08
ローブを羽織り、クロはゆっくりと前に立った。そして、大広間に集まった兵士たちに話した。
「みんな。集まっていただきありがとうございます」
兵士たちの眼差しがクロに注目した。
「ここに来てから、皆に挨拶をしていなかった事を謝らせて欲しい。そして、俺の身勝手でみんなを心配させたことも謝らせて欲しい」
そう言い、クロは頭を下げた。すると、兵士たちは拍手をした。
「クロさま。無事に帰って来てくれてよかったです」
「あなたが居なかったら、私達は居られなくなります。よかった…」
そう兵士たちは口々に話した。
「ありがとう…」
クロは兵士に感謝した。
「これからは、この城は亡き叔父の後を継ぎ、私クロ・ルーマスがこの城を継ぐことになりました。よろしくお願いします」
兵士たちは拍手をした。
「しばらくはまだ動けないから、ウルフがフォローする事になる。だが、必要ならすぐに相談してくれ」
「わかりました」
ライトの部屋はクロの部屋と正式に決まった。クロの部屋には、兵士たちが訪れた。
「ウルフ。後で馬術の練習をしてくるよ。久しぶりにルナに乗りたい」
「大丈夫よ。無理しないでね」
書類を整理し、ゆっくりと厩舎へ向かった。
「クロさま。お疲れ様です」
一人の若い兵士が話しかけた。
「お疲れ様。ルナ出せるか?」
「はい。朝に軽めの運動を行ったので大丈夫です。乗られますか?」
「あぁ。ちょっと、乗りたくなってな。馬装頼むよ」
「大丈夫ですよ。少々お待ちください」
若い兵士はルナを出し、馬装を整えた。クロもブーツに履き替え、ルナの前に立った。
「ルナ。久しぶりに乗るぞ」
ルナはどこか嬉しそうだった。準備が整い、クロはルナに跨った。
「馬場って、誰か使ってる?」
「今は使ってないです」
「わかった」
馬場へルナを進めた。
「まだ、身体が言う事を聞かないから、うまく乗れなかったらごめんな」
ルナの首を撫でながら、話しかけた。軽めにウォーミングアップをし、ルナの体をほぐして行った。その光景を厩舎の兵士たちが見守っていた。
「クロさま。お怪我大丈夫なんでしょうか…」
若い兵士が話した。
「あぁ。久しぶりだよ。でも、あの人強いからな」
初老の兵士が答えた。すると、ウォーミングアップを終え、馬場馬術の練習をし出した。
「ほう…あのお身体でやるとは」
初老の兵士は心配そうに見ていた。
「え…クロさま。なんであんなにルナを動かせれるんですか?」
若い兵士が不思議そうに見ていた。
「そりゃそうだ。ルナはクロさまと一緒に学生の馬場馬術で世界大会行った仲だからな」
「え!?」
初老の兵士が話した。
「クロさまが大学生の時に、ルナと出会って世界大会まで行ったんだ。だが、その後にルナが致命傷の怪我をしてしまってね。で、ルナを安楽死してクロさまはこの世では馬術をやめたんだ。まぁ、この世界でルナが来てくれて、こうやって乗ってるんだけどね」
「そうだったんですか」
すると、練習を終えたクロがルナを出入り口へ進めた。
「今日はここまでにするよ」
「お疲れ様です」
若い兵士は、洗い場にルナを繋ぎ、手入れをした。
「ごめんな。全部させてしまって」
「いえいえ。大丈夫です」
すると、初老の兵士がクロに話した。
「クロさま。お怪我はどうですか?」
「まだ全然です。迷惑をかけます」
椅子に座り、ブーツを脱いだ。
「気にしないでください。私達以上に、クロさまは苦労されておられる。でも、こうして馬に乗りにこられるのを見て、安心しますよ」
「ありがとう」
すると、若い兵士が手を止めた。
「あの…」
「なんだ?」
