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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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琥珀の旅日記

Side Kohaku


「ここにもいなかったな」

俺の名前は(すめらぎ)琥珀(こはく)。とある人物を探して、世界中を放浪中だ。


そんな俺が今いる国はヤヤディム。養鶏が盛んで、いつでも新鮮でおいしい卵が食べれると有名な国だ。

確かに、この国に入国してから、日中は鶏の声が、ずっと聞こえる。



「うまっ、これいいな。お嬢さん、これおかわり」

「あらまあ、こんなおばさん捕まえてお嬢さんだなんて」

「魔族じゃまだまだ未成年ですよ」

「あらっ、私も魔族になろうかしら、うふふ」

そう言って、ウエイトレスは厨房に引っ込んだ後、おかわりを出してくれた。


「久遠じゃあまり食べられないからな、こういうの。カルボナーラってやつ、初めて食べたけど本当にうまい」

別に、人探しをサボっている訳ではない。腹が減ってはなんとやら。という訳で俺は飯を食っているのだ。


決して、旨そうな匂いに釣られた訳ではない。いや、釣られたけれども、釣られてない(?)。


会計もおまけしてくれた。いい人だ。



腹も満たせたことだし、人探しを再開する。とは言っても、なかなか見つからない。あいつのことだ、どうせ普段は目立つ黒髪を隠しているに違いない。

まじめで気弱なんだが、姉に似て少し考えなしのところがあるからな。前に鬘つけて見事な別人に成りすまされた。


行動が明らかだったので、それで見分けれたが、それがばれて雪影兄上に死ぬほど叱られるとは考えなかったのか。

まあ御影姉上と違ってすぐ泣く彼に、厳しくできなかったと聞き、面食らったのがいい思い出だ。



可愛い可愛い唯一の弟。月影が姿を消したとき、俺は別に慌てもしなかった。


だって月影は、自分で何とかできる。兄上や姉上は知らないだろうが、自分の研究を盗んだ天使に対して、結構厳しい制裁をしている。

それに、ヤリ捨てされた挙句、子供を宿してしまった魔族も秘密裏に保護していた。


まだまだ子供かもしれないが、やっていることは明らかに翠雨より立派だ。翠雨なら、そういう状況に陥ったとき、自分だけで対処はできなかっただろう。

そもそも、月影が研究に没頭したのだって、自分の価値を見出すためだ。簡単に、殺されないように。



妖狐の血を引いた吸血鬼の始祖なんて、危なすぎて赤子の時に殺してしまう。

将来、国を混乱に陥れるよりは、赤子を殺した罪に問われる方がよっぽどましだ。


でも、殺されなかった。

国のために生かされた。そのことを月影にバラした蘇芳が雪影兄上に半殺しにされた。いつもは暴走しすぎた御影姉上を止めるのに、止める御影姉上を振りほどいてまで、執拗に痛めつけていた。

咄嗟に青い顔で震える月影を抱きしめて、耳を塞いだ俺は英断だったと思う。


それからだったと思う。月影の性格が、気弱になったのは。

それに加え、雪影兄上と御影姉上と婚約者の要が過保護になった。それもあって、増々月影は気弱になった。



だから、月影が消えた日、二人は荒れた。あの子が一人でいれる訳がない、早く連れ戻さないと、と。

正直、月影が裏で何をしていたのか知っている俺は、雪影兄上と御影姉上が月影を見つけるのはよくないと思った。だから、俺が月影を探す、と言った。


当然反対されたが、最終的に父上と氷雨(ひさめ)母上、雨影母上、時雨兄上を説得して仲間に引き入れたのは大きかったと思う。

氷雨母上は魔王妃であり、都の中ではかなり発言力がある。雨影母上は実の母親という事もあり、言うことを聞かせやすい。


ちなみに俺の母である瑪瑙(めのう)母上は、一番後に父上に嫁いだ男性魔族で、年も他の妃に対し、かなり若い。



という訳で、俺は月影を探す旅に出た。

正直俺は、世界を知ってみたいと思っていた。だからこそ、この機会を使って思う存分、世界のことを知っていく最中なのだ。世界中の各文化を(つづ)ったレポートも、本国の元へ送っている。

今日は、ヤヤディムのカルボナーラは絶品、と書いておこう。まあ、卵が有名な国の卵料理だからな。久遠じゃあ、あまり生卵は食べれないから、かなり贅沢をした気分だ。

昨日は半熟目玉焼きに卵かけごはん、一昨日はオムライス……次は何食べようか。



「ところで、あいつ、元気にしてるかな?」

俺は、昔エルフの里であった少女をふと思い出した。



エルフの癖に、俺の刀を見て興奮していた変わり者。いつか最高の刀鍛冶になる、と言っていた彼女は、今どれくらいの腕なのか。


まあ、急ぐ旅でもない。この旅の道中に、偶然出会えればそれでいいか。


俺はそう思いなおし、次の旅先を決める。


「今回は、卵が有名な国の卵がどれほどのものか、だったが次は、どうしようか……。酒が有名な国も、麦酒、葡萄酒は味わったしな……。いっそのこと、別のことで有名な国に行くのもありだな……」

「琥珀さん、次の旅の行き先に困っているのですか?」

「実はそうなんだ。――なんか、いい所はないか?」

俺が宿の共有スペースで悩んでいたところ、青年が話しかけてきてくれた。彼は、道中魔物に襲われて窮地に陥ったところを、俺が助けた冒険者だ。それから懐かれて、色々と美味しい店やいい宿を紹介してくれた。



冒険者とは、冒険者ギルドに所属する者の総称で、主に魔物討伐や危険な場所の薬草採集などを生業としている。それ以外にも冒険者ギルドに依頼を出せば何でもやってくれる、何でも屋のような感じだ。



「寂しくなりますが、次の行き先でもいい出会いがあるよう祈っています。――そうですね……次は、宝石が有名なクラテールはどうでしょうか?あそこはとても治安が良く、とても質がいい宝石があるんです」

「宝石か……いいな、いくつか自分用も買いたいな」

「……流石ですね。そんなに安い金額でもないと思うのですが」

「姉貴のご機嫌取りにも使えそうだし、行ってみようか。ありがとな、教えてくれて」

「いえ!本当にあの時は、ありがとうございました!琥珀さんは、俺の命の恩人です!」

「ありがとな。お前も、気を付けて冒険者がんばれよ」

「はい!」

俺はそいつと別れ、宿でヤヤディムでの最後の夜を過ごした。



ちなみに、ここで食べる最後の卵料理は、三不粘(サンプーチャン)だ。幻のスイーツと呼ばれるそれは、優しい甘みと不思議な触感で、とても美味しかった。

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