嵐のような人
「アイン!保護者も来れるって本当!?」
僕がルーと話している時、サティが興奮しながらそう言った。
それに驚いて固まるルー。僕はそんなルーに笑って、サティにこう返した。
「本当ですよ」
「やった!これでヒューの鼻を明かせる!」
……今まで何をされてきたのだろう。
僕は気になったものの、あえて聞かないことにした。ルーも同じ選択を取ったようだ。
「僕も、兄さんはいつも多忙だけれど、たぶんこれそうだって!」
「よかったですね」
「あっ……」
ルーは、輝かんばかりの笑顔から一転、気まずそうな顔をした。
多分、僕に親がいないことに気が付いたのだろう。
「僕は兄や姉のような存在がいますから。彼らが来てくれそうですが、一体誰が来るんでしょうね……?」
「えっと、僕……!」
「気にしてませんよ。しかし、本当に魔術師団長と仲が良いですね。――よかったです」
「へへ、おかげさまで……」
締まりのない笑顔を見せるルーに、僕は内心安心していた。昔成り行きで救ったが、いい結果になってよかったと思っているのである。
「ルー様って魔術師団長の弟だったんですか!?」
「「そこから!?」」
魔術師団長の名前は有名な筈なのに……。ルーファス様も、ルーも、家名がソルセルリー。強いて言うなら爵位も同じなのに、知らなかったのか……。
一応Sクラスにいるのに……。
「なら、風紀委員長と、シエル様、ノエル様が従弟だという事は……」
「えっ!?そうなの!?」
「結構有名な話なのに……」
「三人とも、家名が一緒ですよ。爵位が違うので、流石に親戚と思うでしょうが……」
そもそも、ウィリアムズという名で同じ爵位を持つ家は存在しない。ウィリアムズの本家が、複数爵位を持っていたのを分家に譲ったのが、シエル様とノエル様の家だ。
ウィリアムズなんて言う名前、そうそういないのだから、気づいているとばかり……。
「確かに、ウィリアムという名前もあまり聞かないよね。なんでなんだろう?」
「さあ、僕にはさっぱり……」
「なんの話をしているんだ?」
「ハロルド様!」
僕が首をひねっていると、背後から声がした。サティが声を上げ、ルーが慌てる。
「この国で、ウィリアムという名前を持つ者がいないので……。それについて話していたのです」
「ああ、確かにな。だが、どこかでウィリアムという名前を聞いたことが……」
「どこでですか!!」
「勢い凄いな……。――ただ、うろ覚えだ。すまないな」
食い気味に言うサティに、ややのけぞるハロルド様。一応も何もないが、その人は公爵令息なのだが。
「い、いえ、とんでもないです!ほらサティ、ちょっと落ち着いて……」
「そうだな。落ち着け」
「す、すみません……」
ルーとハロルド様に言われ、少ししゅんとするサティ。……初めて会ったときは、もう少し理性的に見えたが、僕の気のせいだったようだ。
今日も、着席するなりケーキを三つ頼んでいた。四つ目は視線で止めた。
「相変わらずケーキが多いな……」
「これでも、一つ減ってますよ」
「あと二つ減らせば普通になるんだがな」
確かに、普通は昼食を取った後にケーキを三つ食べない。
「い、いつもは四つだから……」
「――普段一日合計で何個食べているんです?」
「あっ!?いや!?」
「いつもケーキの量多いんですね……」
とんでもなく取り乱すサティと、つい敬語になってしまうルー。ルーは、次々にケーキを注文するサティを少し引き気味に見ていた。
「女性に言うのもなんだが……太るぞ」
「ヒエ……」
何を想像したのかわからないが、顔を青くするサティ。どうせ、保護者の誰かにきつく言われているのだろう。
「私って太ってる!?」
「それを僕たちに聞かないでください」
サティ、なんでそんなデリケートなことを聞くんだ。
「……それは、ジェシカに聞け」
「ありがとうございます、ハロルド様!太ったらサージェントに叱られる!!」
「「「……」」」
僕たちは何も言えなかった。嵐のように去っていたサティに、僕たちは顔を見合わせるしかなかった。
だが、きちんとテーブルの上のケーキが綺麗に平らげられているのは、流石だと思った。
「平民の女性は、大体あんな感じなのか?」
「いえ……僕の姉代わりの一人はおっとりとした感じでしたよ。もう一人は勝気な感じです」
「もう一人いないのか?」
ハロルド様は九星全員にあっているから、九星にいる女性があと一人足りないことに気づいたのだろう。
「そのもう一人は元々貴族なので。平民ではないですよ」
ミリア姉さんは、オケディア随一の魔術系の貴族だ。だが、九星に来る前のミリア姉さんは、全くと言っていいほど魔法への才能はなかった。魔法は一族の中で最も好きだったが。
それを、ずっと国内有数の魔術師を輩出していた家門は許さなかったのだろう。
だから、あんな実験のミリア姉さんは実験体になったのだ。
結局、その家も腐っていたため、ノア兄さんに革命のときに潰された。その時ごっそり高位貴族がいなくなったから、それを補うために、陞爵したり、九星や九星に協力したものに叙爵したりしていた。そのうちの一人が僕だ。
「そうなのか?」
やや気になることがあるという顔をしつつ、ハロルド様は僕がこれ以上何も話さないと悟ったのか、なにも言わなかった。
「平民でも、貴族でもそう変わりませんよ」
「なんだかサティは、貴族になっても変わらないと思います……」
むしろケーキの数が増えるのでは?どうやら三人とも同じことを考えていたようで、顔を見合わせて苦笑いをしていた。
その様子を見ていた人がいたことに、ハロルド様やルーはともかく、僕ですら気が付かなかった。




