せめて一撃は!
Side Sattie
――ふ、不安だ……。
私は、そこまで強くないと思う。確かに、複数属性持ちで魔法を融合することができる。
魔法を融合することは、かなり難しいが、それをやるだけの価値はある。
まず、複数の魔法の相乗効果がある。
例えば、火属性と水属性を混ぜると、霧を生む爆発を起こす。水属性と風属性では氷魔法を使えるし、光属性と聖属性では、回復と浄化の効果が付与される。
それによって、手札が増えるのだ。だから、一般的には魔法を融合できる人物はかなり強力になる。
魔法の扱いが難しい分、少ない魔力で高い威力を生み出すこともできる。
難易度に目をつぶれば、本当に強力なのだ。
それでも、実戦経験がない私を、マティアス様が選んだ理由が分からない。
それともう一つ。武器必須なのだ。いや、別に盾だけでも武器になるらしいけれど、それでも私はそんなものを持つこともなかった。それに、テンもサージェントもヒューも包丁より大きい刃物を持っているのを見たことがない。
だから、私はものすごく不安なのだ。
最近、アインの槍捌きを見たからかもしれない。
流石にそれと同じようになることは一切考えていない。流石に無理だし。……どうしよう。
という事を、アインに相談してみた。結局、そういう方面で一番頼れるのはアインなのだ。
学園にある食堂で、スイーツという名の賄賂を贈る。アインには、自分が食べたいだけなんじゃ、とジト目されてしまったが、無視することにした。
テーブルの上に合計四つ。そのうち一つはアインのケーキだ。
「成程、確かに、女性は普通武器を振り回すことはないですからね。それに、初めてなら気後れもしてしまいますし」
「そうなの。短剣でいいのかな……。でも、持ったことないし……」
よく貴族の女性が持っているイメージがある。……小説の読みすぎ?
「武器なら、短剣より槍の方が扱いやすいですよ。初心者向けの武器です。しかし、やっぱり刃がついているので、杖の方がいいかもしれません。杖は槍より間合いは狭いですが、槍より軽いですし安全です。それに、素材を工夫すれば魔法を強化できますし」
「別に、魔法主体の人って、武器とか持たないんじゃ……」
「ナイフは普通に持っていますよ。刺し違える覚悟で持っているんです」
「そうなんだ」
全部魔法で解決するから、何も持っていないと思った。でもそうか、杖も武器になるなら、魔法使いはみんな武器を持っていることになるのかもしれない。ほら、魔法使いはみんな杖を持っているイメージがあるから。
自分が杖を持っていないのは、この際無視しておく。
「どっちにします?僕は、杖の方がお勧めですよ」
「学園は、武器を貸し出してくれたりとか……」
「してくれますが、どうやら長剣か槍くらいらしいですよ。貴族は自分で武器を持ち込みますから」
「だから、武器を持ち込むこと前提だったんだ……」
なんとなく納得した。私は平民だから、武器なんか一切持っていないけれど、貴族なら持っていてもおかしくないのか。
「武器は、自分で調達するしかないのか……」
「困ったら言ってくださいね」
アインの優しい声が心にしみる。本当にアインっていい子だよね……。
ちなみに私はケーキ三つを食べ終わっていて、アインは半分くらいしか食べ終わっていなかった。ケーキをもう一つ頼もうとしたら、流石にやめておいた方が……と言われてしまった。
私は渋々アインが食べているのを眺めているにとどめた。アインはものすごく食べづらそうだった。
「本当によく食べますね……」
「甘いものは別腹でしょ!!」
「あまり食べすぎないでくださいよ?それに、夕食入りますか?」
「入らなそうなら、走るから!!それに、ここのご飯美味しいから、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね~」
「……」
何とも言えない表情をするアイン。マティアス様とか、ハロルド様とかなら、太る、とか言いそうなものだけど。
「アイン!」
「なんでしょうか」
食堂のどこかから、聞いたことのある声が聞こえた。そこへ視線を送ると、ラファエルさんがいた。
「俺はお前に絶対勝つ!」
「そもそも戦えるといいですね」
「それを言うなよ……」
「対戦表を見ましたが、ラファエルががんばっても厳しいと思いました」
「え……」
それで、やや呆然としていた。
「4年生と当たらなくて、よかったと思うべきなのか、すぐに僕のクラスと当たらなくて不運というべきか……」
「……だが、相手は3年生だろ?」
「そうなる可能性が高いですね」
「……」
「Aクラスに、もう二人強者がいれば、たぶん大丈夫だと思います」
「が、がんばって!」
あまりに可哀想だったから、応援してしまった。
ラファエルさんは、Aクラスの魔法戦の代表になるらしいから、敵になるだろうけれど。ラファエルさんも、物凄く強いよね……。
「アインは、やっぱり大将なのか?」
「言っていいのかどうか不安ではありますが、恐らく違いますね。メンバーに確認した上、お教えしますよ」
「頼む。――倒す、なんて夢物語は言わない。だが、せめて一撃は入れる!」
「楽しみにしています」
ラファエルさんは、アインにそう宣言する。アインは無表情のままではあるものの、強者の余裕というものが漂っていた。
なんだか、こういう空気いいな、と思った。




