戦闘訓練
「どこからでもかかってきてください」
「ほ、本気でいいのか!?」
「はい。――殺す気でも構いません」
放課後、訓練場に集まったクラスメイトに、僕は開口一番こう言い放った。
その言葉に、ざわざわするだけで、誰もかかってこない。まあ、それもそうだ。僕は今、安物のナイフしか持っていない。
「俺も本気を出していいのか?」
「……本気で殺気は出さないでください。それと気配も。ちょっと無意識で何かするかもしれないので……」
本当に一瞬心臓を止めてしまう。流石に、その状態になってしまえば、異能力が暴走しても、制御することができない。
顔を青くして止める僕を、マティ様は笑っていた。
「じゃあ、僕行くね」
そんな中、声を上げたのはルーだ。案外、思い切りがいい。
「ウォーターアロー!!」
「ダークボール」
ルーの放った魔法を、僕は魔法で相殺する。
「我が敵を串刺しにせよ、ウォーターランス!」
「ダークボール」
ルーの魔法をまた相殺する。
「え……。あれって、上級魔法だよね……」
「それを初級魔法で……」
「やっぱり、出がらしか……」
そんな声が聞こえる。そんな訳ないのに。
「!!」
「へぇ、これ受けるんだ」
僕は、カーティス様の背後からの攻撃をナイフで受ける。風属性魔法で、空を飛んだ勢いそのままに、カーティス様は僕に剣を押し込んでいる。
「これは、一対一じゃない。だから、いいよね?」
ルーはそう言うや否や、魔属性魔法呪いを放ってきた。
「僕は軍人です。一対一も二対一も、大して変わりません」
そう言って、僕はカーティス様を掴み、ルーがいる方向へと投げ飛ばした。
「うわっ」
「わわっ」
「いいか、攻撃はこういう風にするんだ」
息をつく間もなく、今度はマティ様が僕に向かって、剣を振り下ろす。僕は、飛んで躱す。
――完璧に気配を消されたか。気づけなかった。
「天使の梯子」
「ダークボ……ダークアロー」
距離ができたところで、マティ様は僕に対して魔法を放つ。しかし、流石に内包された魔力が、尋常じゃないので、僕は慌てて放つ魔法を変えた。
「ほら、俺を訓練してくれるんだろう?」
「マティ様は、あまり必要だとは……どこから出ているんです、その力」
「さあな」
剣を片手で力任せに振り下ろすが、きちんと体重も乗っており、一撃一撃重い。そもそも、僕は暗殺者で、力押しなんか普段からしないのに。
「マティ様、負けていただきます」
「ほう?できるのか?」
「だって――もう終わっていますから」
僕は、やられているふりをしながら、魔法を構築していた。マティ様の周りには、大量の美しく光る光の槍が浮いている。
首に突きつけられている今の状況でも、不敵な笑みを崩さないマティ様に、緊張していた。
「負けた。おい、呆けてないでさっさとアインにかかれ」
「「「「「……」」」」」
潔く負けを認めたマティ様に、呆気に取られてしまうクラスメイト一同。
「聞いているのか?」
「あんな戦い、俺には無理だ……」
「魔法、今詠唱してなかったよな?あ、そういえば、ソルセルリーも上級魔法を使っていたよな。中級魔法までしか使えないヤツも多いのに……」
「わ、私行きます!!」
「宣言しなくてもいいのですが……」
サティが手を上げて元気よく言うのに、僕は肩をすくめた。
「えっと、胸を借ります!!」
「全力でかかってきてください。これは、躊躇をなくすためにしていますから」
「はい!――聖火鳥」
サティの前に現れた炎の鳥は、甲高い声を発し、僕に突っ込んでくる。僕はひらりと躱し、しっかりとサティを見据える。
「僕もいるよ!」
ルーがそう言って、ウォーターボールを浮かべる。
「僕、サティさんに聞いたんだ」
「何をですか?」
「サティさんは、他の人の魔法でも、融合できる」
そう言って、僕がこっそり構築していた魔法をサティがルーの魔法と融合した。
「聖水、ですか……」
「え、聖水?」
「聖水……」
「「「「「聖水!!??」」」」」
僕はあまり聖水にいい思い出がない。しょっちゅうぶっかけられている。軍にいた時、食事に聖水を混ぜられたこともある。
「……勢いよくとばすか」
「させない」
さっさと光属性魔法で聖水を蒸発させた。これで一安心だ。
聖水は、高純度の水に聖属性中級魔法である祝福をかける。これ以外では作ることができず、聖水の質は水の純度と術者の技巧による。
サティが作り出した聖水は、そこそこ質が良かった。なんでそんな行き当たりばったりでできるんだろう。僕を本気で殺そうとしていない……?
ひっそり僕が震えていると、また背後から気配。
「ちょっとは手を変えた方がいいと思いますよ」
「これで大体は倒せたんだけどな~」
カーティス様は、笑いながらそう言う。
「つ、つづけぇ!!!」
その声がきっかけで、マティ様を除くクラスメイト全員が、僕に襲い掛かってきた。
僕は、カーティス様を力で押して、倒す。すぐに振り返り、一番近い生徒に近づき、他の生徒に投げつける。魔法をナイフで叩き斬って、左手で光属性魔法をいくつか展開する。
それを一部掃討し、それにひるんだ生徒に蹴りを入れる。
振り返らないままに背後からの剣撃を魔法で受け、剣をナイフで受け止める。次の攻撃を避け、僕から遠い位置にいた生徒を狙って、拳を叩きこむ。
それを何度も繰り返し、生徒の数を減らしていった。
「敵わない……」
「あの人数不利を、無傷で切り抜けるとは……」
「さすが、王太子殿下付きの専属護衛か……」
マティ様と僕以外、倒れているクラスメイトを見て、マティ様が一言。
「時間がかかりすぎだ」