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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密

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粉砕クッキー

最後、ちょっと胸糞があります。苦手だったら即ブラウザバックを。

Side Sattie


――今日は一番乗りだ!



誰もいない生徒会室に、私は得意げに鼻を鳴らす。けれど、それが間違いだったのは、生徒会室に入って十秒でわかった。



「え、あともう焼くだけだよ、それに他に材料もないし。何か要望があるなら、前日に言ってくれなきゃ」

そんな声が、隣の部屋から聞こえる。

声の主はアインだが、誰かと会話しているようだ。相手は、ラファエルさんかな?


「味は変えられるけど……粉は嫌だよ?入れるならエッセンスだね」

相手に頼み込まれて、渋々、といった感じだ。だが、相手の声が聞こえなかった。


「文句言わないで。無理なものは無理。そもそも僕が作るところ見てたんでしょ?なら、その時に言いなよ。――ほら、ここから選んで」

子供をあやすような口調だ。


「――最低でも二つずつ。それ以上はさすがに駄目。――わかった、これね?」

そうして声が途切れ、しばらくしたらオーブンの音が聞こえる。すると、アインがこの部屋に入ってきた。


「あ、いたんですね」

「ええ……」

き、気まずい……。だって、出てきたのアインだけだったし、部屋の中は他に誰もいなさそうだったし!


「あ、あの、いつから……」

「さ、さっき来たの!え、何かあったかしら!?」

「……気を使わせてしまってすみません」

私渾身の演技を、見破った、だと……!?


「サティ、少なくとも嘘を吐くときは、目をそらさないだけでも説得力が生まれますよ」

「……」

私は押し黙った。い、いやー、べべべ、別に嘘つくの下手な訳じゃないんだからね!


私がひとしきりあたふたした後、アインが笑いながらソファに座ることを勧めた。


「ふふ、はやいですね」

「アインの方が早いじゃん。一番乗りだと思ったのに」

「ちょっと、煩かったので。――羽虫が」

「え、羽虫?」

アインは自分の左肩の上を、手で払いのけるような仕草をする。でも、何もいない。


「そこに、何かいるの?」

「ああ、すみません。羽虫と言ったら怒られたので。それに、昨日はクッキー作れ、と言ってきたのに今日はマフィン寄越せ、って。流石に(はた)き落としましたよ」

「それは叩き落とす」

そんな横暴な人、マティアス様以外にもいたんだ。今は姿が見えないけど。



「それはそうと、さっきの話と関係があるのですが、キッチンの上に砕いたクッキーが置いてあるんです、知ってますか?」

「あれやったの、私じゃないです!」

「え?ああ、別の犯人探しをしたい訳じゃないんです。それやったの、僕ですから」

「え?」

確かに、なんか残念なクッキーの残骸――というより粉砕クッキーだが――を見るなーと思ってました。それ以外にも、フィナンシェの残骸とか。でもなんで本人が?



「サティは精霊の存在を、信じますか?」

「信じてる!いたらいいよね!」

「実際にいますよ」

「でもそれ、おおっぴらに言うと笑われちゃうんだよね……いるの!?」

「いますよ。――ラファエルも話を聞きますか?」

「敬語止めろ」

アインの言葉に振り向くと、そこにラファエルさんがいた。彼の顔は、気持ち悪いものを見た、と言いたげな表情だ。


「え!いたの!?」

「さっきな。――で、精霊の存在か?流石にいないだろ」

「証明は……今日もまた砕いたクッキーを置いておいたので、それがなくなれば、ですかね。それに手を出されると、精霊が怒るので、結界を張ってます」

「精霊へのお供え物か?わざわざ砕くなんて、それこそ怒られそうなものだが」

胡散臭そうに表情で、私の後ろに立ったまま話すラファエルさんは、全く信じて居なさそうだった。


「彼ら、体が小さいので、砕いた方が手間が省ける、と。流石に加減はしてますよ」

「まあ、エヴァーゼ先輩がそれを片付けようとして、手を弾かれてたのは見たが」

「なら、伝えておいてください。それ、煩い羽虫へのプレゼントなので」

「一気に物騒になったな、おい」

不穏な空気を感じるのは、私だけではないようだ。


「時には安眠妨害しますからね。知能が低い精霊は素直で可愛いのですが、知能が高くなってくると途端に憎らしくなります。――昔は僕が料理するのを全力で止めてきたのに」

「あ、アインって料理下手だったの?!」

夏休みだって、アインの料理、物凄く美味しかったのに。


「そんな訳ないだろ。お貴族サマでさえ、虜にする味を作るんだぞ」

「本当に駄目でした。きちんとレシピ通りに作っているのに、出来上がるものは全くの別物なんです。

――今は、そんなこともないので、安心してください」

「メシマズって治るんだな」

「そんな訳ない……元メシマズにこの私が、負けるなんて……女子力で、負けるとは……!」

「なんか、ごめんなさい?」

私が完全敗北に打ちひしがれていると、アインがそう口にした。ううっ、悔しいー!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Unidentified


「あーあ、負けちゃったけど、次こそ、必ず迎えに行くね」

オレは、どこかドロドロとした空気を醸し出す。ひっそりと、口が笑う。


「にしても、たぶん息子の方だよね、歳的に」

オレは、学園だ戦った二人のうち一人を思い浮かべる。


「かなり似てたな~色とか、顔立ちとか?」

でも、口には出してみたけれど、案外顔立ちは似てなかった気がする。


「ああ!不機嫌顔が似てるのか!」

アイツは、常に不機嫌そうな顔しかしなかった。


そりゃそうだ。無理やり手籠めにして、孕ませたのだから。


つまり、アイツに似ていないという事は――オレに似ているということ。


「覆面していて、よかったな~。息子と感動の出会いをするなら、流石にアソコじゃないからね~」

俺は緑の髪を揺らしながら、花街に帰った。

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