン!政略結婚ってなんだよ?!」
「……政治や経済の観点から、有益な人間と姻戚関係を結ぶことを目的とした結婚です」
吸血鬼は、突然の質問に混乱したのか、辞書の文のような言葉しか返していない。
「いや、そうじゃなくて、お前と!悪魔が!結婚って!!」
「冗談でもやめて。そんな気持ち悪いことを言うの」
「傷つくな~。そんなこと言われるなんて」
「は……?」
天使が大きく顔をしかめる吸血鬼と、ゲラゲラ爆笑しているオレを見比べて、呆気に取られている。
「たとえ僕の半身がこの悪魔でも、僕は絶対に拒否する。そもそも僕の半身はこの悪魔じゃない」
「ツレないな~。オレ、泣いちゃうよ?」
「安心して、泣く前に殺してやる」
「……」
天使は理解したのだろう、さっきのはオレのウソだという事に。
「悪魔の言う事は、九割信じない方がいい」
「そんなウソつきみたいな……」
「事実でしょ。――ラファエル、行くよ。こんな奴と、話している時間がもったいない」
吸血鬼が天使の手を掴んで、歩き去ろうとしていた。
オレは、その背中にこう言ってみた。
「返事、待ってるよ」
「待つ必要はない」
「わあ、情熱的ィ~」
「死ね」
吸血鬼は、ホンキでオレのことが嫌いなのだろう。とんでもない殺気を放たれた。
「グッバ~イ~♡」
「さっさと学園から去れ」
俺は、満面の笑みで手を振った。吸血鬼は舌打ちをし、天使とともに歩き去っていった。
「あんなにガラが悪くなっちゃって……。キミのお兄さんやお姉さんたちが悲しむよ~?」
まあ、オレには関係ないか。美人の舌打ちって、割とご褒美になるんだよな~。
オレは、まっすぐ学園の外へと歩き出す。
「さすがに、天夜は月影様には負けるよな、顔は。あの人が負ける美形は、御影様、雨影様――いや、珠玉様の方がお美しいか。流石に一度顔を見ちゃったのが痛かったな~」
そう久遠語で言いながら、自分の足を見て、苦笑いを零す。
「別に、強制的に追い出さずとも、俺は素直に出ていくのに」
吸血鬼の能力の一つ、操声術は彼岸の力に耐性がないか、一度でもその吸血鬼に見惚れたら、かかってしまう。ということは、その吸血鬼が美しければ美しいほど、操声術は強力になる。
オレはむかし、月影サマの顔を見たことがあった。半身じゃないのにもかかわらず、見惚れてしまったのだ。
よく親族の悪魔どもが騒いでいたのが、理解できた。これは騒ぐ。
「あ~あ。天夜にも会いたかったのにな~」
学園の外に出た。そこで足は止まったが、また学園に侵入する気はなくなった。
いくら月影サマが美しくとも、天夜の許可がなければ妻に迎い入れる訳にはいかない。それに、身分的に正妻は月影サマ、側妻は天夜になってしまう。流石に、半身をそんな扱いにはしたくないが、月影サマを娶った以上、そうしなければならないだろう。
それに、月影サマと天夜は仲がいいから、それでも天夜がなじられる訳はないだろうけど。
「でも、息子に会えたからいいか。やっぱり、天音は天夜に似てるな~」
オレは、天使――ラファエルの顔を思い浮かべる。あまりに天夜に似すぎている我が息子は、オレに似ている所を探しても、全く見当たらない。
「少しは俺に似てもいいだろ」
まあ、天夜は線が細かったが、天音はそうでもない。そこはオレに似ているのか……?
「ああ、いつか一緒に暮らしたいなァ~」
そのためには、やらなきゃいけないことがある。だからオレは、裏切り者として、情報を集めることにした。簡単に、邪神を倒せるように。
「天使は契約を必ず守ろうとするから、天夜との結婚も、時間の問題か……」
思わず、笑みがこぼれる。自分の半身を娶れるのだ、それ以上に幸せなことはない。
「天夜も、月影様も、あまり政治のことは詳しくないのに、なんでこんなにも複雑に巻き込まれているんだろうな。――まあ俺には、天夜と天音以外はどうでもいい」




