ノーマルで受け身な私の百合的生活
初心者です。
メンタルは存在しないので酷いことは言わないで暖かな目で見てください。
この高校に転校してからはや1ヶ月、初めはちょくちょく話しかけてきてくれた優しい子たちも鳴りをひそめて私はぼっちを謳歌している。
元々人と話すのは苦手だからちょうど良かったけど、ここまで輪に入れないと悲しくなるのも事実。別にいじめがあるわけでもないし、普通にみんないい人だけど、昔から目立たない容姿をしている陰の薄い私への興味はそうそうに尽きたようだ。その証拠にほら、今私変顔してるけど誰も見ていないしつっこんでもくれない。なんだよう、こんなひょうきんなのに何故仲良しになれんのだ。いやまぁ急に距離詰められても何も返せんから困るだけなんだけども。
そういえば今日、教室に派手な王子様が入ってきた。隣のクラスの子らしいけど、もちろん女の子はみんな彼女に駆け寄ってわちゃわちゃしていた。彼女の周りには何故かキラキラとした星が浮かんでいて、もちろん幻覚だけど笑顔がいちいち眩しくて困る。一瞬目が合った気がしたけど、彼女とはきっと合わない。元々男性が苦手でこの女子校に入って、さらにコミュ症で受け身な私だ。ああいう一見リーダーっぽい人の性根は受け身なことが多い上に男性っぽくて嫌なので関わり合いになりたくないのだ。
とか考えてるうちにもう放課後になってしまった。はよ帰って読みかけの小説を片付けないといけない。帰りの支度をして教室のドアを開ける瞬間、まだ力を込めていないドアが勢いよく引かれた。
「…!よかった!まだ残ってた!」
それはもうキラッキラの笑顔で、眩く夕陽を反射する美麗な長髪を整えながら、昼休みに私の教室へ来てたイケメン王子様がそう言った。
「……!………??」
周りを見渡して誰を呼びに来たのだろうかと探してみるもやはり私しかいない。もう誰もいないよ?というわかりやすい表情で顔にハテナを浮かべてみると彼女は
「君だよ君。駒ちゃん?だよね。」
その名前は私だ。小川駒、どこまでも小さく目立たない私の目立たない名前だ。彼女は170cm近くあるらしく、20cmも小さい私は首を痛める可能性を鑑みて少し離れて彼女を見ている。
首を傾げながらなぜ私を、と考えていると
「いやぁ、今日初めて君を見かけたんだけど一目惚れしちゃってね。よければ仲良くしてくれないかな、と思ってさ」
先生に呼ばれてたから遅くなっちゃったけど、と眩い笑顔で訳を話してくれる彼女。そういえば名前も知らないな。
「あの…名前…」
よし、知らない人に話しかけられてドギマギしてる私にしてはちゃんと話せた。名前も知らないのに仲良くはできないからね。これ常識。
「私?私はね鼓エリだよ。じゃあ行こっか」
彼女は名前を言うなり歩き始めた。背が高いから歩くのが早い。少し走りながら彼女についていくと、気づいてくれたのかこちらを少し見て歩みを遅くしてくれた。
「素直についてくるんだね」
背筋に電流が走るように美麗で冷たい笑みを浮かべながら彼女はそう言った。恐ろしい。そういえば彼女、えりちゃんはどんな人なんだろう。何も考えず運命的についてきちゃったけど信用していいのだろうか。いや、いいんだ。私の勘がそう言っている。あんまり当たったことないけど。
一見イケメンすぎる彼女だがよく見なくてもちゃんと女の人だから怖くないし、今もチラチラ私を見ながら歩いてくれる。うん、信用したいと思ふ。いい人だ、たぶん。
そういえばどこにいくんだろう。カフェとかかな。私コーヒー飲めないからせめて紅茶とかにしておこうかな、ジュースは恥ずかしい。
しかし綺麗な人だなぁ、なんで私なんだろ。他にも綺麗で優しい人いっぱいいるのになぁ。こんなに綺麗なら男も取っ替え引っ替えなんだろうか。いや想像できないな。したくもないけど。
髪の毛からとてもいい匂いが漂ってる。歩くたびに揺れる長髪がオレンジに光る夕日を反射させて彼女がどこにいるかもわからない。いや言いすぎた。流石にわかる。
それにしてもどこまでいくんだろ。もう下駄箱は過ぎたし、この先は空き教室しかない。と、いきなり彼女は一番端の空き教室へと入っていった。もしかして私はいじめられるのだろうか。おかしいと思ったのだ。きっとここ最近誰からも話しかけられなかったのはいじめの予兆で、この人はついに私を奴隷にする決意をしたのだ。これから先私には身の毛もよだつほど恐ろしい拷問や恐喝が待っていて、この空き教室には彼女の忠実なる部下たちが待ち構えているのだ。しまった。どうやって逃げよう。
今逃げても足の速くない私では逃げ切れないだろう。取り急ぎ110番にかける用意だけして教室に入ろう。
冷や汗が止まらないが意を決して全開の扉から恐る恐る教室の中に入ると、予想に反してそこには彼女がたった1人でこっちを見つめていた。綺麗な姿勢で、少しも視線を逸らさずに。
「あの…?」
何がしたいのか理解できず、3分ほどその状態で見つめ合った後、おろおろしながら問いかけてみた。そのまま特に変わった様子もなくまた3分ほど時間が過ぎて、そろそろ精神を支配されそうな感覚になってきた頃、
「やっぱり」
と、そう言って彼女は悠々と大股で私の方へ歩み寄ってくる。逃げるかどうか迷って後ろを振り返ろうとすると突然首の後ろに手を回されて抱き寄せられた。
そのまましばらく、訳もわからず柔らかな感触に抱かれながら、フェロモンとも言うべき誘惑の香りに包まれていると、
「ほら」
そう言って顎を摘まれ、彼女の人形みたいに整った顔が近づいてくる。怖くなって目を瞑ると、柔らかな感触が唇に当たった。そして彼女は、私の最後の防波堤を突き破って舌を割り込ませてくる。口の中を余すことなく蹂躙されていると、だんだん心が彼女に壊されるのを感じる。誰にも入ってほしくない私の守備範囲を全て開拓されて、何もできずに彼女への忠誠心を植え付けられる。乾いた大地へ染み込む支配の水は、何の抵抗もなくするすると入り込んでくる。
私が彼女に恋心を植え付けられ、もう何も支配できないことを自覚し始めた頃、彼女はようやく私から唇を離して、
「よろしくね」
と言って私の頭を撫でた。何がよろしくなのかわからないが、状況からしてきっと女王と部下的なあれだろうと予想をつけて、コクンと頷いた。
何故か短時間で完全に彼女を信頼した私だが、ここまで嗜虐的に見える人間は必ず支配されたい欲望を抱えていることを知っているので、いずれ誰か主人を見つけた彼女がどこかへいってしまうことを考えながら、その寂しさを伏せて思いっきり抱きついた。
15年間溜めたやるせない忠誠心を思いっきりぶつけながら。あれ、私ってノーマルじゃなかったんだ、とかこの人いきなりキスしてきたけど痴女なんか?、とかいろんな疑問を抱えながら、完全なる女王様然とした彼女へ、せめて背骨ぐらい折れろと言わんばかりに思いっきり抱きついた。
「あの」
まじでほとんど会話してないのでそろそろなんか話そうぜ、と、何やねんこいつ心を爆発させてコミュ症をぶっ飛ばした私は、えりちゃん限定でコミュ力を発揮させる。とは言ってもコミュ力不足には変わりないので恐る恐るだが。
「貴方はSなの?Mなの?」
私はSの人の心が理解できないので、人はみんなMだと思ってる。ここまでいきなりにキスをしてくるのだからきっとびっちでえっちなすけべえなのだろうと当たりをつけながら、念の為に尋ねてみると、
「ん?Sだけど?」
それはもう怖い怖い目が全く笑っていない笑顔で彼女は言った。今すぐにビンタでもされそうな雰囲気を抱えて、切れそうな感じで彼女は言ったのだ。背筋が震えた。Sな人なんて直に会ったことないので知らなかったけど、ここまで凹凸がピッタリと嵌め込まれる感じなのか。まるで逆らえないや。どうしよう。舐めてた。Sな人間っていたんだ。
とりあえず、私はMな方向な感じでございまして、とゴニョゴニョ何かへの言い訳をしていると、
「だからよろしくって言ったじゃん」
そう言って、何でこいつ最初猫かぶってん、とか考えてる私にもう一度フレンチなキスをした。今度は優しいやつだった。
頭にいろんなハテナを浮かべながら、きっと楽しくなるのかもしれないこれからを考えて、え、でもこれって付き合うってことなの?なにこれ?と言うもっともな疑問を吹き飛ばして、彼女にもう一度抱きついた。
〈はい。警察です〉
いつの間にか押された発信ボタンに恨みを抱えながら、必死に謝って電話を切った。夕陽はすっかり沈んでいた。