信用できるかできないか。仲良くできるかできないか。
僕はあの後、反逆の意図なし、と判断されたため、足枷を外された。しかし、トラウマを刺激すれば、暴れる可能性が高いため、僕は僕が寝ていた部屋に軟禁されていた。
――僕は何で、王太子を信用しようと思ったのだろう。
別に軟禁されている現状が嫌だった訳ではない。むしろ、何もしなくていいのはいい。ただの純粋な疑問だ。
あの事件の後、僕は九星以外を信用できなかった。したくもなかった。
幾ら半身とはいえ、簡単に信用するのはいかがなものだと思う。
――九星以外は、信用できない。僕を使い潰すに決まっている。僕に体罰を、飲みたくもない血を無理やり飲まされる。
九星に僕の状態を知られたら拙い、それを分かっているからこそ、僕は常に肌が露出しない服を着ることを強要されたし、傷を見せて治して貰う、ということもしなかった。
僕は、回復魔法を使えない。結果、僕の体は傷だらけとなった。
おまけに、度重なる戦争で、オケディアの財政は逼迫していた。少しでも経費を削減するため、僕の食事は捕虜の血となった。
しかし、どの血も美味しいとは限らない。まず、自分と同じ属性がないと、話にならない位不味い。
僕の場合は、光と闇だ。別属性があると、時には体が受け付けなくなる。
次に、自分に合う魔力量を持っていなければ、幾ら同じ属性を持っていたとしても、全て台無しだ。少すぎれば物足りなく、多すぎれば胃がもたれる。
僕はどの捕虜の血もあまり美味しく感じられなかった。光だけ、闇だけ、という人間もチラホラいた。光と他の属性、闇と他の属性という人間もいた。しかし、光と闇はいなかった。
理由は簡単だ。この世界には魔法があり、個々人が使える魔法は違う。
まず、魔法には属性というものがあり、その属性の魔力を持つ者のみが、その属性の魔法を使える。例えば火属性しか持っていない者は、火属性の魔法しか使えない。その中でも、得意不得意、使える使えないが存在する。
属性は全てで8つ。火、水、土、風、光、闇、聖、魔。火が一番多く、魔が一番希少だ。だが、火、水、土、風はそれぞれの数はあまり変わらない。一方で光以降はグッと数が少なくなるし、聖、魔は国に一人いるかどうか。単体でさえそれなのに、二属性だともっと厳しくなる。
そもそも人間の中で、魔法適性がある人間は半分しかいない。二属性はその中の十分の一以下だ。詰まる所――。
――僕、よく正気でいられたな。吸血鬼は、幾ら血を飲んでいても、粗悪な血しか飲まなければ狂うものなのに。
吸血鬼は、定期的に血を吸わなければ吸血衝動が理性を覆いつくし、やがて狂い死ぬ。一応、酷く不味い血でも量を飲んでいたからだろうか。不味い、ということは粗悪な質の血の筈だが。
そういえばあの頃、時々平民が襲われていたのが問題になっていたが、解決したのだろうか。被害者は全員首に小さな傷が二つあったらしいが、人間を襲ってその証のように傷をつけるとは、酔狂な人間もいたもんだな。
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Side Matthias
寝起き、推しの顔があった。良かった、取り乱していないようだ。
「おはよう、アイン」
「……」
アインが首を小さく傾げる。
――ああ!可愛い!朝からこんな推しの可愛い顔ありがとう!
「ああ、そう言えばあの時気絶してたか。あの後叔父上が来て、“絶対零度の司令官”に名付けを頼まれたと聞いた。だから今日からお前はアインだ」
少し複雑そうにしていたが、頷いていた。可愛い。
「という訳だ。どうやら“絶対零度の司令官”も名前を考えたらしい。番号じゃなくてノアと呼んで欲しいそうだ。……番号で呼び合うって嫌な感じがするな」
アインが俯いた。あれ?失敗したか……?
まあその後、じっと見つめる俺にキョトンとした顔をしていた。
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――数日後
俺は月に一度の婚約者とのお茶会を開いていた。
「マティアス!マティアス!それで、どうだったの!?」
興奮しながら進捗を聞く婚約者――ジェシカ・フォン・グラッチェス公爵令嬢は、実は俺と同じく元日本人の転生者だったりする。
「まだ会って話した程度だ」
悲しきことに。今話題に出ている人物――アインは声が出ない。だから会話できないのが悲しい。更に、未だ警戒心が強く、料理もサラダ以外は口につけていない。しかもご丁寧にドレッシングのところは避けて。
食べなきゃ駄目だから取り敢えず食べれるものは食べよう。そんな感じだ。城のシェフたちが泣いてた。
「暗殺者だからね。毒を食べ物に仕込んで殺す、なんてこと、やってきたのだろうし。自分もそうされるかもしれない、と考えているのかもしれないわ」
「可哀想すぎて血をやった。一昨日は少し貧血気味だったな……」
「まあ、大変ね。そんなマティアスに朗報よ。アインはマティアスに逆らえないわよ」
ジェシカが不思議なことを言った。
「どういう意味だ?」
「あら、知らない?マティアスとアインは半身なの。もう何度かアインはマティアスの血を飲んだんじゃない?」
「ああ」
俺は頷いた。
「だったらもう、アインはマティアスに逆らうことはできないわ。なにせ、アインにとってマティアスの血は極上。その味を知ってしまえば、もう後戻りはできない。他の血を、幾ら吸ったところで、本能的な飢餓感は拭えないし」
「それは、本当か?」
「ええ、そうよ。私は『白桃の君』の製作チームだったから」
彼女は知っている。この世界について。俺よりも。
アインとイチャイチャしたい王太子の俺と、俺の弟であり、この国の第二王子、ジークハルトと結婚したい王太子の婚約者。俺たちは、互いに俺たちが出合う前日に前世を思い出した――。




