閑話:生徒のお話
未だにポカポカする昼下がり。がやがやと騒がしい食堂で、昼食をとる。
なんだか、マティ様が普段よりテンションが高い。
「なんだか機嫌がいいですね」
「そうか?」
「はい。何かいいことでもありましたか?」
マティ様が嬉しいと、僕も嬉しくなる。マティ様が一瞬固まった後、僕の頭を撫でた。
「お前は可愛いな」
「か、可愛いって……」
「またいちゃいちゃしていますわ」
「そ、そんな……!」
「嫉妬か、ジェシカ」
「全く。いつ見てもほほえましい光景ですこと」
ほほほ、と笑うジェシカ様に、ちょっと負い目を感じる。
「前より、表情が出るようになったな」
「そ、そうですか?」
「ああ。前は、こんなに笑わなかった」
「……」
「それに、顔も赤くならなかったな」
「そ、それは……!」
何か言い訳をしたくなったが、マティ様に穏やかに微笑まれては、何も言えない。そのままマティ様のされるがままになった。
いつの間にか、食堂内の喧騒が、聞こえなくなっていたことに気が付いた。
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Side student
今、この学年には、王子殿下が二名在籍していらっしゃる、まさに幸運の年だ。普通なら、王太子殿下であるマティアス殿下に、ご令嬢たちが群がるだろうが、そんな光景は一度も出会ったことはない。
理由は簡単。前に殿下にしつこく言い寄ってきたご令嬢に、こう言い放ったからだ!
―――俺はジェシカ以外の女を娶るつもりはない。もし、俺の側室になりたいなら、少なくともジェシカを超えて見せろ。まずはそれからだ。
淑女中の淑女であるグラッチェス公爵令嬢と、傲岸不遜な王太子殿下。お二人とも、とても整ったお顔立ちでもありますし、本当にお似合いで……!
でも、学園でよく見るのは、殿下とその護衛が仲良くしている所だけだ。当然、グラッチェス公爵令嬢と一緒にいない訳じゃない。ちょうど今も、一緒にいるし。けど、殿下と護衛の距離が、とても近いのだ。まるで、恋人のごとく。
だが、そもそも同姓で恋人というのはあり得ない。だから、たまたま距離が近いだけなのかもしれない。
そして、その護衛も平民の筈なのに大変麗しい。殿下が男らしいイケメンなら、護衛は線の細い美人といった感じか。
なんというか、護衛の方が守られてそうな印象を受けるが、あのシモンズ公爵子息を打ち負かしたほどの実力者らしい。
そんな彼は、常に無表情であり、表情が崩れる場面を見たことがない。魔物を倒す訓練でも、汗一つ、悲鳴一つ上げてなく、淡々と処理していたし、倒れそうになっていたご令嬢を颯爽と助けてしっかり惚れられていた。結構筋肉あったとは、彼女談。
背が高いし、声もまあ低い。正直、殿下には劣るが、人気者の一人ではある。
前に男友達と話していたら、殿下には勝てないけど、あの護衛には勝てるかも……いや待てよ?俺が勝てるとこ、身分と愛嬌ぐらいじゃないか?と言っていた。それは右に同じ。
何が言いたいかと言うと、そんな美男美女の中にいても負けない美形が笑うと、かなり破壊力満載という事だ。
美人って、笑い方も美しいよなー、と現実逃避的に思った。ちなみに、卒倒した人もいた。
あんな、幸せそうな笑顔、誰だって見惚れるだろ!
だが、それも一瞬。殿下から殺気を感じたね。天国から地獄とはまさにこのこと。卒倒したご令嬢は、保健室に運ばれて行きましたとさ。
いや、美形の赤面はご褒美です、でも殺気だけはやめてー!!
グラッチェス公爵令嬢も相変わらずお美しい!笑顔最高!
それに、殿下のその笑顔、初めて見たんですが!!普段はゾクゾクとするような、そんな挑発的な笑みを浮かべていらっしゃったのに!
「うわー!!今日食堂に行けばよかったー!!!」
「生徒会の皆さんって、本当にお美しいよな……」
「いや、殿下の周りに美形が集まってるんじゃないか?俺の周りに集まれよ!!なんでこんな、平凡顔しか……!」
「ヒント:類は友を呼ぶ」
「いいか、覚悟はできてるんだろうな!!」
「いや待て、お前は俺と友達だよな?」
「まさか……お前と友達になると、自分が平凡顔になるからパスで」
「よっしゃ、肩組もうか!それで友達な!」
「おおお俺を巻き揉まないでくれええええぇぇぇぇ!!」
「よし、俺は左側だ、お前は右側だ」
「観念しろよ?」
そう騒ぐ俺たちの耳に、女子の声が聞こえる。
「はあ、本当に絵になるわ……」
「私、最初は耐えれたの。アインさんが、笑顔を浮かべるまでは……でも、殿下の表情があまりにも……。それで気が付いたら、保健室にいましたわ……」
「あら、流石ですわね、私の友達なんか、見た瞬間失神していましたわ」
「あまり見慣れていらっしゃらなかったのですわね」
「ええ。だってクラスにいるのが、こんな男だらけですもの……。美形に対する耐性なんか、全く付きませんわ」
「本当ですわね!」
キャッキャキャッキャする女子たちは、可愛い。けれど、内容は俺たちの心を深く抉る。
「俺達だけは、喧嘩しないで慰め合おうな」
「そうだな……」
「どんなに頑張ったって、あの方たちの足元にも及ばないんだ……」
「どんぐりの背比べで喧嘩しても、仕方ない」
俺達は、この日、固い絆で結ばれ、ともに人生の苦楽を経験するが、まさか三つ子の嫁を貰って義理の兄弟になるとは、夢にも思わなかった。




