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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密
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精霊学者はほぼ詐欺師

あれから、ハロルド様はオストワルト様との婚約の話で、忙しそうに見えた。

どうやら、オストワルト様曰く、嵌められた、と。



あそこにいた男性は、思い返してみれば見るほど、おかしかった。普通なら、相手の婚約者に浮気がばれて、取り乱さないことはない筈なのに。

それに、彼について、一度も話題に上がっていない。強いて言うなら、オストワルト様が、嵌められた、と言うくらいで。


それに、気配もそうだ。あの時は、気が動転して気が付かなかったが、あの気配は――彼岸だ。それも、久遠から国外追放処分を受けたようなならず者ではなく……きちんと、力の使い方を習った魔族だ。


ラファエルや、ウルガのような、真っ向から正面衝突するような戦法を取らない――吸血鬼のように陰湿な手を使う相手だ。何故、そんな存在がこの国の高位貴族に手を出すのか。


情報が欲しいにしても、百害あって一利なし。どうせ、久遠を――皇を裏切った魔族が欲しい情報とは、月影の居場所、ひいては彼の完璧な論文の在りか。それだけだ。


今のところ、必ず月影を殺し、論文の中身を確認しなければならないウィキッドに対し、こちらは最悪月影も論文も見つからなければいい。――そう、保護は絶対条件ではないのだ。


月影は始祖であり、寿命がないに等しい彼であれば、生きている限り何度でも起死回生を遂げることができる。論文も、月影がいつ限り、あまり重要ではない。それに、そもそもの問題、読み解けるかどうかという問題すらある。不完全な論文でさえも、世の精霊学者は理解しきれていないのだ。


ウィキッドは、そんな状況を覆したい。だからこそ、今の魔王に反感を持つ魔族に、次々に取り入っているのだ。



元々魔族は、強者至上主義だった。だからこそ、そんな彼らを統べる王は、代々皇の彼岸が務めていた。

そして、彼岸の中でも別格な始祖と呼ばれる彼岸は、その皇の親族の中から世界に一人以上は誕生し、その始祖が魔王を務めていたのだ。


始祖は、何故だか世界に必ず一人以上存在する。それが、吸血鬼でも、鬼人でも、天使でも、とにかく一人以上。だが、そんな政治にも、問題がない訳がない。と言うより、問題だらけだった。


魔族は、始祖に近ければ近いほど、出生率が悪くなる。その上、彼岸は半身以外をあまり受け入れない。そのため、魔族の人口がさらに少なくなる。そもそも往来で殺し合いに明け暮れているのだ、治安どうこうの問題ですらなく、今もある、彼岸が自分と同族の殺し方を隠すというのは、全てはそこから来ている。


その方法以外では殺すことができない。そして、考えたってわからない殺し方が多すぎるため、情報さえ出回らなければ、彼岸はほぼ無敵になる。



しかし、国として成り立っていないのは、誰の目からも明らかだった。そこで、とある代の魔王が自分の後継者に此岸の息子を任命した。反発があったが、それも若い者だけで、多くの魔族はそれに賛成していた。

その此岸の息子こそ、現魔王の父なのだ。



未だに此岸が魔王を務めることを気に入らない魔族もいる。その魔族が、ウィキッドに取り込まれているのだろう。

そういう魔族は、総じて血気盛んでわかりやすいのだが……。



――あの彼岸は、恐らく悪魔。なら、もうとっくに人間の大量虐殺をしていてもおかしくない筈……なのだが……。



考えれば考えるほど、得体のしれない存在だ。

だが、恐らく奴が戦いを仕掛けても、僕が勝つ。最悪、生け捕りにできないかもしれないが――。



そう思い直し、今日の学業に集中することにした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「次は……魔法論理学ですか……」

「嫌そうだな」

「そりゃそうですよ。一度、教師を完全に論破してしまったのですから」

マティ様が、苦い顔をする僕を見て笑う。

そう、あれは、この学園に入学して二月後のことだ。



元々、魔法論理学とは、精霊学の一種だった。魔法で例えるなら、火属性やら水属性やらが、精霊学やら数学やら、考古学やら。そして火属性の中でも、ファイヤーボールやら、ファイヤーアローが、精霊論理学や、魔法論理学。

一口に精霊学と言えども、かなり括りが広いのだ。


だからこそ、精霊学者は自分で精霊学者と名乗らない。精霊の生態に詳しい学者に、魔法について聞いたところで、答えられないだろう。その逆もしかり。


しかし、皇月影が世界で一番天才だと言われるのは、まだ10歳前後で精霊学全てを研究し、久遠に大きな貢献をもたらしたからだ。


誰よりも精霊に愛された男と称された彼は、精霊から答えを聞いていた。そのため、精霊学全体に精通しているといっても過言ではない。……元々の地頭の良さも、天才と呼ばれる所以(ゆえん)だろうが。



そういう経緯かつ、それが正しいと他の研究者によって証明されたので、今は精霊学の説が正しいとされている。それでも精霊学がニッチなのは、完全に才能がものを言う世界であり、才能がない精霊学者はただの詐欺師だからだ。


僕はそれを知っているからこそ、精霊学から逸脱してしまった魔法論理学は正しくないと知っているのだ。



そういう事情を知っているのが顔に出ていたらしく、マティ様に指摘され、僕は正直に答えた。それを聞いたサティが驚き、サティの驚きの声を聴いた教師が怒気をたぎらせながら説明を求め――。僕が自分の考えを披露する羽目となったのだ。


研究者として、学園と言う教育機関で嘘八百を聞くとは思わなかった。――精霊の存在が、それだけ信用されていない、と言うのもあるだろうが。


それに動揺かつ、研究者特有の嫌悪感を必死に隠してきたが、マティ様にはすぐにばれた。ただそれだけではある。

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