「すみません。こう言っちゃアレですが。俺、ルナを担当させて貰ってるんですが…ルナって、ちょっと…」
「乗りにくいだろ?」
「あ…はい」
クロは靴に履き替えた。
「ルナは元々、捨てられる予定の馬だったんだ」
「え!?」
「俺が大学に入って馬術部に入った時には、誰も担当してなくて。邪魔な存在だったんだ。俺が直々に担当してわかった。まじで乗りにくいって。うまく体を使いこなせないし、身体が硬すぎる。それに、誰も手入れをしていなかったから、皮膚病が酷くてな。だけど、ルナは真面目で頑張る」
若い兵士は心当たりがあった。
「あ…わかります。運動していても、不器用だけど動こうとしますね」
「だろ。俺はそれを気に入ってな。皮膚病も治しつつ、トレーニングをして行ったんだ。ルナの頑張りを無駄にしたくないし。で、人馬一体となって頑張ってたら、大会に出てもいい成績出せてな」
クロは懐かしそうに話した。
「大会で優勝した時は嬉しかったよ。でも、それをいいと思う人がいなくてね。大学の馬はいい馬ばかりなのに、嫌われ馬が勝ち上がっていくから部員から意地悪されててね」
「えぇ…」
若い兵士は手入れをしつつ、クロの話にドン引きした。クロの横で初老の兵士は小さく頷いた。
「馬房が荒らされたりとか、水桶が空になってたりとかね。でも、そんな困難を乗り越えて、大学二年生の時に、国体で優勝して世界大会行ったんだ。もちろん大学としては快挙だが、部員はさらに意地悪を加速させてね」
ルナを見ると、澄んだ瞳でクロを見つめていた。
「世界大会は流石に優勝はできなかったけど、入賞することができて喜んでた。帰国して、ルナを休ませてる間に事件があってな」
「事件…」
クロは深呼吸をした。
「ルナをわざと驚かせて、ビックリした時に転倒して打ち所悪くて」
「え…」
「最初は生かしてほしいは、考えてたんだ。でも、苦しんで辛い思いをするなら楽にさせてやりたい。そう思って、安楽死させたんだ。もちろん、死ぬ前には好物いっぱい与えた」
ルナは鼻を鳴らした。
「その件があって、俺は馬術部を辞めた。だけど、こうしてルナが戻って来てくれたから、城に来た時はよくルナに乗ってるんだ」
「そんなことがあるなんて…」
若い兵士はルナの衝撃な過去に驚いていた。
「だけど、君が今担当してくれてるんだろ?今日乗ってみてさ、ルナの動きがよかったよ。大切にされてるんだと思った。ありがとう」
「いえいえ。私は、不器用で…」
若い兵士は焦った。
「いや。君はよく頑張ってくれている。だから馬も答えようとしてくれてるんだよ」
初老の兵士が話した。
「でも…私、人から褒められるの…今までなくて…」
「そういう人は多い。この城には。気にしなくていい。むしろ、これからも頑張ってほしい」
若い兵士は照れた。
「は…はい!がんばります」
「ルナの事、頼むよ」
「はい!」
若い兵士は喜んでいた。
「すまんが、俺は戻るよ。また、何かあったら連絡してくれ」
「わかりました。クロさま」
「今日はありがとうな」
そう言うと、クロはゆっくりと歩き、部屋へ戻った。シャワーで汗を流した。服に着替え、机に置いてある書類に目を通した。
「体育大会の案内か。面白くなって来たな。あ、そうだ。どの曲で馬場に出ようかな」
そう言うと、クロは指を鳴らした。すると、机の上にレコードケースが出て来た。蓋を開けると、たくさんのレコードが入っていた。
「さてさて…」
クロはレコードを探していた。すると、ウルフが部屋に入って来た。
「お疲れー。何探してるの?」
「ん?あぁ。馬場で使うレコード選びしてた」
「へぇ。いっぱいあるね」
ウルフもレコードを眺めていた。
