秘密の暴露
Side Noah
ラース君は、確実にアイン君の秘密を知っているのだろう。
ラース君は、野生の勘がかなり鋭い。だから常に警戒心が高いアイン君が、ラース君に秘密を知られてしまったのだろう。
それに、ラース君は彼岸だ。僕たちよりもアイン君の考え方がよくわかるのかもしれない。
だが、ラース君はそもそも秘密を守るのが苦手だ。彼岸の特徴なのか、と言いたいくらい素直なのだ。
前の問答でも、アイン君の秘密を知ってますよ、という答えを聞けたし。
僕がアイン君の秘密を知りたいのは、あまりにもアイン君と月影の共通点が多いからだ。
黒髪緑眼、吸血鬼、精霊が見える。……そうそういない。
まあ、下手に髪色とかを隠すより、変装しない方が怪しまれないか……。それを見越していたのかどうなのか。単純に負担が大きすぎたからかもしれないが。
見た目を変える魔法は、見た目を変えれば変えるほど、負担が大きくなる。ちょっと目立たなくするくらいなら、そこそこ維持できるが、髪や瞳、顔の造形まで変えるとなると、維持なんて現実的ではない。
アイン君やミリアちゃんなら、もっと簡単に維持できるらしいけれど、それでも色を変えるのはさすがに現実的ではないらしい。
ちなみに、髪の色も染めることができるが、僕たちは髪が綺麗に染まらない。アイン君はだから姿を見せない暗殺者になった。
「ラース君、さあ、話してもらおうかな?」
僕は、ラース君を拉致して笑顔でこの前見逃してあげていたことを聞くことにした。
「ちょっと用があって!!」
「僕、ラース君とゆっくりじっくり話せるように、予定を調節してきたんだよ?」
僕は焦るラース君の逃げ道を塞いだ。
「分かったさ!言うよ!ただ――九星の誰にも俺がばらしたことは言わないで欲しい。特に――ミリア。アイツは、これを知れば、かなり複雑な思いをするだろうから」
「いいよ。約束する」
「じゃあ――」
僕は、ラース君からアイン君が抱えていた秘密を聞いた。なるほど、なんとなくわかった。
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Side Lars
俺は、長年抱えてた秘密を、ノア兄に共有したお陰か、なんだか晴れやかな気分になった。
やっぱり、俺は隠し事には向かない。
こういうのは、頭のいい連中がすることだ。
俺は自室のベッドに倒れこむと、さっきまでのノア兄との会話を思い出す。
―――アインは昔、昏い目をして、何事にも犠牲者はつきものだ、と言ったンだ。
―――”何事にも犠牲者はつきものだ”?
ノア兄は、不思議そうな表情をした。
―――そ。そン時俺、何言ってンだ、ぐらいにしか思ってなかったけど、たぶん、そのことだったンだろーな、て。
―――……元々、そういう疑惑は、あった。
渋々、と言った風にノア兄は教えてくれた。多分、ノア兄の中でも、何かが繋がる感覚があったのだろう。
―――やっぱりか?でも、これで確定したろ。あいつの立てた計画。その行き着く先。
―――でも、なんでこんなこと……。
―――大方半身に拒否られたンじゃねェ?それか、拒否られると思い込んでンのか。
それしか思い当たらない。俺は、権力とか、そういうの全くわかんねェし。
―――僕の行き着く先と、彼が行き着く先は、どうやら違うらしいね。
―――違っててくれ。俺だってごめんだ。
俺の切実な願いだ。聞き届けてくれると、嬉しいが。
―――それに、ただそれは逃げているだけだからね。現実と向き合って、問題を解決しなきゃ。
―――アイツ、なんとなくだが思い込みで突っ走りそうなンだが。
―――そうだと思う。それに、たぶん今どうしようもないんじゃないかな……。
―――どういう意味だ?
意味深なノア兄さんの言葉に、俺は少し焦る。
―――元々黒髪の魔族は、この世に存在しない。
―――存在してるじゃねェか。
―――ラース君、黒はね――。
こんなにも聞きたくない真実があるだろうか。
こんなにも、この世界は無情だっただろうか。
なんで、この世界は――。
誰よりもこの世界を救うために心を擦り減らしたやつを、残酷な方法で殺せるのだろうか。
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Side Unidentified
「未だ、英雄は現れない、か」
私は、ウィスキーをグラスに注ぐ。それを一気に呷るが、酔った試しはない。酒を飲んで、いつも酔うのは、いつも酒を飲んでいないあの方だった。
本当にあの方は、酒が弱い。飲んでも飲んでも一向に酔わない私と、酒の蒸気だけで泥酔する彼。
普段見せない隙を思う存分晒している彼が、とても可愛らしい。
そんな思い出に浸った。でも、もう二度と訪れることはないだろう。だってあの方は、死ぬ気だから。
全ての問題をいっぺんに解決する方法として。そんなの、無駄でしかないのに。
でも、その問題が厄介であることは知っていた。それに彼は、ずっと昏い瞳をしていた。まるで、何かに操られているかのように……。
だからこそ、私は彼の本心が知りたい。それ以上に、恩人なのだ。私と、私の息子の。
救われて欲しい。そう思ってしまうのは、私のエゴなのだろうか?
それでも――。
「英雄さえ現れれば、もしかしたら、あの方を救えるかもしれない」
英雄は死んだ。なのにそう思い描いてしまう。英雄は、この世界の希望だ。
だからこそ、ありもしない幻想を思い描いて、その希望に託してみても、文句は言わないよね?