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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密
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彼岸流健康診断

Side Raymond


「……」

「仕方ない。そんなに迷惑かけたい?」

「…………」

「じっとしてて。ある程度の知識はあるから」

「……!!」

「暴れない。別に、何もしないから」

「……なんで君たち会話できているんですか?」

「「??」」

不思議そうは顔をしたウルガとアインの頭には、?が入り乱れている。いや、ウルガはどう考えても黙っているようにしか見えないんですけど……。



「口開けて」

「あ」

「うん、いい感じ。歯を嚙んで……大丈夫そう。目も、充血していないし、問題なく会話もできている、と」

「ネエ、まダ」

「まだ。……何か不調は?」

「フちょウ?なイ」

「じゃあこれ、美味しい?」

「!!」

アインに何かを口に押し込まれた途端、不機嫌そうだったウルガの表情が輝く。


「なにを食べさせたんですか?」

「飴。逆鱗周りの鱗が脆かったから。子供だと、薬よりも飴の方がよく食べてくれる」

「なるほど……」

アインはウルガを観察する目はそのままに、私の質問に答えてくれる。必死に口の中で飴玉を転がすウルガは、とても可愛かった。


「もう少し発音に気を付けた方がいいね。あとで変な癖になって残るかも」

「そうなんですね?気を付けます。――そんな知り合いがいるんですか?」

「ええ、魔物から生まれた彼岸は、魔物の言葉を話すので、発音が独特なんだ。だから、そこを矯正(きょうせい)しないといけない」

「なるほど……」

これからは、気を付けてみよう。



アインにウルガの健康診断をしてもらったのは、最近ウルガがよく唸り声をあげるからだ。一体どうしたのかと不安になって、彼岸の知識が豊富そうなアインに聞くことにした。

本人は、医者じゃないから詳しいことは分からない、と言いつつも引き受けてくれた。人間と彼岸の体のつくりは違う上、この国には彼岸の医者がいないという事が理由かもしれない。



「飴をいくらかくれませんか?料金は、いくらでも払いますから」

「いい。精霊薬を完成させたお礼だから。一日一個かな。なくなったらまた言って欲しい」

「それにしても、成程ですね……。最近やけに骨をかじるんですよ」

「本能的に足りないものを補おうとしていた結果だね。人間が思う以上に龍人は、カルシウムとか、コラーゲンとかが必要だから、人間が育てるのは難しい種族の一つだ」

「へぇ、一つ……という事は、他にもあるのですね?」

「むしろ、人間が育てやすい彼岸の方が少ないかな。天使や悪魔は育てやすいと、聞いた覚えがある」

「天使と悪魔……」

「あまり人間と変わらないから。価値観が違うだけだね」

こういう風にさっと出てくるのは、彼岸だからか、知識がすごいからなのか。明らかに畑違いな筈なのに、満足のいく答えをくれる彼は、本当に有能だ。それに案外――。



「好きな味は?」

「ぶどう」

「嫌いな味は?」

「かき」

ウルガの様子も見てくれている。子供慣れしているのが分かる。表情筋はあまり動かないが、ウルガにはあまり気にしないだろう。


だが、ウルガが言っているのは、見た目の話だ。ウルガは青系が好きで、オレンジは嫌いだ。前に見た目が青い、オレンジ味の飴をあげたら、喜んで食べてた。オレンジ色のオレンジジュースは飲まず嫌いしてたのに。

柿味の飴はあげたことはない。



「よく、嫉妬とかされません?」

「嫉妬……?」

口元に手を当てて、考え込んでいるが、思い当たるところがない訳ではないだろう。もしくは――気が付いていないのかもしれない。



「今日はありがとうございました」

「いえ、またいつでも。――一応、体調管理の一環で知識はかじっているので」

「あメおいシい」

……それはよかったです。

口の中の飴に集中しているウルガを抱き上げながら、去っていくアインの後姿を見送った。



「……狙おうかな」

「とウさん?」

ウルガに目を向けると、訝しげな視線とかち合う。


「ふふ、冗談ですよ」

もう既に釘を刺されているんだ、わざわざそんなことはしない。私は、ウルガを抱き上げたまま、家路につくことにした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Lars


「ねえ、隠しごとしてるの?」

「っ、なンだミリアか」

自室に戻るとき、ミリアに話しかけられた。その表情は、今まで俺が見たこともない、不信感ありありな表情だった。


「ねえ、はぐらかさないでよ!ノア兄との会話、ちょっと聞いちゃったんだけど」

「ノア兄の考えすぎだ、なンもねェよ」

「そんな訳……!」

ミリアが俺の袖をつかむ。身長差でミリアが上目遣いになるが、それでも俺は話さない。


余計なことは話すべきじゃなかったなァ、とノア兄との会話をやや後悔しつつ、俺はしっかりとミリアと視線を合わせる。


「俺が、ミリアやノア兄に隠し事ができるとでも?」

「でも……」

ミリアはそれでも怪しんでるようだ。だが、俺が隠し事が下手なのは、知っての通りだ。


俺は徐に、ミリアの頭を撫でる。


「びゃっ!?」

「ハハ、変な声」

「はあ!?」

「ほら、ミリアが言ってンのはアレだろ?俺が彼岸に詳しい訳」

「えっ、そ、そうなのかな……?」

「俺の生まれたところにたまたま彼岸の魔族の学者がいたンだ、近所の姉さんみたいな存在。彼女に色々と教えて貰った」

「へぇ?」

「ハハ、もう死んでていないさ、彼女。ただ、言葉を教えて貰ったンだ。そのことが、ノア兄的に不思議だったンじゃねェか?」

「はあ、誤魔化されてあげる」

「なんだよ、その上から目線」

「初恋の人、その人でしょ」

「ちちち、違うって!」

「もういいわよ」

「あ、ちょっ、ミリア!!」

なんか変な誤解をされた気がする。なんだか怒ってた様子だったミリアを、俺は必死に追いかけた。

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