「好きなアーティストなんだ。これで馬場したら、俺もテンション上がるし、ルナもテンション上がるんだ」
「へぇ。ルナちゃん意外とロック好きなんだね」
色々探して、これにした。
「これの方が合うだろ」
そう言うと、一枚のレコードを取り出した。
「あー確かに。それいいね」
レコードをレコーダーに入れ、針を落とした。すると、音楽が流れた。
「うん。音割れもしてないし大丈夫だ」
一通り聞き終わり、レコードをしまった。
「よし。てか、もう夕方か。夕飯にするか」
「そうね。作るわよ?」
「いや。久しぶりに自分で作るよ。ウルフも食べるか?」
「食べる!」
ウルフは椅子に座り、料理を待った。
「久しぶりに作るな」
そう思いながらクロはキッチンに立った。鍋を出し、食材を刻んだ。
「まだ、手に痺れがあるな。だけど、支障はないな」
そう思いながら、着々と進んだ。しばらくすると、野菜スープパスタができた。
「ウルフ。できたぞ」
クロはテーブルに並べた。
「あら。美味しそう」
「久しぶりに作ったから、味の保証はしないぞ」
ウルフはパスタをすすった。
「美味しい。久しぶりだわ。クロの手作り」
クロもパスタをすすった。
「うん。うまい」
「そういえば、馬術どうだった?」
ウルフが聞いてきた。
「うん?身体が鈍ってて、思うように動けなかった。だけど、ルナがフォローしてくれてたから良かったよ。ただ、明日は筋肉痛になりそうだな。しばらく稽古もしていないから、一から鍛え直さないとな…」
少し残念そうだった。
「まぁ、しょうがないじゃん?稽古なら私付き合うし。大丈夫よ。クロならすぐに元通りになる。それに、あの子達はまだ中学生だし手出しはしないと思う。高校生になったら、警戒はしないといけないし」
「そうだな。それまでに、元に戻さないとな」
二人はスープパスタを食べ終わり、ウルフは食器を片付けた。
「はぁ、今日は疲れたな」
ベットに大の字になった。しばらくすると、ウルフが現れた。
「あら。無防備ね」
悪魔のような笑みを浮かべた。
「いや。今日は久しぶりの馬術で疲れたよ。ただ、兵士たちの様子も見れて良かった」
「確かにね。てか、クロ元気になったじゃん?」
「いや、まだ身体に痺れはあるよ」
しかし、ウルフはクロの横に寝た。
「え?覚えてないの?」
クロの頬に手を置いた。
「え…な…なんのことでしょうか…」
クロは怯えた。
「え〜。散々私に迷惑をかけたのに?」
クロは逃げ出そうにも、疲労で身体が動かない。ウルフはクロの服のボタンを外した。
「な…!」
「約束は守ってよね?今日、欲求が溜まっててさ」
「いや…その…」
ボタンを外し終え、ウルフはクロの身体を触った。
「クロは若いわね。いい身体…」
ウルフは服をゆっくりと脱いだ。
「ウルフ…何するんだね…?」
クロの顔が真っ青になった。
「え?今夜は返さないわよ。約束じゃん?」
ウルフは不敵な笑みを浮かべながら、クロに近づいた。
「…あれ?今悲鳴聞こえませんでした?」
巡回していた二人の兵士のうち、一人が気づいた。
「気のせいだろ。てか、ここクロ様の部屋だから、寝ておられたんだろう」
「と言うと?」
「クロ様。悪夢でうなされて悲鳴をよくあげてるんだ。聞いているだけでビビってしまうよ。トラウマが夢に出てくるって、たまったもんじゃないよ」
兵士はため息を吐いた。
「そうですね…」
「さぁ。巡回して、俺たちも休もう」
二人の兵士は巡回を再開した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や評価、いいねをよろしくお願いします。