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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified
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存在するのに存在しない

Side Cyril


「……これ、マティに知らせた方がいいかもね」

久遠の魔王族について、調べていた。別に、目的などなく、趣味の一環としてだ。それに甥であるマティの想い人が魔族というのもあって、興味が湧いたのも事実。


今のところ、アイン君の出自は判明していない。もしかしたらただの平民出身かもしれないし、やんごとなき身分なのかもしれない。だが、もしアイン君が皇月影なら、話は変わる。



「まさか、皇月影の戸籍が存在してないなんて、思いもしなかったよ」

月影が行方不明なことも合わせ、闇を感じる。あのマティの妙に気負った感じ。なんとなく、嫌な予感がして仕方がない。



過去にも、戸籍がない魔王族が何人もいた。いや、存在自体を揉み消されたのを含めると、あとどれくらいいるのか。そのどれもが、悲惨な人生を送っていた。


ある人物は、一生を鎖で繋がれて終えた。

ある人物は、信頼していた人物に、顔をズタズタにされ、一生消えない傷を負わされた。

ある人物は、産声すら上げることが許されなかった。

ある人物は、喉を切られ、声を失った。

ある人物は、散々使い潰された後、民衆の娯楽のために処刑された。最も残酷な方法で。



「もし、皇月影が辿るとするならば、使い潰されたのちの処刑だね」

月影が生かされた理由が分かりやすすぎる。どうせ、血族殺しをしたくないだけだろう。

そして恐らく、月影は全てが終わったら死を望む。それも、処刑を望むだろう。



戸籍がないとは、つまるところ法の庇護下にいないという事だ。魔王族でありながら、何をしても許される存在。


もう既に、生きる希望もないかもしれない。何をされたって、声を上げることは許されないのだから。



「こんなこと、知りたくなかったな……」

今アイン君は、ステラとセオドアに戸籍がある。もしアイン君が皇月影でも、戸籍の面では問題ない。それ以外の問題はあるが。


ステラは、ノア国王が戸籍を作ったからある。セオドアは、まさに先見の明というかなんというか、マティが兄上に執拗に迫っていたのだ。

あの手この手でアイン君の戸籍を作ることを兄上に認めさせようとするマティは、本当に可愛く見えた。対して兄上の意地の悪さが浮き彫りになった。



それに、アイン君に叙爵(じょしゃく)の話が出ている。爵位は最高位の公爵。ステラの話だが、僕はアイン君に受けて欲しいと思っている。それが何より、自分を守る盾になるからだ。


確実に頷かせて見せる、と言ったノア陛下の表情は、本当に悪そうだった。最近は、あともう一押しとのこと。着実に(ほだ)されているようである。


アイン君に舞い込む縁談話も、マティがジークのと合わせて切っては捨て、切っては捨てを繰り返している。

面白いのが、ジークもアイン君も、互いに互いの縁談をマティが邪魔しているのを知りつつ、自分の縁談も邪魔されているとは、夢にも思っていない点だろうか。

いや、マティが邪魔しているのを知っているなら、少しは思い当たろうよ。なんで自分もそうかも、とか思わないの。


大方ジークは自分はマティよりモテないとか、アイン君は魔法で地味にしているから大丈夫とか、そういう風に思っているんだろう。二人とも別に馬鹿じゃない筈なのに、ポンコツすぎる。



そういうジークは、来年から学園に通うことになる。また一人いなくなるのは寂しいが、甥たちの成長が何より嬉しい。だがマティ、ジークやアイン君の縁談をそのまま僕に持ってこないでくれないかな?僕は一生結婚するつもりはないから。


切に望むというか、二人のうちどっちかが止めてくれ。なんで気づかないんだ。



マティも、何やらこそこそしているようである。僕はその内容を知る由もないが、それがアイン君のためになるのだろう。ずっと、アイン君にアルフを近づけさせなかったからね、あの横柄な子がそこまで他人に気遣えるとは思いもしなかったよ。

だから、僕に縁談を持ちかけるのをやめてくれないか。

僕は完全に(とう)が立っているから。三十路男に誰も興味ないでしょ。



――そう言えば、サティと言ったか、あの少女は。



マティに対して日頃困ることをつらつらと考えていたら、とある少女を思い出した。

彼女は桃色の髪に白のメッシュが特徴的な少女で、彼女のみが使える魔法が決め手で学園に特待生として入学することになった。


そして恐らく、九星関係者。けれど立ち振る舞いはどう考えても、アイン君のような軍人のそれはとかけ離れていたし、そういう経験だけで言えば、ジェシカの方が立ち回りは上手いかもしれない。

それに、彼女の身が使える魔法は、もしかしたら異能力なのかもしれない。


ステラ、もといオケディアは、元々異能力者が生まれる国だ。そして九星は全て異能力者。なら、その関係者も異能力者である可能性は高い。



だが、一つ気になるのは、なぜ今更になって、学園に現れたのか。確かに15歳だ、年齢は間違っていない。だが今更、という感覚が強く、何かあるのでは、と勘繰ってしまうのだ。


実際何かあっても、マティが何とかしてしまうと思うが。


だから、気になる。今のところ、マティに一番近い、平民らしい平民だ。アイン君はどうせ次の休みに帰省した時に叙爵されるに違いないから、もう既に僕の中じゃあ現役公爵だ。



もしかしたら、案外何でもないかもしれない。セオドア国民として、実際に暮らしているだけかも……そう思っても無理はないほど、彼女の髪色と能力以外は普通の少女だ。戦争を経験したなら、どこかしらは擦れてしまうと思うのだが。



一応マティも注意しているらしいし、部外者である僕は、放っておくのが一番いいかもしれない。

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