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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
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乙女ゲームの世界でBLはできますか?!

漆黒→紫

Side Matthias


「マティ、ジーク、今日はお庭を散歩しましょう」

「分かりました、母上」

「お母様、僕は薔薇を見てみたいです」

俺は、母上と一つ下の弟ジークハルト――ジークと共に場内を散歩していた。

ジークの提案で、美しい薔薇が咲き誇る庭園に来ていた。



「明日が楽しみねぇ、マティ。明日はジェシカ嬢をここに連れて来るのよ。きっと喜ぶわ」

「分かりました、母上!」



ジェシカ嬢?


――ジェシカ嬢はグラッチェス公爵の一人娘で、攻略対象者のマティアスの婚約者だ。


いや、なんでそんなことを知っている?


――決まっているじゃないか。ここは――――。



そんなことを考えていたのがいけなかったのだろうか、足元がぐらぐらしてきた。


「きゃあ!?マティ!どうしたのかしら、マティ!?」

「お兄様!」

気づいたら、取り乱す母上とジークの顔を見上げていた。そしてそのまま――闇に包まれた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Masato


「あともう少しでスチルフルコンプだ!」


俺――瀬尾雅人は、今日も今日とて乙女ゲーム『白桃の君に愛を捧ぐ』――通称『白愛(はくあい)』をやっている。

物凄く胸糞悪いルートばかりを残してしまったため、最後はブチ切れてしまったが、それもあと一枚で終わる。

しかし、そのスチルは、入手がかなり難しいものだ。初見はクリアできないだろう。



このゲームは、ヒロインが攻略対象(イケメン)と恋に落ち、イチャイチャしながら強くなって、世界を滅ぼす魔王を倒す物語だ。

その魔王が、それはそれは強くて、たとえ勝てたとしても、ターン制の恩恵に(あやか)っているとしか思えない位だ。


最後の一枚は、なぜかその魔王のことを詳しく知っているアインが死に、魔王の情報が一切ないまま、独力で魔王を討ち果たした後に手に入るスチルだ。

アインの情報がなければ、手に入れることができない強力武器もあるため、一度攻略済みでも難しい。



アインは放っておけば死ぬ。放っておかなくても死ぬ。アインがゲームのエンディングにいたことは一度もない。――それは今回もだ。

今回は既にアインが乱暴されて自殺してしまった。それを描いたスチルを見る度思い出す度に、コントローラーを床に投げつけたくなる。

でも、これを集めない限りアインを幸せにできない。それが俺をやるせなくさせた。



キャラクターが動き、技を繰り出す。漸く、派手なエフェクト共に魔王が倒れる。


「はあ、やっと……!やっとだ!」

最後の一枚を集め終わり、「アインルートが解放されました」と出てきた。


「これでアインを幸せに……!」

「では、それをお前にやって貰おうか」

「貴方なら、きっとできますよ」

自分しかいない筈の部屋から聞き覚えのない声が聞こえてくる。


え……?と思っている間に、俺の視界は急に横になる。まるで、俺が倒れているみたいに――。



――ああ、本当に倒れているんだ。



最後に、金髪の男と紫の髪の男がこちらを見ている気がした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


Side Matthias


「ハッ……!」

俺は自分のベッドの上で目が覚める。安物の固めのベッドではなく、ふかふかの柔らかい、天涯付きのベッドだ。



俺は、死んだ?……いや、死んだ記憶はない。最後は確か、スチルフルコンプした時だ。アインルートを開放したところで記憶が途切れている。


最後に見た男が、アインはお前が幸せにしろ、みたいなことを言っていたのが、強く印象づいている。

俺はアインルートを見ていない。だから、アインを攻略しようとすると、どうなるのか分からない。

というか、そもそも俺だって攻略対象だ。乙女ゲームの世界で男同士はありなのか?


答えのない問いに俺はどうしたらいいか分からなくなる。



百歩譲ってヒロインであるサティならよかっただろう。女に生まれ変わりたいとは微塵も思わないが、アインと恋愛できるのなら別に構わない。


しかし、ゲームではアインとマティは犬猿の仲だった。半身というものをあまり詳しくは知らないが、唯一無二の存在なのだろう。犬猿の仲なのに、唯一無二。互いにそれを酷く嫌悪していた。



「無理ゲー過ぎないか……?」

俺があまりの現実に泣きそうになったところに。


「「「お兄様!」」」

ジークと三つ下の弟イヴァン――ヴァンと、四つ下の妹シルフィア――フィーが俺の部屋に駆け込んできた。



「お目覚めになったのですね!」

「ちんぱいちまちた!」

「お兄様、どこかわるい?」

どうやら急に倒れた俺を心配してくれたらしい。



「別に大丈夫だ。なんともないぞ」

「侍医には問題ない、と言われましたが、突然倒れたので心配しています」

「……」

俺は、今はいつなのか、ゲームに出てくる友人とは、どれくらい会っているのか、気になることはいくらでもある。今呑気にベッドの上の住人と化している場合ではないのだ。

止める弟妹を振り切って、俺は城を歩き回った。



道中で使用人たちが頭を下げる。この様子から、俺が倒れたことは知らないんだろうと思った。日の傾き具合からして、気絶してたのはほんの数時間なのだろう。三日三晩、高熱に魘されていた訳ではない。むしろ寝起きは快調、数時間前に倒れたとは感じさせない。


だが、こんな呆気ない転生にも、一つだけ欠点がある。まあ、最大の欠点は、マティアスに転生したことだが、それを除いても、だ。



「俺は俺様王子からの脱却ができないのか!!」

俺の体は、俺の心情と関係なく人に悪態をつきまくる、俺様王子のままだった。

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