06
「ん…」
目を覚ますと、天井が違っていた。
「ここは…医務室か…?」
首を動かし、辺りを見た。首から下が動かせない。メガネをかけたくてもかけれない。窓を見ると、もう明るくなっていた。深呼吸をしようとすると、背中に激痛が走った。
「うっ…」
深呼吸を諦めた。すると、ノックが聞こえた。
「入るよ」
ウルフが入って来た。
「気がついたのね。自分が何したか、覚えてる?」
その問いにクロは無言だった。
「まぁ、悪いことしたって自覚があるならいいわ。全く。人騒がせな」
ウルフは椅子に座った。
「しばらく動けないわよ。今回の怪我酷いもん。こめかみが切れてたし、身体中にアザ。極め付けは背骨にヒビ」
「…ごめん」
ウルフは怒っていたが、諦めたように笑った。
「でも、ここに帰って来てから毎日見る悪夢で疲れも取れない。できたことが出来なくなるストレス。それに、大事な人も亡くなってる。冷静ではいられなくなるよね。クロ。辛いよね」
「ウルフ…」
「クロ。また、身体を一緒に治して行こ?ゆっくりでいい。治ったら、いっぱい稽古付き合うよ」
ウルフはクロの手を握った。
「クロは、弱くないよ。次戦う時にリベンジ果たせばいいもん」
その声にクロは自分の現状を認めた。
「そうだな…ウルフ。動けるようになるまで、いっぱい頼るよ。本当にごめんなさい」
ウルフはクロの頭をシワクチャに撫で回した。
「も〜。可愛いんだから。私の弟!」
「弟にしては、年齢差やばいだろ…?」
「いいじゃん!」
クロとウルフは笑った。
「クロ。少し元気出たんじゃない?」
「そうか?」
「それに、そんなに笑ったのいつ以来よ」
考えたが、覚えていなかった。
「いや…分かんないや…」
「まぁ、いいわ」
ウルフは立ち上がった。
「あ、忘れてたわ」
「何が?」
ウルフは悪魔のような笑みを浮かべ、クロに顔を近づけた。
「あなたね。私に迷惑かけてた自覚ある?」
冷や汗が垂れてくるのがわかった。
「は…はい。何をしたらいいでしょうか…」
「じゃぁ、身体が元通りになってからでいいわ。じゃないと楽しくないもん」
そう言うと、部屋の扉に向かった。
「じゃ。また後でくるわ」
ウルフは部屋を出て行った。
「な…何されるんだろ…」
クロはただただ震えていた。
「ウルフさん」
廊下を歩いていた所、一人の兵士が声をかけて来た。
「どうしたの?」
「すみません。クロさまの容態どうでしょうか?」
兵士は心配そうにしていた。ウルフはニコッと笑った。
「大丈夫よ!ごめんね。心配かけて。キツく怒ったから大丈夫よ」
「よかったです」
「業務頑張ってね!」
「はい!」
兵士は去って行った。
「さてと、私も書類整理して、クロの世話しないと」
ウルフは自分の部屋に入った。
「どれどれ」
机に置かれた書類を眺めた。そこには、兵士たちのアンケートが集められていた。
「ほう。そうだよね。たまにはこう言う企画あるのはいいよね」
ウルフは頷きながら、集計をした。しばらくして、集計が終わった。
「終わった〜。えっと、一番人気が…体育大会か。あえてここは、本気の体育大会したいわね…」
ウルフは競技を考えていると、ある兵士が入って来た。
「ウルフさん。失礼します」
「どうしたの?」
「いえ。報告書を持って来ただけですが…」
兵士はウルフの机に置かれた書類を目にした。
「体育大会ですか」
「そう。この前アンケートとったでしょ?あれで一番人気が体育大会らしいのよ」
「いいですね。僕…体育大会参加したことがなかったので、是非やってみたいです!」
兵士の目が輝いていた。
「もちろんよ。今競技考えてるんだけどね…」
「でしたら、日頃からやっている稽古の成果を披露するはどうでしょうか?」
「それいいね。参考にするわ。ありがとう」
「どういたしまして。では、失礼します」
兵士は部屋を出た。
「なるほど。でも、チームはランダムにしてっと」
ウルフは楽しそうに計画を立てた。
「…身体が動かない」
クロはベットで寝たきりだった。拘束具に付けられているかのように、首から下が動かない。
「…」
すると、一羽のカラスが窓から入って来た。
「窓、空いてたのか…」
カラスは椅子に着地し、クロの近くにぴょんと飛んだ。
「見舞いに来てくれたのか。ありがとう」
カラスはクロの頬に擦り寄った。
「ごめんな。撫でてあげられなくて」
小さくカラスは鳴いた。
「俺のドジが原因だ。本当申し訳ない」
するとカラスは、胸を大きく見せる動きをした。
「しっかりしろってか?そうだよな…」
クロは深く呼吸をした。
「ありがとうな」
そう言うと、カラスは椅子にぴょんと飛び移り、窓の外へ飛んでいった。
「はぁ…暇だな…」
すると、扉が開いた。
「クロ。調子どう?」
ウルフが入って来た。
「動けない。でも、気分はいい」
「それは良かったわ」
ウルフは薬を用意した。
「傷口の処置するわ」
クロの背中の傷を見た。
「少し良くなってるわ。ただ、ヒビのところは…」
肩甲骨の間が腫れていた。ウルフはそこを軽く押した。
「うっ!?」
「痛いよね。まぁ、ここさえ良くなれば歩けれる」
綺麗に消毒し、ガーゼと包帯を巻いた。
「ウルフ…痛い…」
「そりゃ痛いでしょ」
クロの服を整えた。
「ちなみに、手は動かせれるの?」
ウルフはクロの手を握ると、握り返した。
「ほう…」
「ただ、腕が重たくて動かせれない」
「なるほど。まぁ、ヒビだからね。でも、明日くらいに腕あげるリハビリはするよ。ちなみに足はどう?」
その問いに、クロは少しだけ足を動かした。
「大丈夫そうね」
「ただ…眠るのが怖い」
どこか寂しい表情だった。ウルフは閃いた。
「あ!じゃぁ、私と寝る?」
「それだけは絶対嫌!」
クロはすぐにツッコミした。
「なんでよ!」
「お前は、いびきがうるさい。寝相が悪い。それに、襲われる!」
「何よ!襲わないわよ!失礼ね〜」
「それに。廊下まで響いてるんだぞ。いびきが!」
「えぇ〜。そんなこと言われても、治せなーい」
どこか他人事だった。
「お前と寝るより、寝ずに外を眺めてた方がよっぽどいいわ」
「もう!まぁいいわ。でも、無理しないでね」
ウルフは部屋を出た。
「はぁ…全く」
クロは深いため息を吐いた。
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