裏切り者は誰?
Side Lorenzo
俺は、質素な調度品が並べられている部屋で、延々と煩い口を閉ざさない少年を見て、うんざりしていた。
「ペスケ・ビアンケに入れてください!」
「何度も断ってる通り、無理だね」
「何故ですか!?僕は転生者です!なら、ここに入れる条件にも当てはまっているのでは!?」
確かに、ペスケ・ビアンケは、転生者のみを受け入れた情報屋ギルドだ。かくいう俺も転生者だ。
「それだけで受け入れていたら、組織が瓦解するでしょ。内部分裂とかが起こってね」
「俺が、そんなことをするように見えますか?!」
確実に、対立は起こすだろうね。
「少なくとも、ここにいる奴らとは、性格的に合わなそうだからね」
「そんな理由がまかり通るとでも思っているのですか!?労働法違反ですよ!!」
「この国にそんな法律はないよ」
いつまで日本人でいる気なのか。そんな甘っちょろい法律、この世界にある訳がない。それでも、十分労働者に対し、法で守っているが、まだ日本ほどではない。
「それでも、僕は十分ギルドに役立つことができる能力がある!だから――」
「話は以上だよ。さあ、お帰り願おうか」
「まだ話が――」
「ほら、お客様がお帰りだよ!」
「「「りょうかーい!」」」
別にこの少年がいなくとも、ギルドは普通に運転できている。それに、能力で雇うようなこと、うちはしていない。ただの転生者に、そこまで求めてないからね。
「放せ!放せー!!」
「うるさいなあ」
「はあ、またあいつか」
「お、ラファエル、今日は来ないかと思ったよ」
ラファエルはともかく、常に優等生なアインとサティが遅れてきた。何かあったのだろうと言い出したのは、マティアスだ。彼が捜しに行くと言い出し、そこに俺と鉢合わせた。
そのあとすぐに生徒会室に来た三人に事情を聴くと、どうやら学園内に侵入者がいたらしい。そいつを追い払うのに、時間がかかったとのこと。
それに納得できる程、俺もマティアスも甘くなかった。けれどアインが強引に話を終わらせてしまったので、何があったのか、分からずじまいだったのだ。
「いや、今日も来るつもりだった。ああ、あとアインに聞いたからな、頑なに事情を言わなかった理由」
「それじゃあ聞かせてくれるのかい、何があったのかを」
「ああ。それに今頃、アインはマティアスに色々と報告してる頃だろうしさ」
「俺も学園に報告しないといけないし、できれば事細かくに、お願いね」
「分かった。事の始まりは――」
そうして、ラファエルの説明が始まった。
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「――つまり、相手は悪魔で、とても戦い慣れていて強かった、ということかな?」
「そういうこと。アインが少し手古摺っていたしね」
あれが手古摺るってどういう領域だよ。
「そんな奴がもし、貴族の子息令嬢を襲いだしたら、大変だろうね」
「ああ。けれど、たぶん大丈夫そう。アインは、結界に強い人をステラから呼ぶって」
「それって、九星の一人じゃ……」
「”不動の堅壁”だと思う」
本気を出しに来た。しかもそれ、アインだからできることだろ。……あの悪魔は、アインに侵入した場面を見られたことが運の尽きだな。
「それに、侵入者対策用のえげつない魔法陣も張る予定らしいよ」
「それって、前のように気軽に行き来出来ないんじゃないか?」
「あ」
「あ、じゃないよ」
「ま、まあ、アインに何とかならないか聞くしか……」
「なさそうだね」
そもそも、九星二人の本気の入った結界なんぞ、誰が突破できるのだろうか。いや、無理だろ。
「あと、一つ。忘れてた」
「何?これ以上のビックニュースはいらないよ」
「どうやら、彼岸の中で種族別の強さがあるらしい」
「ふーん、じゃあ吸血鬼が一番かな」
天使が二番、と笑いながら付け加える。そんな煽りにラファエルはにっこり笑い、こう言った。
「いや、悪魔が一番、龍人が二番、天使が三番で、吸血鬼は十番らしいよ」
「いや、なんでそんなに誇らしげなんだよ、十位に思いっきり負けてるじゃん、二位と三位が」
「悪魔だって負けてるだろ」
「それもそうか……」
「それは嘘でも俺がいたから、って言ってくれないか?」
「噓だから言わない」
俺はにっこりと笑う。心なしか、ラファエルのこめかみに青い筋が……。
「でも、抵抗はできたんでしょ?なら、ラファエルより圧倒的に上でしょ」
「それは俺がいつも丸腰アインに瞬殺されてるからか?」
「だって、槍を持っていた訳でしょ?」
「それはそうだけど……」
ラファエルが落ち込む。ありゃ、虐めすぎたか。
「あ、もう一つあった!」
「あともう一つが三つくらいか?」
「もうねえよ!!」
「で、何がもう一つ?」
「ゴホン、アインが、あの悪魔のことを、”裏切り者”て呼んでいる」
「”裏切り者”か……」
「もう何人もいて、そのうちの何人かはもうこの世にいない感じだった」
「それはどうしてそう思ったんだい?」
俺の質問に、ラファエルは一瞬間を置いて、こう言った。
「だって、捕獲からの尋問、拷問の流れが、かなりスムーズだったから。それに、”裏切り者”の断定も早かったし。だから、もう既に何人もの”裏切り者”がいるんじゃないかって」
「そういうことか……」
「そう。”裏切り者”は、どうやら魔族は魔王側につくのが当たり前らしい。わかりやすく言えば、九星の敵でもある、邪神の敵側につくのが。でも、あの悪魔は邪神の味方をしていた――らしい」
「だから、”裏切り者”」
「そう。なあ、おかしくないか?」
「ああ、おかしいな」
ラファエルも、気が付いたようだ。
ラファエルの説明には、矛盾があった。それは、説明では魔王の味方をすること≠邪神の味方をすることだが、ゲームでは魔王の味方をすること=邪神の味方をすることだ。
アインが前に、魔王と邪神は同一人物ではない、と言っていた。けれど、ゲームでは同一人物だった。
一体どっちが間違っている?ゲーム知識は、どこからどこまでが正しい?俺たちは、このままで本当に大丈夫なのだろうか?
不安しかない。それでも、時間は止まってくれない、だから、がむしゃらに進むしか、方法はない。




