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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified
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母親とクズ

胸糞があります。お気を付けを。

Side Unidentified


「誰?」

「オレだよ、オレ」

私は振り向かず、突然現れた気配に対し、そう問いかけた。そして返ってきたのは、そんなふざけた回答だけだった。


「……人違いです」

「まさかこんなところにいるとは思わなかったな~」

「誰のことを言っているのでしょうか」

「オマエの息子、いたけど?」

「……」

突き抜けた嫌悪で顔が酷く歪むのが分かる。ああ、彼がいないのが途轍もなく不安だ。


「顔、オマエ似なんだな?オマエは天涯孤独(てんがいこどく)だ。あんなところにいる、オマエに似ている存在は、オマエの息子以外ありえないと思うけどな~」

「天涯孤独にしたのは貴方でしょう」

「そう怒るなよ。ほら、熱を分け合う仲だろ、オレらは」

そう言って、全く身動きしない私の方に腕を回す悪魔。蕁麻疹(じんましん)が出る。



「消えて」

「強情だなァ。ほら、一児の親だろ?絆されてもイイと思うけどな~」

「私は貴方を許さない。そして、天音にも絶対に、会わせない」

「へぇ、天音って言うのか、オレの息子は」

その言葉に、どうしても私はこらえきれなかった。


「天音に父はいない!!」

「いるだろ、ココに」

「貴方は、父親でもなんでもない。天音は俺の息子だ!俺だけの……貴様なんかと一切関りはない!!」

「やっぱ猫被ってたか。ソッチの方が、オレ的には好みだけど。あの吸血鬼みたいな言葉使いしやがって」

「あの方を悪く言うのは、やめていただこうか」

「オマエが許すなら、アイツもオレのハーレムに加えてもイイよ?顔は、極上だし。ソレに、性格も気弱で、そこもイイよね~」

私の方に腕を回したまま、その汚い口から飛び出る、下衆な考えに、私はもう耐えきれなかった。


「あの方を穢すな!!」

全力で、聖属性魔法を撃つ。だが、効かなかったようだ。


私を組み伏した悪魔の後ろには、空が見える。にやにやとした表情の悪魔に、私は抵抗をした。


「ヒドいな~。そんなに拒否しなくても、よくない?」

私の拳を軽く避けつつ、そんなふざけたことを言う。


「うるさい!貴様に、何が分かる!!望まぬ子を宿してしまったときの絶望、親に勘当され、兄弟に侮蔑の視線を向けられた屈辱、売女(ばいた)と罵られ襲われる時の恐怖……。貴様には一切わからないだろうな、そこにあの方が救ってくれた時、俺が何を言い放ったのかも!」

「なんて言ったんだ?」

興味津々、と言った風に聞く悪魔。どうせ、私の感情なんか、理解できないに違いない。でも、言いたい気分だった。


「貴方も同じだろう、そう言ってしまった。あの方も、俺と同じ苦しみを味わってきたのに……」

あの方は、幼い頃から男女両方に襲われていた。類まれな美貌を持つ姉を持つ吸血鬼。当然、彼がとんでもない美形だという事も、周知の事実だった。

それに、笑顔が可愛い、と目の前の悪魔のような下衆に襲われるまでに、そう時間はかからなかった。


そんな彼が、ある日突然ふさぎ込み、表舞台から姿を消した。時々垣間見えるあの方の表情は、能面のようで、稀に見る笑顔でさえ、人形のような印象を受けた。

なにがあったかわからないが、婚約者にはかなり心を許しているように見えた。

だが、婚約者は薄情だった。ある日突然、姿を消してしまったのだ、彼の誕生日に。



その時なのだ、私とあの方が出会ったのは。まだ膨らんでない腹の中に、まさか赤子がいるなどと、思えなかった時期だ。家族からも勘当され、侮蔑され、遊び相手にちょうどいいと襲われる。未遂で済まなかったこともあった。


だから、魔族不信になっていた。そして、目の前の人影に、何も考えずにそう言い放った言葉を、生涯後悔する羽目になった。



あの方は、とても優しかった。自分も婚約者に捨てられたんだ、同類だ、と言った。

襲われるのは怖いよね、自分はずっと未遂で済んだけれど、それでも怖かった、と言われた時には、なんだか受け入れて貰えた気がして、子を宿して初めて泣いた。私の頭を撫でる手は、私よりも遥かに小さかったが、暖かかった。


あの方がいなければ、私は天音を生むこともなかっただろう。まともに向き合うことも、なかっただろう。だから、天音に父親はいない。二人親がいるとすれば、母親が二人だ。


私はずっと、そう思っている。目の前の男が、天音の生物学上の父であろうと、絶対に父とは認めない。


そんな強い私の思いが伝わったのだろう。意外にも、その悪魔は苦い思いをした。


「コッチもコッチで、色々とあったんだよね~。天夜、君を迎い入れる準備とか」

「は?そんなものは必要ない。私は、私だけで天音を育てる」

「と言いつつ、天音は側にいないじゃん」

痛いところを突いてくる。本当に、嫌いだ。


「今は、まだ。邪神が倒され、私に危険が及ばなくなったら……」

「そうじゃなくても、天音と会える、と言ったら?」

「は?」

「オレが守ってあげる。天夜も、天音も。これで万事解決、でしょ?」

名案だ、というかのように、悪魔はそう言う。


「貴様の手を借りるのは嫌だ。でも……」

「天音とプライド、どっちを取る?」

そんなの、答えは決まっているようなものだ。私は、今途轍もなく嫌悪の感情がむき出しになっているだろう。


「……本当に、悪魔は嫌いだ。悪魔なんか、みんな死ねばいいのに」

「悲しいな~。愛しい人に、そんなこと言われる日が来るなんて」

そうお茶らけているが、なんだか本当に傷ついているように見えた。意味が解らない。


「自業自得でしょう。貴方の所為で、私は全てを失った。何度でも言って差し上げましょうか?」

「イイ性格してるね~。ソレも、あの方の指導?」

「そんな訳ないでしょう。あの方は、あまりにも優しすぎる。あの方が、貴方のようなクズに穢されなくて、心底ほっとしています」

「昔は本当に、いいとこのお坊ちゃん、ていう感じでカワイかったのにな~。まあ、今も子猫が精いっぱい威嚇している感じで、カワイイけどね」

ゾッとする。特に、奴に掴まれてる腕とか。


ずっと睨んでいると、唐突に放された。


「なにを企んでいるので?」

「別に?」

「は?」

「ただ、翔雲(しょううん)天音(あまね)は金華の放浪息子の子供だと、知らせたかっただけだし」

「は?金華?馬鹿言わないでください。金華なんて、久遠の四大公爵が一つでしょう!!あの方の母君も、同じ……!」

四大公爵家から、こんなクズが生まれる訳がない!!


「オレの名前、初対面から教えてなかったね、ゴメンゴメン」

そう軽く言いながら、片膝を立てて、(ひざまず)く。


「――改めまして、オレの名前は金華(きんか)終夜(しゅうや)だ。オレの嫁になってくれないか、翔雲(しょううん)天夜(てんや)?」

「絶対嫌だ」

当然速攻で拒否した。

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