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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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可愛いくて生意気な精霊

―――嫌だ、ノア兄さん。僕は絶対に貴族にはならない。

『お願い。この通りだから』

―――面倒くさい権力争いに巻き込まれるでしょ。

『そうならないように尽力するつもりだし、マティアス王太子が多分守ってくれるし……』

―――ノア兄さん?

『とにかく、このままだといけないこともわかるでしょ。貴族に食い物にされるよ』

―――それでも嫌なものは嫌。


僕は、定期的なノア兄さんの催促に、徹底的に断り続けていた。

でも、九星かつ平民の僕は、確かに貴族にとってみれば、権力で何とかなると思う存在だろう。そんな訳ないけれど。


―――僕は、絶対に貴族にならないから。

『あ、ちょ、アイン君!』

僕はノア兄さんが止めるのも聞かずにテレパシーを打ち切った。



「はあ」

少し疲れてしまい、本棚に向かう。そこから流行りの小説の新刊を手に取る。読者の予想を裏切るストーリー。


それをベッドに寝っ転がりながら読む。ちょっと行儀が悪いが、インナーとラフなズボンを着ているので、気にしない。

風呂上がりの髪から落ちた水滴が本を濡らさないように、タオルを適当に頭に被る。



「クシュン」

最近、夜が冷えるようになってきた。やっぱり髪を乾かさないままは駄目だったかもしれない。


僕は渋々タオルで水分をふき取り、読書に戻る。外はもう暗いが、魔法で光を灯せるから、別に問題ない。



僕は黙々と本を読んでいき、ついに読み終えてしまった。だが、いい気分転換になった。


「お前はそういうものを好むのか」

「そういうシェイドも、じっと見入ってたでしょ」

そのままベッドに寝っ転がりながら、さっきまではいなかった、背の高い美丈夫に目を向ける。


紫色の髪と瞳。腰の下まで伸びる直毛の髪は、夜風に吹かれているようにさらさらと揺れる。

そしてその隣にはポスポロス――シェイドより線の細い男性が立っている。金の髪と瞳。短く切りそろえられた髪は、特に明るい光もないのに、光り輝いているように見える。



「人間の娯楽は、とても興味深い。この小説も、とても面白いよ」

「読んでもいいけれど、気を付けてよ。その姿は普段精霊が見えない人でも見えるんだから」

「はーい」

「なんか楽しそうだね」

「パーティーかしら!?もう、呼んでよ!」

「何でその姿で大声出すの……。他の人にも聞こえるから、声を抑えてよ……」

ポスポロスに注意した直後、閉まっている窓から侵入してきた精霊王二匹。


男性の方は風の精霊王、シルフィード。薄緑の髪と布が多い服が風もないのにはためかせている。

女性の方は水の精霊王、ウィンディーネ。深青の髪と、かなり扇情的な服が端に向かって透明になっている。


「別にパーティーも開いていないし、ウィンディーネは活字アレルギーでしょ」

「そう、本の話なのね。――ねえ、何の話?」

「ポスポロスがまだ読んでないから教えない」

「ディーネ、ほら、行った行った」

「そんなに邪険にしなくとも……」

「まあまあ。シェイドも怒らないで」

「次からは、お伺いをたてようか」

「できればお願いね。シェイドもポスポロスも急に来るから、いつも困るんだよね。まあ、人前で話しかけたりしないから、まだいいけれど」

本当に、シルフィードは紳士的だ。ウィンディーネの夫はそうじゃないと務まらないのだろうか。


シェイドもポスポロスも夫夫(ふうふ)で悪ふざけをするから、いい加減ストッパーが欲しい。

でも、彼が来るともれなくウィンディーネが来るから、差し引きゼロだろう。



「おもしろいの~」

「ほんよみたい」

「ひさしぶり~」

「けんかだめ~」

「王は本当に困ったものだ」

「下級精霊より悪い子」

「ぼくたちいいこ?」

「おうはわるいこ!」

「きゃっきゃっ」

「きゃっきゃっ」

「ここは相変わらず平和だね……」

下級精霊と中級精霊の会話は本当にほのぼのしている。ついつい笑みがこぼれてしまうくらいだ。

普段は光の下級精霊と闇の下級精霊しかいないから、水の下級精霊と風の下級精霊、中級精霊が珍しくいるから、余計に楽しそうだ。

それにしても、風の中級精霊は本当に毒舌だな……。



しばらく、精霊王たちの会話を背景音に、下級精霊と中級精霊の間延びした、ほのぼのとした会話を聞く。そんな会話を聞いていると、段々と瞼が重くなっていく。


「ねむい?」

「おねむ~?」

「ちょっと、眠くなってきたかな……」

「ねむいよね~」

「王はうるさい」

「うるさーい」

「本当に精霊王に対しての敬意という敬意がないな……」

シェイドが呆れた声を出す。だがそもそも、下級精霊はともかく、中級精霊もそこまでの知能はない。だが、悪口を言う頭脳はある。


「シェイド、今更でしょ。ほら、下級精霊も中級精霊も可愛いでしょ」

「そう思うのはお前だけ」

「私も可愛いと思うな?ほら、ちっちゃくて身の程知らずで、可愛い」

「それは可愛いのか……?」

僕もシルフィードと同じ意見だ。確かに下級精霊や中級精霊は可愛いけれど、ウィンディーネの感想はない。



「ふわぁ……僕もう眠いから……。みんな、朝までにさっさと部屋から出ていくか、少なくとも顕現しないで」

「はーい」

「わかった」

「わかったわ!」

「おやすみ、アイン」

精霊王たちに見守られながら、僕は夢の世界に旅立った。

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