表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密
123/185

魔王太子の苦難

Side Shigure


父上が臥せっている部屋のふすまを静かに開ける。そこには、教則にもたれかかる父上がいた。


「父上、気分はいかがでしょうか」

「ああ……。大丈夫だ」

然様(さよう)で。――未だ、月も論文も見つかっておりません。そして――彼も」

「佐倉の家は、煩くて敵わん。だが、佐倉の家に先祖返りが誕生したのは、何かの運命だったりするかもな」

父上のその言葉に、冗談でなく顔が引きつる。


「ご冗談を。どうせ、半身でない彼岸同士、上手くいく訳がありません。ましてや、二人とも吸血鬼なのですよ?」

「そうだったな。上手くいく訳がない」

朗らかに笑う父上だが、ふと心配そうな表情を見せた。



「私の最も心配しているのは、月影だ。あの婚約は、次月影が帰ってきて、離宮で暮らすとき、解消するのだろう?」

「はい、そのつもりです。少なくとも――突きを置いて消えた彼は、もはや信用なりません」

「はは、彼は魔王太子に嫌われたようだな」

僕はバツが悪い顔をしつつ、話を変えることにした。



「父上……もう」

「ああ……あまり長くは持たないだろうな」

「…………あと如何ほどで」

「持って5年。少なくとも――3年だろうな」

「それを避ける方法は」

「ある訳がないだろう。むしろあったら、先人たちがとうの昔に実行している」

その言葉に、僕は沈黙せざるを得なかった。



父上は、とても優秀な魔王だった。それこそ――僕がまだ、即位するのに躊躇うくらいには。



「御影は、相変わらずか?」

「ええ。相も変わらずに、ちょっかいかけてきた貴族令息を拳で返り討ちにしております」

「それはそれは。――全く、御影はお転婆だ」

「お転婆など、可愛らしい言葉で表現しないでくださいよ。あのじゃじゃ馬は、また蘇芳(すおう)と喧嘩をしましたよ」

「月影のことでか?」

「はい……」

三男である蘇芳は、末弟の月影をあまりよく思っていない。兄弟間での対応に大きな格差がある。

そして蘇芳や三女である(あずさ)、七男である翠雨(すいう)は特に酷い。


それ以外にも理由はあるが、月が気弱な性格になった。別に、父上も同腹の兄姉である雪影、御影そして、彼ら三人の生みの親である雨影母上は、気弱とは正反対の性格をしている。

むしろ、皇家で気弱な性格をしているのは、月しかいない。


逆に月に好意的なのは、僕、長女の梅、次男の雪に次女の御影、そして八男の琥珀だ。

後はほとんど無関心だろう。流石に、月影が他の兄弟に泣かされていたら、止めるくらいはするけれど。


「まだ、下の子供は手がかかるな」

「琥珀もとっくに成人しているのに……兄弟で何やってるんだか」

「そう言ってやるな。あの子たちも、複雑なのだろうさ」

「でも、やっていいことと悪いことがあります。それに、成人済みが幼い子供に寄って(たか)ってみっともない」

僕は大きなため息を吐く。正直、御影が起こる気持ちもわかる。だからこそ、御影を強く叱る気にはなれないのだ。まあいつも叱れないけれど。

雪がいつも叱ってくれているし、あの時も喧嘩両成敗でしばらく氷漬けだったから、僕はそれに甘えさせてもらってる。


「まあ、可哀想、と言って鳥籠(とりかご)に閉じ込めておくのも、私は違うと思うけどな」

「……」

突然の言葉に、思わず押し黙ってしまう。


「月影も立派な彼岸だ。当然、自衛はできるさ」

「でも、それは今の話であって――」

「今の話だからだ。時雨、今月影が帰ってきた時、風月宮にまた閉じ込めないか?あの子の意見も何も聞かずに」

「それは……」

恐らく、ではない、絶対に、する。むしろ、そういう計画もあるくらいだ。


「あの子はもう強い。それを琥珀以外誰もわかっていない」

「……僕の中では、いつまでも可愛い弟です」

「だからわかっていない」

言うことを聞かない子供に言い聞かせるように、父上は言った。


「月影は、彼岸で始祖だ。吸血鬼ではあるものの、久遠の誰よりも強い存在。時代が時代なら、月影が魔王太子だ。――そんな月影を、可愛いから、と言う理由でまた閉じ込めるのか?要はもういない。天夜だってそうだ。なのに、月影は昔のままなのか?」

「それが、あの子の――」

「ため、じゃないだろう?彼岸だからな、半身が必要だ。それに、可愛い子には旅をさせよ、とよく言うじゃないか。もう、自分の意志で何も決めれない子供じゃない。――月影は、外の世界を知っている。なら、それなりに経験を積んでいる筈だ。信じてやれ」

信じてやれ。その言葉が、深く胸に刺さる。



――そうか、僕、月のためとか言って、月を全く信じていなかったんだ。



「父上。僕、月を信じてみることにします。そうですね、月は小さくて、可愛くて、気弱で、誰かが引っ張らないと何もできないような子だった。でも、月は僕の知らないところで成長している。もう、僕の知っている月は、いないんですね」

「なかなか性根は変えられん。だが、経験は行動を変える。――みんな、小さい月影について争うから、争う。それに、月影が自分のことで兄弟が喧嘩漬けなのは、自分を責めそうだ」

その情景が鮮やかに思い浮かぶ。思わず苦笑してしまった。


「そうですね。御影に釘を刺しておきます。――父上、ありがとうございました」

「こういう会話も、いいな。これが、もっと続けばいいのだが」

父上の瞳が、寂しそうに揺れる。僕も、少ししんみりとした気持ちになったが、気持ちを切り替えて、父上を元気づけるように言う。


「……できる限り、会話をしましょう。僕はまだ、父上に聞きたいことがあるので」

「そうか。それは嬉しいな。次は、弟か妹を連れてきなさい。――梅も気負っているようだし、梅がいいかもな」

「伝えておきます」

梅も、僕と同じく気負っている所がある。雪と御影は、御影のやらかしに雪が起こるという感じで、ストレスが発散されてそうだ。いや、雪は差し引きゼロかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