僕の本職は、研究者です
色々と改稿しました!
多分説明詳しくなかったので、説明を追加しました!
スタンピードも片付き、僕は研究に精を出していた。
目指すは、完璧な精霊薬。ただ僕は、レイモンドの研究を合わせることで、精霊薬の無毒化に成功すると踏んでいる。
「まさか私の研究がこんなふうに使われるなんて……驚きですね、スタンピードを起こすくらいしかできないと思っていました」
レイモンドが、僕のまとめたレポートを見て、感嘆の声を上げた。
「僕だって、まさか魔障を操ることができるなんて、夢にも思わなかった。適正外の魔法を使え、と言っているようなものなのに」
僕は、そう言って、最近この男が起こした事件を思い出す。強者をいたぶるのにあれはやりすぎだが。
「本当に偶然ですよ、その発見がなければ、私は魔障の研究をしていません」
レイモンドは謙遜するが、それがなければ、僕は完全な精霊薬を作ることができなかった。
「――元々、人体が一度に取り込める精霊の力は、限りがあった。その限界を超えることで、余剰分の力が人体にとって有毒になってしまう」
過ぎた力は毒なのだ。それを受け入れる肉体がない限りは、有り余った力が肉体を傷つける。
「精霊薬の原理は案外簡単で、精霊の力を取り込むことで、異能力を叩き起こす、というイメージになる。寝ている人に水をぶっかける感じだね」
「それは――かなり強引に起こすのですね」
レイモンドはそう言うが、それが一番手っ取り早いし、今までの研究で、それ以外の方法は見つからなかった。
「そうだね。精霊の力と、人体はあまり相容れない。できる限り精霊の力を摂取するために、魔障も入れている。原因は、その魔障の摂りすぎだ。だから、魔障の無毒化が、そのまま精霊薬の無毒化につながる」
「ああ、だから」
僕は静かに頷く。まさか、スタンピードを起こすことができる人物がいるとは、思ってもいなかった。
だから、渡りに船だと思い、完璧な精霊薬を完成させることにしたのだ。
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「完成した……」
「これが」
今までの精霊薬は、少し白濁していた。だがこれは、完全な無色透明。今までの精霊薬とは、確実に違う。
「試してみますか?」
「僕は覚醒しているから、とりあえず量を作って、ステラに送る。九星に試す前に、覚醒前の異能力者に試してもらうよ」
リーリアが一番いいだろうな。リーリアは、この世界の理の関係で、下手に異能力を使えない。
「九星……存在自体は存じてますよ。まさか、貴方も九星の一員とは、知りませんでしたが」
「九星は、都市伝説として有名な話だからね。あれを事実と思っている人物の方が少ないと思うけれど……」
ステラ国民ですら、信じられていない。そんなものを信じるとは……と僕はひっそり引いていた。
「――昔、私は戦場にいました。もうない国です。私はそこで、兵士として前線に出ていました」
「その時に、九星と出会った、と」
一度九星に会ったことがあるのか。なら、九星の存在を事実だと思うのは当然の帰結か。
「そうです。何をしても敵わない相手がいる、という事に驚きました。――私が敵わない相手は、とても少なかったんです。だから、敵が誰なのか、知りたかったんですよ。その時、オケディアには九星という都市伝説が存在することを知りました。そこからですよ、強者を屈服させたい、と。そう思い立ったのは」
僕は戦場で敵と会う方がかなり少ないから、レイモンドの性癖を歪めたのは僕じゃない。そして、九星所属の彼岸を知らなさそうだった様子からも、ラース兄さんでは無さそうだ。
オケディアが、他国を九星の力で侵略したことは、”血の六年”と言われていた。その六年で、いくつの国が、チーズル―オケディア同盟の下、滅亡したのだろう。
僕が滅亡に導いた国は、10余りだ。そのため、オケディアの近くには弱小国家は一つもなくなっていた。
チーズル帝国も滅亡した、というより、元々滅亡していたのだろう。チーズルは、オケディアに同盟を持ちかける頃には悪名高い国となっていたが、元々はそんなことはなかった。――理性的で、賢王とは言い難いが、愚王ではなかった筈だ。
そして、皇帝もいない。なぜなら、チーズルは元々王国だからだ。
”血の六年”は、ウィキッドの策略で間違いない。蝙蝠の情報収集でそれは知っている。おそらく、チーズルが王政から帝政に変わったときに、チーズル国王は暗殺されたのだろう。
国土は広いが、国力はそこまででもない。あまり目立つ国でもない国が、突然国家体制が変わったのだ。
閑話休題。
「なら、九星はこの薬でより強くなるね。異能力が覚醒しているのと、いないのとでは全く違うから」
「異能力、欲しいですねぇ」
僕の話を聞いていたら、どうやらほしくなったらしいのだ。だが――。
「無理。僕はこれ以上道を外れたくない。だから、断らせてもらう」
「ああ、人体実験のことですか?私は構いませんよ」
「貴方が構わなくとも、僕が構うので。研究者として屈辱だよ、精霊学で禁忌を犯すのは」
「私はそんなこと、考えたこともありませんでしたがねぇ……」
「それは貴方が元兵士だから。僕は、研究者。たまたま戦闘に才能があったからやっていただけだよ」
レイモンドは、こんな価値観の違いもあるのですか……。と興味深そうに呟いていた。
「その代わり、ウルガはラファエルと共に鍛えるので」
「あまり無理強いはできないですね……。それに、貴方に手を出すな、とも言われていますので」
「え……?それは一体……?」
別に、レイモンドに手を出されても、簡単に返り討ちにできる自信がある。だからそこに関しては、何も言わなかったのに……。
「愛されてますねぇ?」
その一言で、誰がレイモンドにそう言ったのか、分かった。




