蹂躙無双
「ドラゴン……」
ドラゴンが一体。もしこれが、人為的に引き起こされているのなら、僕ならここでドラゴンを出さない。
なぜなら、これは切り札になるからだ。
でもここにいるという事は――。これは人為的に引き起こされていないか、複数ドラゴンがいるという事になる。
だが、魔障を集める魔法陣が発見された以上、人為的に引き起こされているのだろう。
あの魔法陣は、とても研究しつくされていた。
普通なら、魔障を集めたとて、魔物を召喚することはできない。誰も、魔障を操ることができないからだ。
だが、それが可能なら?そして僕は、それが可能だと踏んでいる。
だからこそ、ドラゴンが複数出てくる可能性があるのだ。
ドラゴンの出現とともに、ドラゴン以外の魔物の平均が上がっている。平気でキングブラックウルフや、アサルトホーク、ワイバーンまでが平気で出てくる。
ただ、ドラゴンが切り札なのだろう。まさか、九星がなかなかオケディアに全員揃わなかったのか。それも知らないのだろうか。
そんな高頻度で九星が出兵する戦場が起きてたまるか。
九星が出張る戦場が起こる前に、僕が事前に潰していた。それなのに、そんなに戦場がある訳がない。
だから、九星がいない理由は、戦場の帰りに魔物狩りをしていたからだ。その理由は――リズ姉さんに武器を作ってもらうため。
だから、ドラゴンが現れても、問題はない。
ただ――。
「ちょっと時間をかけている訳にもいかないから、これを使うね。それに、腕が鈍っちゃうのもいけないから」
僕は、腰に差していた刀を抜く。構えを取り、力を刀に注ぐ。こんな刀の使い方、これで二度目だ。
刀は冷たい冷気を帯びていく。それだけで、僕の立つ土が凍っていく。その氷に触れた雑魚が、凍り付き、ひび割れて、絶命していく。
吸血鬼の力は強力な上に、本能で使い方を知っている。異能力よりも、魔法よりも、剣術よりも、最も身近な力だ。
だからこそ、僕はつい吸血鬼の力に頼る。自分の血をまき散らすことで、そこら一体を操ることができる。声を聞かせるだけで、吸血鬼の力に耐性がない者を操ることができる。蝙蝠に関しては、四六時中使っている。
だからこそ、僕は定期的に血を吸っている。力を使う限り、衝動が溜まるから。
それが、一番の欠点でもある。衝動が溜まりすぎれば、それだけで使い物にならなくなる。
血を飲めば、それが一番の隙になる。
だから、一度は吸血鬼の力を使おうと思った。けれどやめた。
魔法は、吸血鬼の力程使い勝手はよくはない。これほどの規模なら、大規模な魔法でないと、正直、焼け石に水だ。
そして大規模な魔法は、それだけで魔力が一気に削られる。だからこそ、人間にはスタンピードの相手をすることができないと言われているのだ。
ただ、刀だけで全てを倒すのも時間がかかりすぎる。だから魔法を複数展開する。
元々この剣術は、そんな魔法使いに最適な剣術なのだ。
「寒月」
僕がそう呟きながら、ドラゴンに切りかかる。刀が凍り付き、周囲に広がる氷のスピードがあがる。体感の温度がぐっと下がる。今はまだ暑い筈なのに、口から漏れ出る息が白い。
ドラゴンにつけた微かな傷から、ドラゴンが凍り付いていく。ドラゴンの素材は、とても貴重で武器や防具にすると強力なものになる。だから、よく九星の餌食となっているのだ。
あまり傷をつけずにドラゴンを生け捕りにできてよかった。
「三日月」
刀から、三日月形の刃を飛ばし、近くの魔物を切り飛ばす。だが、それだけで死なないのは、魔物の強さがかなり強力になっているという証拠なのだろう。
また地を鳴らすような足音がした。そこに目を向けると、先程打ち取ったドラゴンより強いドラゴン。大きい体で、力も強そうだがその分鈍そうだ。
そう観察していたら、背後から風を切る音が聞こえてきた。それを目も向けずに避ける。
僕の後ろにいた魔物が揃って絶命する。この攻撃はワイバーンじゃない。
「二匹目」
小型ドラゴンだが、巨大ドラゴンより圧倒的に強い。それに、空を飛んでいるため、機動力が段違いだ。それに体が小さいため、攻撃を当てづらい。
だが――。
「そこにいたのはもう知っていたよ」
視界の隅にそいつを収めながら、魔法を展開する。光り輝く槍がドラゴンを突き刺そうとする。それを避けようとしたが、その先に僕がいた。
「空は君だけのものじゃない。僕だって、空を飛べるんだよ」
僕は蝙蝠の翼を大きく羽ばたかせながら、一気にドラゴンに肉薄した。
「十六夜」
ずっと懐にしまっていた小刀をドラゴンの心臓に突き刺した。小刀からどす黒いオーラが漏れ出る。ドラゴンを覆うように広がり、生命の輝きを吸い尽くす。
心臓を突き刺されながらも僕に対し、怒りが収まらないようで空気が震えるような咆哮をし、僕に攻撃したような魔法を使おうとする。
だが――。
「僕に攻撃したら、たぶん君に当たるよ?」
「グワアアアアアァァァァァァアアアアア!!!」
魔法は、僕にかすりもしなかった。それはそうだ。僕は背後から引っ付いている。この状況で、自分に当たらないように魔法を放つのは難しい。だからあえて魔法を外したのだろう。
「じゃあ、さようなら」
僕は小刀を捻りながら引き抜いた。ドラゴンは絶命したのか、そのまま地に落ちていった。僕は巨大なドラゴンがいた場所に目を向けた。そこには、大きな氷像が立っていた。




