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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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vs精霊王

「お願いします」

「ああ。手加減するなよ」

「そっちこそ」

僕は、学園から離れた森――スタンピードが起こったところ――で闇の精霊王シェイドと向かい合っていた。

周囲には、火の精霊王サラマンダー、水の精霊王ウィンディーネ、土の精霊王ノーム、風の精霊王シルフィード、光の精霊王ポスポロス、魔の精霊王ラタトスクがいた。



僕の手にはリズ姉さん特製の刀、シェイドの手には闇を凝縮したような刀。僕は、シェイドから発生られる圧倒的な力に、やや気圧されていた。



「魔法あり、人間の致命打となる攻撃を受けること、降参で負け。――いいよね?」

「もちろん」

「審判は僕がやるよ」

ポスポロスが声を上げた。

ルールを決めて、審判も決まった。僕たちは、互いに見つめ合う。


「用意――始め」

僕とシェイドは、同時に踏み込んだ。


氷纏(ひょうてん)!!」

「闇夜」

僕の刀を氷が覆い始める。それと同時にシェイドの刀が迫ってきた。


「くッ」

僕はそれを刀で受けた。そしてその勢いを生かして距離を取る。

そして、刀を振るい、シェイドを氷漬けにする。


「こんなちんけな氷で、俺を拘束できると思うのか?」

「全くッ」

僕は魔力を集めて魔法を撃った。


「シャイニングレイ!!」

僕は光属性魔法を使った。光がないこの状況、できれば闇属性魔法を使いたかったが、闇属性魔法なんか闇の精霊王に通じる訳がない。


「シャドウアロー」

「月夜ノ番人!!」

自分を拘束している氷と僕の魔法を撃ち消し、その上僕に襲い掛かってきた魔法を僕は刀で切り捨てた。

だが、かなり強力だったので、消耗は避けられなかった。


「シャドウランス――アローでこうなら、神話級魔法を撃ったらどうなるか……試してみるか?」

「試さなくて結構です」

僕はそれを魔法で威力を()ぎつつ、刀でぶった切る。


背後から気配がした。右腕が斬られる。僕は右腕をシェイドの刀が当たる瞬間に蝙蝠に変え、斬撃を無効化する。


「それは無効化するのか」

「再生も、時間がかかるので」

僕は、そのまま体を蝙蝠に変えていった。


「これなら、流石に難しいでしょう?」

「……シャドウボール」

蝙蝠たちは、その攻撃を間一髪で避ける。


「鏡花水月――朧」

幻覚を見せる技を重ねる。それにより、効果が上がる!!



僕は、シェイドの背後に現れた。しかしシェイドは振り返らない。


とらえた、と思ったが、シェイドは()()()()()()()()()僕を上回る力で防いできた。


流石に予測しきれず、刀を手放してしまった。そして首に刀の冷たさを感じた。


「勝負あり、だな」

「勝者、シェイド!!」

にやりと笑ったシェイドと、審判のポスポロスの息が合っていた。流石は夫婦(めおと)



「どうやって、鏡花水月を破ったの?」

シェイドに助け起こされながら、僕はそう聞いた。


「そもそも、それは俺が作った剣術だ。いくらでも見破れる。更に、自分よりも下の実力の者なら特にな」

鏡花水月は、簡単に言えば分身術だ。達人であればあるほど、急に背後に現れた気配に反応する。だから、気配を消して近づけば、不意を撃てる、と思ったのだが、シェイドには全く通じなかった。



「それに、今は闇属性魔法の方が強力なのに……」

「と言ってもどの精霊王に撃っても意味ないだろ。他属性でも通じないから」

「え……」

つまり、途中で撃った光属性魔法は意味がなかった、という事……?


「まあ、目くらましとしては使えるか?と言っても、ポスポロスは全く通じないと思うけれど」

「……やっぱり、精霊王が邪神を倒した方が」

「そんな訳ないだろ。力を使う権限は、時間制限があるんだ。流石に邪神を倒すには足りないし、中途半端は一番悪いからな」

「……よく深夜に本を読んで僕の部屋で寝落ちしているでしょ」

「力を使わないから、普通に持つの」

「だから、僕を鍛えているのか……」

「全く力不足だけど、かなり強くなったでしょ」

「力不足……」

僕は精霊王と出会ってからずっと、実力を鍛え続けていたのだが……。確かに、鍛える前と比べて、目を見張るくらいに成長したが、精霊王や神と比べて、大したことのない差らしい。

精霊王たちは笑い合っているが、はっきり力不足と言われ、心に来た。



「時間なんか全くないのに、今まで過ごした時間をいくらかけたって、まだ足りないのか……」

「……そうだな」

 やっぱり、英雄が必要だ。只人も同然の僕なんか、邪神に対してあまり力にもなれない。


九星もそうだ。まだ、実力不足だ。だから、ウィキッドを(そそのか)して刺激してみたが、やっぱり遠く及ばない。それでも、ウィキッド襲来時よりも実力は上がっているが。



「できれば今回で、終わらせたいけれど……。でも、それもいつも言っているんだよね?」

「そりゃそうよ。いつだって終わらせたいわよ!」

「どう頑張ったって、人間は弱いし、魔族の英雄はかなり少ないからな……。まあ、主戦力にはなれるんじゃない?」

「それに、まだ生まれた魔族が成人する時間もかけてないでしょ。最低でもそれくらいは……」

「それをかけれないから、困っているんでしょ。そもそも、自分が成人まで生きれないのに」

「英雄を失ったのがつらかったね……。新たな英雄も、そこまで力がないし」

「元々の英雄も、そこまで強い訳じゃないわ」

「だが、今のより、マシだ」

精霊王は本当に言いたい放題だ。



「うっ……!?」

「大丈夫か!?」

僕は突然の心臓の痛みに(うずくま)るしかなかった。苦しみに耐えるため、土を爪で(えぐ)る。爪に土が入り込むが、気にしない。気にすることができない。


息が浅くなる。脂汗が滝のように溢れ出る。それが土を濡らす。シェイドが背をさすってくれる。唾があまり飲み込めない。


「ポスポロス、解呪しろ!!」

「やってみる!」

そういう会話が聞こえ、心臓の痛みが急に薄くなった。まだずきずき痛むが、何とか耐えれるくらいになった。


「ありがとう……」

「ねえ、今どれくらい?」

「精神汚染の割合を増やしてもらっているから、体へのダメージはあまりないよ。これも久しぶりだ」

「本当に、無理しないでよ」

「もちろん」

僕はウィンディーネに水を出してもらう。その傍らで服を脱ぎ、汗だくになった体を清める。暖かかったので、たぶんサラマンダーが温めてくれたのだろう。

ノームが壁を出してくれたが、そもそもここに近づく人間がいるものか。


シルフィードが水滴を飛ばしてくれ、僕は服を着た。


「ありがとう」

精霊王が集まると、本当に至れり尽くせりだ。



「なあ、まだなのか?」

僕が部屋に戻ろうとすると、ラタトスクがそう聞いてきた。


「……まだだね」

「そうか……」

僕は、しょんぼりするラタトスクに申し訳なく思った。しかし、かける言葉も見つからず、そのままその場を去ることにした。

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