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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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選民思想の末路

Side Sattie


学園は、決して平民に優しくない。

生徒会長も、能力が認められた上に強力な後ろ盾がついてようやく嫌がらせがなくなったのだ。


アインは、マティアス様にかなり大切にされていることがすぐにわかる。それに、なんとなく立ち振る舞いがただ者じゃないのだ。眠れる獅子の尾を踏みぬく馬鹿はいないだろう。


ラファエルさんは、今は翼がないが、元々翼があった。それにアインと口論の末、元々手を抜いていたテストの点を上げた。Aクラスな筈なのに、Sクラスに入れるくらいになった。いつの間にか翼はなくなっていたが。



しかし、私は何もない。数いる高位貴族を押しのけて生徒会役員になったのだ。当然、彼らにとっては面白くないだろう。


確かにSクラスに入っているが、そこに生徒会に所属していない高位貴族がいる。


生徒会に所属するという事は、かなり名誉なことだ。だから、ただの平民が三人もいるのが許せないのだろう。だが、アインもラファエルさんも、手を出すことができない。

だから、私を虐めて留飲を下げるのだ。



「さっさと生徒会をやめなさいよ!!」

「本当に、ずうずうしい平民ね!」

教室の前で、耳がキンキンする程の大声で怒鳴りつけられる。


それで暴力を振るわれることがないのは、それで何人か告発されているからだ。

まあ、相手が平民だから反省文程度で済むのだが。

軽傷で済んでいるのが、一番大きいかもしれない。



「生意気な……!」

「な、なにをしているの」

突然聞こえた第三者の冷たい声に、一気に視線が集中した。


そこには、確か同じクラスのルー様がいた。

長い前髪の下の眼鏡の位置を直しながら、分厚い本を抱えている。どこかおどおどしている様子は、どこか頼りなく見えるが、正しく私の救世主だ。



「たかが伯爵家でしかない貴方には関係ないでしてよ」

「そうよ!ルーファス様の出がらしが、出しゃばらないで!」

「……それでも、人を虐めるのはよくないです。彼女を虐めるのは、僕が許しません」

「貴方如きが許さなくても、私に関係ないわよ!」

……どうやら、火に油を注ぐことになってしまったらしい。


ルー様に言われて頭に血が上った貴族令嬢――多分、侯爵かな、名前覚えていない――が突然魔法を放ってきた。


「……あぶなっ」

「え、そんな容赦なく!?」

ルー様がスマートに魔法を放ち、令嬢が撃ってきた魔法を簡単に打ち消した。

それが気に入らなかったのだろう、また魔法を放ってきた。それに引っ込みがつかなくなってきたのだろう、更に魔法が飛んでくる。


教室の目の前なので、そこにたまたま居合わせた生徒たちが、悲鳴を上げる。


「キャー!!」

「これ、まずいんじゃない?」

「教師、教師を呼びなさい!!」

「これ、王太子殿下をお呼びした方がよろしいのでは?」

周りがざわざわしてきた。



「こ、これ、停学になっても知らないよ……?」

「いや、最悪退学になるでしょうよ!!」

どことなくのんきなルー様は、冷静に放たれた魔法を処理していく。


「そんなことしかできないんでしょう!?全く、本当にルーファス様の出がらしなのね!!」

「出がらしって、そんなこと……ひどい」

「でも、理解できない訳じゃないから」

殺気から相手はルー様のことを出がらしと呼ぶ。本当に、酷い。それにそうと呼ばれることに慣れている、ルー様もなんだか悲しかった。 



「おい!なにをしている!!」

「貴方も本当にイラつくのよ!!」

「は?ここ、建物内だぞ!!」

ラファエルさんが慌てて魔法を受け止める。……無傷なんだ。


「これ、人に当たったら危ないじゃないか!!なんでこんな時にアインがいないんだよ」

「僕だって予定があるんだよ。――あーあ、もうちょっとゆっくりしたかった」

「なんてのんきな……」

「あ、アイン!!」

「本当にな。――貴様ら、ここまで酷い選民思想は見苦しい。ほら、これを見ている貴様らも、だ。いい加減鬱陶しい。アインに変な飛び火しても嬉しくはないからな。――次こういう事件を起こしてみろ、潰すぞ?」

ぎろりと睨まれた令嬢たちは、泡吹いて倒れた。


「なんだか、機嫌、悪くないかしら……?」

「うん……マティアス様、なんだかキレてるね」

私はルー様と、マティアス様について話していた。


「サティ、対応が遅れました。この名前以外に、見覚えがありませんか?」

「――ありません。でも、この名前……」

「すみません、酷い選民思想を持っている貴族子女を(あぶ)り出すための(おとり)に使いました。しかし、これで以上だと思います」

「い、いえ……ありがとうございます」

私は恐縮した。……本当に、この人強いのかしら?執事と言われても、全く疑わない。


「これ、僕余計なことをした?」

「いえ。彼女らは、よく頭に血が上りやすいので、もしそのままだったら、サティに暴力をふるっていたでしょうね」

「そう、役に立てたなら、よかった。サティさんも、大丈夫?」

ホッとしつつも、私を気遣うルー様。本当にまれにみるいい人。


「はい、ありがとうございます!!」

「知り合いがいじめられているのを見て、僕は見過ごすことはできないから」

「ルー様は、出がらしじゃないですよ!」

「ありがとう」

ルー様がにこっ、と笑った。なんだかその笑顔が可愛く見えた。



「マティ様、早く殺気を抑えてください。皆さんが可哀想です」

「こいつらが問題を起こさなければ、ここに俺が駆り出されることがなかったのにか?」

「無視すればよかったじゃないですか」

「お前がいなければ意味がない」

アインがマティアス様の機嫌を取っている。……さっきまで二人で何やっていたのだろう。


「まだ足りないので、もう少しください」

「フン、そうか。ならやろうか」

場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回してその場を去った二人。その場に残されたのは、気絶した加害者令嬢と私たちと、野次馬……。


「これ、どうしよう」

私は、途方に暮れるしかなかった。

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