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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密
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「傷は残ってないかな?」

「うわ……完璧に治ってやがる」

「うン、だイじョウぶ」

首をお互いに確認し合ったり、シャツを脱いで左胸を確認したりして、彼岸の回復力にドン引きしたりしていた。


「ならよかった。――あまり服を脱ぎたがらない彼岸がいたら、注意した方がいい」

「なんでだ?」

「傷が残っているかもしれないから」

「はあ?なんで注意した方がいいんだ?タトゥーと一緒か?」

「刺青を入れている人間よりよっぽど危険だね。――それは、かなり酷いトラウマを患っているからね」

僕は、無意識に左腕を少し強く掴む。


「そういう彼岸は、下手に刺激をすると、錯乱して攻撃をしてくる可能性がある。だから、気を付けて」

「お前は?」

「僕?」

ラファエルの問いを、思わず聞き返してしまう。


「そう。お前は古傷、あるのか?」

「……どうだと思う?」

「別に古傷ぐらい、俺は何とも思わないけどな」

「……簡単に言うよ」

僕は、誰にも聞き取れないくらいの声量でそう言った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――8年前


目の前には、敵の大軍が迫っていた。ここを落とされたら、今後の戦略に支障が出る。どうやら、九星がいなくとも勝てる、と踏んだ一部の上官が暴走し、負け戦が続いていたらしい。


そもそも、領土が狭いのに碌に異能力も使えない。そんなの、普通に勝てる訳がない。

ちょっと魔法を使える人が多いだけで、簡単に勝てるほど、戦争は易しくない。



僕は、自軍と敵軍が一触即発になっている場所に割り込んだ。自軍も敵軍も突然の僕の登場に動揺を隠しきれない。



「こ、子供……?」

「こんなところに……?」

僕は、当惑する敵兵たちの声を無視し、腕まくりをする。


「な、何をしている!!!」

服の下から出てきたのは、無数の切り傷がある腕。僕は容赦なく、懐から取り出したナイフでそこを切る。


「お、おい!」

勢いよく血が溢れ、服が汚れる。僕は、ゆっくりと腕を下ろした。腕を伝って、血が手を赤く染める。


「ま、待て!あの髪の色、軍服のデザイン……まさか!!」

僕は、血を彼岸の力で飛ばした。逃げ出した敵兵の頭を、次々に打ち抜く。


戦場に、大量の血が流れる。まさに、地獄の風景だった。



「ば、化け物……!化け物がぁ!!」

僕は無感情に、大声で喚き散らす男の脳天を撃ち抜いた。



その風景を見た自軍の兵士の一人がこう言った。


「”鮮血の死神”だ……」



僕は、敵軍の血が濡らした大地を敵陣に向けて突き進む。まるで、レッドカーペットのようだった。



「ヒィィイッ!!!」

指令本部につくと、どうやら敵の司令官は今まさに逃げようとしていた所だった。


僕は黙って、情けなくしりもちをついた敵に手をかざす。



「み、見逃してくれ!!!」

「……」

僕は血で刃を作り、首を切り落とした。返り血が付く。

僕は司令官の首を持ち、自軍に帰ることにした。その首は、恐怖に染まっていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……」

腕の傷を見るたびに思い出す。あの、戦争に駆り出された毎日を。この傷が、一番嫌いだ。


一つ一つは薄い。けれど、数が数だけに、おぞましい何かに見える。



「……一体、いつになったらこの傷が刻まれることがなくなるんだろう」

まだ、ここに傷が増える予定がある。倒すべき敵が、まだ一人も倒せていないからだ。



「まだ……まだ。僕は、何もなしえていない。けれど、相対するにはまだ早い……」

まだ準備ができていない。完全な精霊薬ができたばかりだ。だから――。



「少なくとも、何人かは減らした方がいい、か。少なくとも、久遠の裏切り者は、限りなく邪魔だ」

”鮮血の死神”は、腕を傷つけて血を流す。そしてその血で攻撃する。

魔法で攻撃することもある。けれど、そっちよりも血で攻撃する方が印象は大きかったようだ。簡単に噂が広まった。


だから、僕は宣戦布告する。――九星として。奴らに。僕は絶対に邪神――奴が存在していることを許さない。



僕がそう決意を固めていると、紫に光るオーラを持つ精霊と、金色に輝くオーラを持つ精霊が寄ってきた。


「ふふ、僕は大丈夫だよ」

「そうか?俺には大丈夫なようには見えないが?」

「僕にも、無理しているように見えるよ?」

「少しは無理しなきゃいけないでしょ。大丈夫、まだやれるから」

2人の精霊に心配されるが、僕はその心配を無視する。


「……俺は、我が愛し子が死ぬのはもう見たくない」

「僕もシェイドと同じ。僕たちだって、感情があるんだよ?」

「過去の愛し子の話でしょ?どんな生物だって、生きている限り寿命があるんだから、いつかは必ず死ぬでしょ」

「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」

「ん?何か言った?」

「なんも言ってないぞ」

そうかな、何か呟いていたような気がするけど。


「しぬのは~ダメ~!」

「ダメなの~!」

「かなしいの~!」

周りに下級精霊が集まる。わちゃわちゃ騒がしくなるけれど、この騒がしさを知れるのは、精霊が見える者だけの特権だ。



「いつも魔法を使うの助けてくれてありがとう」

「いいの~」

「まりょく、おいしい」

「ぬすみぐい~いけないんだ~」

「はァ、何やってるんだ」

「いつものことでしょ」

下級精霊の自由さに、紫のオーラを持つ精霊――シェイドは頭を抱えている。

そんな彼に下級精霊たちはわちゃわちゃして笑っている。


「だいじょうぶ~?」

「あたまかかえた~」

「ぬすみぐいばれた~」

「自分でばらしたんだろ」

「きゃっきゃっ」

「きゃっきゃっきゃっ」


「シェイド、ポスポロス、これからも、よろしくね?」

「分かってるよ」

「うん、よろしくね」

僕は、シェイドと金色のオーラを持つ精霊――ポスポロスと別れ、床に就くことにした。

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