黒
Side Otto
「うーん、ここだったと思うンだけどねェ」
「もう少し奥だろ。エルフは方向音痴が種族特性なのか?」
リズの言葉に、エリックが煽る。
「はァ?そンな訳ないだろう?ほら、次は右だね!」
「リズ……そこじゃなくて、その次の角を、右」
「……」
ムキになったリズが、近くの角を曲がろうとするが、そこは行き止まりだ。私が指摘すると、途端にリズが静かになった。
「ハハハ、ざまぁねえな!それでこの次を左だ!」
「エリック、そこは突き当りまでまっすぐ」
「……」
エリックがリズを嘲笑うが、そこを通ると遠回りになるのは、地図でもう既に確認している。エリックもリズ同様静かになる。
「なんだい?アンタもその程度なのかい?」
「お前だって間違えただろうが!」
「アタシを散々揶揄っておいて、間違えるなんて、とんだ恥さらしだねェ!」
「俺は一回しか間違えてないし?リズは五回だろ!」
「アンタはそもそも全く道案内してないじゃないか!それで間違えた回数が少ないとか、言うんじゃないよ!」
「……」
また始まった、九星では恒例の二人の喧嘩に、静かになったのは私だった。
「行くよ……二人とも」
「「はーい」」
普段からこれくらい聞き分けがいいと助かるんだけどな……と思いながら、方向音痴の先導をする。
しばらくして、目的地に着く。
「ここだ……」
「え、こんなに普通な家なことあるか?」
「でも、ここだ」
「今のところ、墓地も近くになければ、変に暗い訳でもない。それに、変に成長しすぎた植物もない。――本当に、ここで合ってるのかい?」
「そんなの、あったら、近所から、不審がられる、でしょ」
「そりゃそうだ」
まあ、見れば見るほど普通の家だ。
ラースの屋敷のようにどこかが壊れている訳でもなければ、ミリアの屋敷のように魔法陣の書きかけが放置してある訳でもない。
更に、アインの屋敷みたいに蝙蝠が空で飛び交っている訳でもない。……エリックとリズの屋敷も凄いのだが、ここはそんなこともないようだ。
「貴方たち、誰ですか?うちの前で、騒が、れ、……」
「ア、ア、アンタは!!!」
「なーに、……うるさい。サージ、早く追い払って」
「その声、まさか!!」
目的地の家のドアが開かれたと思うと、出てきたのは羊の角が生えた天パの男。
横長の瞳孔は、動揺で揺れている。
「さあ、話を聞かせて貰おうじゃねぇか、11」
「ほら、10も12もいるんだろう?どういう訳か、聞かせて貰おうじゃないか」
11に嬉々として詰め寄る二人の顔が、獲物を狩る猛獣のそれにしか見えない。11、南無。
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「どうして、ここが?」
家に入れて貰い、大人六人でテーブルを囲う。
10――テンは、かなり暗い青髪で、パステルブルーのグラデーションの髪、瞳は紫だ。
11――サージェントは、プラチナブロンドの髪に、金のグラデーション。テンパの長い髪を金属の留め具でまとめている。瞳はエメラルドグリーン。
12――ヒューは、黒髪にアッシュゴールドのメッシュの髪で、アッシュゴールドの瞳をしている。
席に着くなり、サージェントがそう切り出した。
「06に言われたんでな」
「06か!懐かしいな」
「は?俺たちの居場所を何で06が知ってんだよ」
ちょっと警戒気味なサージェントに、ここに来るよう私たちに命令した人物の名を上げる。
サージェントは納得したように何度も頷いていたが、ヒューは全く疑う姿勢を崩さなかった。テンは……静かだ。
「06の異能力は未来予知だろ」
「そうだが。それ込みで対策してるんじゃねーの?」
「たぶん、そう。でも、06の方が上だったのかも」
「そんな訳があるかよ」
テンの言葉を、速攻でヒューが否定する。
「でも、あの人が裏切るなんて、それこそおかしい。それに、九星は元々仲間だ」
「そうだけどさ、連絡の一つも寄越さないとか……まあ、定期連絡はあるが」
「そもそも、アタシたちは、アンタたちが生きている、という事も今初めて知った。――ともかく、本物かい?」
リズが、私たちが一番戸惑っていることを言った。サージェントは、そんなリズに笑みを向ける。
「そうだね。僕たちは生きているよ。――異能力アルケミスト」
サージェントの異能力は、材料があれば一瞬で薬をつくれる異能力だ。サージェントがテーブルの上に置いてあった薬草を手に取り異能力を発動させると、そこには回復薬があった。
「瓶がないから、ちょっと零れちゃうけど……証明になったかな」
「俺の異能力は、ここじゃ使えねーしな」
「右に、同じく」
「まあ、信じるよ」
ヒューの異能力は、どうやら呪われた人がいないと意味がないらしい。そしてテンの異能力は、ここでやったら、下手を打てばここが半壊してもおかしくない。
「で、なんで死を偽装した?」
「まあ、遅かれ早かればれることだしね、言うよ。――僕たちは、護衛だ」
「「「護衛……?」」」
見事にハモった、とか言っている場合じゃない。
「意味わかんねーか?でも、ここにいねー奴が、一人いるだろ」
「いや、そうだけど……」
恐らく13のことだろう。確かにいない。
「俺たちはあいつの護衛だ。元々あの人体改造計画――トランプ計画は、二段階だったんだ」
「13の切り札……」
「そう。すげーよな、俺たちは13人いて、切り札であり、最後の手段だ。なあ、なんであいつ――皇月影は、俺たちを作ったんだと思う?」
「それは、邪神を倒すため……」
「でも、それには一つピースが、足りない」
「ピースが足りないって……」
テンの意味深な言葉に、ヒューの言葉がリフレインする。
「二段階って……」
「トランプ計画の別名は、英雄計画。英雄を作るために、僕たちは人体改造を受けた」
「それだけじゃない。九星は、皇月影延命のための人材を作るためでもある」
「延命って!!一体、どういうことだよ!」
「皇月影の髪は何色だ?瞳は?それで、思い当たることは?」
「まさか、ヒュー?」
エリックがそう呟く。すると、ヒューがニヤッと笑った。
「俺の異能力は呪い専門。元々の髪の色は、お前らなら知っているだろ?」
「アッシュゴールド……」
「そう。そして、元々黒髪の魔族はこの世に存在しない――」
「まさか!」
「皇月影は、呪われている。あと持って……五年だな」
その言葉に、エリックもリズも、私も何も言えなかった。
自分で選んだとはいえ、家族から引き離され、人体改造を受けた。それから、戦場に立つ日々を送った。
最初は辛かった。今まで、人殺しとは無縁の世界にいたのだから。突然そんな世界に引き込まれ、皇月影を、恨まずにはいられなかった。
そんな彼が、元々呪われていて、持って五年?本当に?でも、彼らの表情を見ている限り、嘘ではないような気がした。




