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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第四章 不穏な秘密

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相性最悪

「ハロルド様、一緒にお茶をしませんか?」

「お前に私の名を呼ぶことを許した覚えはない」

「私たちは婚約者なのですよ?いいじゃありませんか」

「それと何故私がお前とお茶しなければならない?」

「婚約者ですもの。私、ハロルド様ともっと仲良くなりたいですわ」

「私はしたくない」

ハロルド様とオストワルト様はいつも同じような内容の会話をしている。どちらも自分の主張を変えないため、同じ会話を繰り返しているのだ。


「まーたやってるよ」

「そうそう、懲りないよね~」

「あいつ、お堅いから女の扱い方が下手なんですよ~。いい感じに相手の機嫌を取っておけば、案外ああいうタイプは何も言いませんよ~」

カーティス様が悪い顔をしている。多分、自分の婚約者にやっているんだろうな。


「選民思想なんだよね?」

「僕、あーいうタイプ嫌い~」

「ザック会長を下に見てるのすっごい分かりやすい」

「ですよね~。男爵令息で初の生徒会長、というあたりで有能さが透けて見えるのにおかしいですよね~」

「「ね~」」

カーティス様の言葉に、シエル様、ノエル様が満面の笑顔で同意する。かなり鬱憤がたまっていたのだろう。兄弟で息ぴったりだ。


カーティス様はシエル様、ノエル様とすぐに意気投合していた。そんな三人を見たハロルド様の顔がかなり苦かったのもセットだ。



「ハロルドは三人に常に生活態度を注意しているのに、唯一自分の婚約者(グリンダ)への悪口を全く注意しないのは笑えるな」

「ハロルド様も、人間なんですね」

「ここだけ見たら、ハロルド様が悪者に見えますわね」

「なんか、既視感あるな……。物凄く嫌な記憶の方に」

マティ様がうっすら笑いながら言った。ジェシカ様も同じように笑っているが、フィンレーは顔色を青くして腕をさすっている。


この前イーストフールの新聞社に送った情報の中に、第二王子の婚約者はかなりの浮気者で、父親が横領したお金をその間男たちに貢いでいる、というのがあった気がする。

よかったね、国に帰れば婚約破棄できるよ。



確かにここだけ見たら、悪いのは自分の婚約者をないがしろにして、世間から批判されそうなものだ。

しかし、いざその誘いを受けたら、服装から食事の内容、会話など、全てに駄目だししだす。


更に、選民思想を嫌っているハロルド様の目の前で、身分の低い人間を見下して嘲る。



婚約を結んだばかりの頃は、ハロルド様も仲良くなろうと努力したようだ。だが、昔からああいう性格だったらしく、どうしようもない。


一度、アムステルダム公爵が、夫人と大喧嘩したらしい。その内容が、ハロルド様とオストワルト様の婚約についてだったらしい。……一体どんな態度をすればそんなことになるのだろうか。



更に、カーティス様の婚約者がサティを虐めようとしていたのは、彼女が(そそのか)したからだった。


サティは、そこまでカーティス様と親しくはない。

だが、オストワルト様と比べれば、サティの方がハロルド様と親しい。そういうことも相まって、オストワルト様は、公爵令嬢で婚約者の自分より、ハロルド様と親しい平民のサティに嫉妬したのだろう。


だから、事実に嘘を交えてガナーシャ様に告げ口をしたのだろう。ガナーシャ様は短気な方だ。そんなことをすれば、どういう風に動くのかなんか、手に取るようにわかる。



そのサティは綺麗にスルーして、書類を魔道具で大量印刷している。


前までは、いかにも貴族同士のデリケートな会話にオロオロしていたが、ジェシカ様が、関わっても碌なことがないので無視した方がいいですわ、と助言していた。

それからは割り切って、自分は何も聞いていません、その空間にはいません、という感じになった。何の後ろ盾もない平民としての行動としては、正しい。



「ハロルド様、婚約者として一緒にお茶をするのは当然ですわ」

「カーティスも婚約者とまともに話していない。私たちも、そうなだけだ」

「私はそうなりたいとは思いませんわ」

「なら、まずその選民思想をどうにかしろ」

「ハロルド様、私たちは選ばれた人間なのですよ?何故、そんな私たちが下級貴族やそれ未満の人間を気遣う必要がありますの?私たち高貴な身分の人間の礎になれて嬉しい、と思っているのが当然でしょう?」

「私はそう思わないが」

「ハロルド様はお優しいのですね。しかし、平民にそこまで優しくする必要はありませんわ。その分、私に優しくすればいいのです」

「必要ない。私の行動に口出しするな」

「ハロルド様が平民ごとき、気に留める必要もありませんわ」

どちらも自分の主張を曲げないため、いつもこの平行線の会話は長引く。常にハロルド様が生徒会室を出るか、オストワルト様が怒って生徒会室を飛び出すかしないと止まらない。



「ザック、お前の悪い所はこういう人間関係のめんどくさそうなところを見抜けないところだな」

「……ウェン、私は人の機敏(きびん)に疎いんだよ」

「ふふふ、だから私は言ったのよ?あの子は危ない、って」

「ティーナの言う通りだな」

「……」

この生徒会名物を目の前に、生徒会長をいじる二人。

一度生徒会長が止めに入ったが、かなりひどい罵声を浴びせられ、すっかり心が折れてしまったらしい。そのことのことを、ウィリアムズ様兄弟は言っているのだ。



「もういいですわっ!なぜ、ハロルド様は婚約者である私を優先しませんの!これもそれも全て……っ!」

オストワルト様が憤慨しながら、生徒会室から出て行ってしまった。あの様子だと、サティ、ラファエル、僕の誰かが被害にあいそうだ。もしくは生徒会長か。



ウィリアムズ様兄弟が被害にあわないのは、カーティス様の影にうまく隠れているからだろう。

小柄で可愛い顔に似合わない、狡猾さだ。


カーティス様もそれを理解して、二人をオストワルト様から隠すように立ち、二人よりも少し大きな声で話している。それを相談なしにしているから、本当に仲がいい。

実直な性格をしているハロルド様の天敵になりそうだ。



「さすがにハロルドが可哀想になってきたな……。あいつはこういう搦め手が苦手だ。あいつは俺の未来の部下だしな、俺が助けてやろう」

「一体何をするつもりですか……」

不敵に笑うマティ様に、僕はうっすら寒気を覚えた。

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