錠剤
汗だくで目覚める。酷かった頭痛が和らいで気分は大分いい。水を飲む。トイレのあと横になった。
また目が覚める。まだ外は暗い。いつもより深い眠りに就いて、忘れていた人々が夢に出てきた。いい傾向だ。何度も目が覚めるというのに熟睡感がある。いや、やはり良く眠れてはいないのだろう。恐らく熱がある。
朝が来て、起き上がった。少しの風邪なら市販薬を飲んで仕事へ行くのだ。どれほどなら休む?この十年ほど風邪で休んだ覚えはない。実質、風邪をひいても休めない、という事になる。
枕元、テーブル、何処にも市販薬はない。飲まねばやってられない。クソッ、どこへやった。カバンの中を引っくり返す。色とりどりの、錠剤の入った小瓶が三つ出てきた。ゾッとした。これじゃ薬漬けじゃないか。瓶を開け、三つ飲みこんで外へ出た。
昼休み。また三つ飲みこんだ。頭痛と咽頭痛は抑えられている。代わりに胸のつかえを覚えた。
市販薬を飲むと喉が渇く。気分が良くなる。何年前からか、ドラッグストアでの、未成年による風邪薬の購入が制限されるようになった。乱用によるオーバードーズのせいだ。なるほどと思った。風邪の症状に気分の落ち込みがある。確かに風邪薬は気分をスッキリさせてくれる。
それほど人体に強く作用するというわけだ。常用して良いわけが無い。もしかすると、この胸のつかえは副作用かも知れない。一体どのくらい風邪薬を服用しているだろう。常時カバンに三つの小瓶が入っているほどである。もう手遅れかも知れない。それでも仕事、仕事だ。あと5時間は。薬が効いてきた・・・
風邪をひいても酒は飲みたい。酒のない休みなぞ考えられるか?というわけで、酒を飲む前に薬を飲む。風邪薬で気分が良くなり、アルコールでも気分は良くなる。これぞオーバードーズ。夜の内はいいのだ、アルコールが回っているうちは。
次の日。風邪は腹に来る。こじらせると腸炎になる。トイレから中々出られない。苦しい休日の始まり。幸い腹風邪用の薬もちゃんとある。腹の調子が悪いな、と感じたら酒を飲む前に腹用の薬を飲む。もう立派な薬物依存症である。
しょっちゅう咽頭痛を患うものにとっては、湿布薬も欠かせない。喉に貼るだけで治ることもある。何か月か前ギックリ腰になった。それからは毎日お世話になっている。病院で処方される湿布薬は市販の物より格段に安い。それでいて効能は同等かそれ以上のものが期待できる。通院しないのは無駄に金銭を浪費していると言わざるを得ない。それでも市販の湿布薬に頼ってしまうのは、病院に行くのが面倒だからだった。
「ポイントが貯まってますね、使いますか?」、「お願いします」。ドラッグストアのレジで、このやり取りがしょっちゅうある。一体いくらつぎ込んでいるのか!ドラッグストアでは若い女性をよく見かける。美容関係の商品も多い。彼女らに負けないほど浪費しているに違いない。
繁忙期ほど風邪をひきやすい。それほど体が衰弱している。休めない、衰弱、罹患、薬の服用、さらなる衰弱、さらなる罹患、さらなる薬の服用、負のスパイラルに陥る。薬!薬!長引くと、正常な判断を失い、今どれくらい風邪薬を持っているのか分からなくなる。とにかくドラッグストアへ!
風邪の症状は咽頭痛がほとんどだった。この頃は頭痛が最初に来る。風邪が長引くと、その終わり際、鼻に来ることもある。それはこういう事だ---
歳をとってから片頭痛が発症した。主に低気圧のせいで。繁忙期に低気圧がやってくるともうダメだ。そのまま風邪に移行してしまう。頭痛用の風邪薬の出番である。効き目は抜群。1日ほどで頭がスッキリするのもつかの間、今度は咽頭痛だ。いつものやつか、とばかりに喉の風邪薬を飲む。服用頻度が高いためか、症状が軽くなるまで2、3日はかかる。酷い寝汗を掻くのはこの頃。薬の手助けによって体は回復に向かっているのだ。もう治りかけ、というところで鼻水が止まらなくなる。どうしようもない時は鼻の風邪薬の出番だ。1日足らずで快方に向かう。
・・・何という症状の、見事なバトン。頭痛、咽頭痛、鼻、のサイクルは、つまり、薬によって症状が抑えられた順番ではないのか。逆に言えば、市販薬は見事にその効能を示しているのである。何だか実験体になった気分だ。割高の薬代を引き換えにして。
この様にして、カバンには色とりどりの小瓶が入っているわけだ。次の罹患に備えて。




