見直した途端……
Side Cyril
コンコンコン。窓からノックの音が聞こえ、不審に思ってカーテンを開ける。
そこには、黒髪の青年がいた。
「――て、アイン君じゃないか!なんでここに?」
「ちょっと用があったので」
急いで窓を開け、アイン君を招き入れる。今日は休日、学園は授業がない日だ。
「そもそもなんで窓……?正面から入ってこないの?」
「正面には騎士がいるので」
「あ……」
そういえばこの子、まだ男性恐怖症が治ってなかったんだった。
いつの間にか失声症が治っていたから、男性恐怖症もそうだと思っていたが、何とかしただけで、治ったとは言われてないからね……。
アルフに対しても、今でも不意にあったときに固まっているみたいだし。アルフが嘆いていた。
それにしても、自分よりガタイのいい男が苦手というのも、戦闘をするとき大変そうだな……。だから、無理やりにでも大丈夫にしたのだろうが。
「それにしても、用って?僕は全く思い当たりが……」
「シリルさん、禁書の閲覧許可をください」
「いいよ。どういう内容を知りたい?」
「歴史書です。ちょっと、行き詰っている所があって……」
なんとなく、アイン君は疲れているように見えた。
「アイン君が行き詰まるって、珍しいね」
「いえ……行き詰っていないときなんか、ほとんどないですよ」
アイン君は首を振りながらそう言う。
僕は、アイン君を禁書庫に案内した。
禁書は、本当に取り扱いが難しいもの、考え方が危険なものが主に収納されている。だから、急に禁書を見せろと言われても、見せることができない、というのが関の山だ。
アイン君は、マティによく懐いているようだから、信頼している。アイン君にとって、マティは命の恩人だからだろうね。
「僕はここにいるね。読み終わったら声をかけて」
「はい。ありがとうございます」
アイン君は、もう既に本に半分意識を取られていた。
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「シリルさん、起きてください」
「ん……?あ、いつの間に寝てたか……」
「おはようございます。色々と、ありがとうございました」
「いいよ。アイン君は禁書の内容、変なことに使わないと、信頼しているからね」
僕は禁書庫の鍵をしっかり閉め、図書館から外に出た。
「アイン君、学園はどう?」
「楽しいですよ。今まで、こういうことをしたことがなかったので、新鮮です」
「マティが迷惑かけてない?」
「そんなことないですよ。血も定期的に分けて貰っていますし……」
「それならよかった」
どうやら、マティはアイン君に手を出していないようだ。僕がそんなことを心配しているのもつゆ知らず、アイン君はホッとしている僕を不思議そうにしている。
「そうだ、もう魔法祭の時期でしょう?今、生徒会は忙しいでしょう」
「はい。でも、僕は生徒会長や副会長よりも仕事が少ないので……」
「マティは将来、この国の王になるんだから、今のうちにこき使っておく方がいいんだよ。これから公務も始まるし、仕事をすることに慣れておいた方がいい」
「僕は……」
「そもそも君は専属護衛でしょう。書類仕事なんて、本当はしなくていいの」
アイン君は、結構献身的だ。それに報いるようにマティが色々と手を回している。
ノア陛下がアイン君に叙爵する準備は、一応できている。あとは、本人の意思くらいなものだ。そこまで手を回すのは、アイン君が将来自分の出自で頭を悩ますことがないように、だろう。
「でも、貴族になれば、少なからず書類は書かなければならないので、僕にとっても貴重な経験ですよ」
「あれ?貴族になりたくないんじゃ……」
「なりたくないですよ。でも、ノア兄さんの胃痛の原因にもなっていたらしく、本気で泣きつかれたので……」
遠い目をするアイン君。本当に嫌なんだろうな……。
「それに、それ以外のものも強制的に受け取らされたので、元々無駄なあがきだったんです」
「ああ、だからか……」
「だから……?」
「ああ、こっちの話だから」
流石に、マティにも外堀を埋められているとは思うまい。アイン君、本当に抜けている所もあるから。いや、流石にそういうところもなくなっちゃったかな。
「アイン君、魔法祭は何に――あ」
「あ」
「きゅぅ……」
やっぱり、男性恐怖症は全く改善してなかったか。
曲がり角でアルフと鉢合わせしてしまい、アイン君は気絶した。それを見てあたふたするアルフ。そういえば、ここはよく騎士団員が使う通路だった。別にアルフでなくてもよかったのに、アルフと鉢合わせた挙句、気絶。
流石に、ここまでよく気絶されて、アルフが可哀想になっていた。
「あ、アインは大丈夫か!?」
「貴方が受け止めてくれたから、大丈夫だよ」
「団長……」
僕がアルフを落ち着かせていると、後ろから声がした。振り返ったら、そこには副団長や他の騎士団員も……。
「団長が子供を虐めて……」
「うわあ、そんなことをする人だったんですね……」
「あれ、その子って……」
副団長が、こそこそと取り巻き?の団員と話し始めた。しかし、しっかりこちら側に声が聞こえている。
ちなみに、副団長は性格は悪いがアルフと仲が悪い訳でもない。堅物なアルフをいつも揶揄って遊んでいる。副団長はアイン君のことも知っている。前にアイン君に気絶されなかったので、揶揄う種ができたと笑っていた。他の団員は、あまり知らなさそうだ。
「しばらく寝かせていたら、回復するからアルフ、診療所に連れて行ってくれる?」
「分かった」
アルフは繊細なものを取り扱うようにアイン君を抱き上げていた。多分、そこまでしなくてもいいと思うが……とは言わず、いつまでも笑い続けている副団長を置いて、看病のためにアルフについていった。




