02
夢を見た。両腕を捕らえられ身動きが取れなかった。
「離せ…」
すると、クロの背後から剣を構えている者がいた。
「今まで調子乗った罰だ。死ぬ前に苦痛を味わえ!」
斬られる直前に目を覚ました。呼吸も荒く、汗も酷かった。体を起こそうにも痛みで起き上がれない。
「俺…」
窓を見ると、朝方だろうか。まだ薄暗い。
「…」
なんとか無理やり体を起こし、ベットから出ようととしたが足を地面につけた途端、激痛が走った。
「ぐっ…」
それでも無理やり立ち上がり、手すりにしがみついた。部屋の扉を開けると、ウルフが立っていた。
「クロ!寝てないとダメでしょ!」
「うっ!」
怒鳴られた衝撃でクロは手すりから手を離し、地面に倒れた。
「全く!どこ行こうとしてたのよ」
「お前には関係…」
「関係あるわ!もー、さっさとベットに…」
ウルフはクロが寝ていたベットを見て絶句した。シーツが血で染まっていた。よく見ると、クロの背中も血で染まっていた。
「クロ。今椅子持って来るから、待っててね」
ウルフは椅子を用意し、クロを座らせた。血で染まったシーツを綺麗にした。
「背中…大丈夫?」
ウルフの声にクロは無言だった。クロをベットへ戻し、血で染まった服と包帯を変えた。
「結構深くまでいっててね。なかなか引っ付かない…」
「そうか…」
「もう。脱走しないでよ。そうそう。朝食食べる?」
「いらない…」
「そう…わかったよ」
ウルフは部屋を出ていった。
「俺が…弱いから…」
拳をベットに叩きつけた。この怒りを何処にぶつければいいのかわからなかった。
「クソ…クソ…」
もう居ても立っても居られず、クロはまた無理やり起き上がった。激痛を堪え、床に降り魔法で竹刀を出した。
「バレないように…」
クロは素振りをした。身体がオーバーヒートになり、激痛で思うように身体が動かない。
「クソ…」
耳を澄ませながら、ウルフが近づくのを警戒した。
どのくらいしたのだろう。気がつくと床に倒れていた。現状を見るにまだウルフは来ていなさそうだった。急いで竹刀を魔法で隠した。しかし激痛とオーバーヒートで指一本動かせない。すると、ウルフのヒールの音が近づいた。
「やばい…」
クロは気絶のフリをした。ドアが開いた。
「クロ!大丈夫!?」
ウルフがクロを起こした。
「すごい熱。朝まで大丈夫だったのに…激痛でもがいて落ちちゃったのね」
クロをベットに戻し、空の点滴薬を交換した。
「寝ててよかった。さて、やることがいっぱいだわ」
赤い髪をくしゃくしゃしながら部屋を出た。
「はぁ…バレなかったが…」
身体が全く動かせれない。血を出しすぎたのか、眩暈もする。
「あいつに叱られたら…」
強烈な睡魔がクロを襲い、そのまま眠った。
「さて、今日の仕事はっと…」
この城は、亡きライトが建てた城だった。今はクロに引き継がれたが、あの怪我の状態では何もできない。
「稽古する人は、片付けキチッとしてね」
ウルフは的確な指示を兵士に出していた。クロが復帰するまで、ウルフが務めていた。
「ライトさん…」
そこへ、一人の兵士が現れた。
「ウルフさん。新入りです」
「今行くわ」
ウルフは兵士の後を追った。あるフロアに入ると、十数名の男女が待っていた。
「ようこそ」
ウルフは笑顔で迎えた。
「私はウルフ・ブエナ。本当は、クロ・ルーマスが来る予定だったけど。怪我で来れない代わりに、私が代役を務めています」
「はい…」
皆が小声で答えた。
「怖いでしょう。あなた達は一度死んでいます。辛いでしょうが自覚をしてください。もちろん、私や兵士も一度死んでいます。一度死んでしまうと、性別がなくなります。あ、体型は変わらないのですが、下の方がなくなります。多分、薄々わかっていると思います」
皆恐怖でいっぱいだった。
「でも、あなた方は選ばれたのです。生きている間、辛い過去や苦しい事を強いられてきたでしょう。また、戦争に巻き込まれて亡くなった方も。そんな人をこの城の裏にあるあの世に送るのは、我々としては納得できない。そこで、厳選に厳選を重ねて、あなた方を選びました。ここの人たちはあなた方と同じ境遇を持ってここへやってきました。そして、今ではこの城の兵士として活躍しています。この世でできなかった事を仲間と共にやり遂げてほしい。そして、いつかは生まれ変わってこの世へ戻ってほしい」
すると、一人が手を挙げた。
「生まれ変われるのでしょうか…」
ウルフは笑顔で答えた。
「もちろん!生まれ変わる時は、幸せに全うできるように配慮するよ。それに、ここの先輩達は皆優しい。だから、頑張ってほしい。応援してるよ」
先輩達が皆に優しく声をかけ、それぞれの配属先へ連れていった。
「さて、クロの様子を見てくるわ」
「わかりました。クロさまの調子はどうでしょうか…」
兵士が不安に聞いてきた。
「大丈夫よ。ただ、復帰に時間かかるわ。ライトさんといい、色々と負ってしまったから…それと、今日はライトさんを埋葬しようと思う。クロの意識があれば行うつもりよ」
「わかりました」
ウルフはクロがいる医務室へ向かった。
「入るよ。調子どう?」
ウルフが部屋に入ると、クロは起きていた。
「…身体が動かない」
「でしょうね。でも、熱は下がったね。それでさ、今から…その…」
クロはウルフを見た。
「ライトさんのご遺体を埋葬しようかと…」
クロは冷静だった。
「…そうだな。ウルフ。俺も連れてってくれ」
「もちろんよ。車椅子持ってきたから」
クロを車椅子にゆっくりと乗せた。
「大丈夫?」
「あぁ」
部屋を出ると、一人の兵士が待っていた。
「ライトさんを埋葬するから、お願いね」
「わかりました」
ウルフはそう兵士に指示を出すと、兵士は急いで走った。城の外。静かな場所に皆でライトを連れてきた。
「ウルフ…俺は、弱いな…」
「そんな事ないわよ。シャキッとしてよ。ライトさん。クロの悲しい顔見たくないと思うよ」
埋葬場所に向かうと、一つの墓が目に入った。
「明楽さん…」
「ここに、ライトさん埋葬しよ。ここは本当に静かだし」
「そうだな。みんな頼む」
「はい!」
兵士達は一斉に返事をした。兵士たちが埋葬準備している中、ウルフとクロはライトに寄り添っていた。
「顔に傷がなくてよかった。いつのも笑顔のライトさん…」
ウルフは見惚れた。
「叔父さん…ごめんなさい…」
ライトの遺体は古い木でできた棺桶に入れた。たくさんの花と好きだった本を入れ埋葬した。
“ライト・ルーマス ここに眠る”
プレートにはそう書かれていた。一同手を合わせ、解散した。クロはまた熱をだした。
「クロ。そろそろ休もう」
「はぁ…はぁ…」
ウルフに押され、また医務室の部屋に戻った。
「熱が不安定なの困るわ…」
「あ…あぁ…」
答えることもきつい。クロをベットに寝かせた。
「大丈夫?点滴つけるね」
ウルフはクロの腕に点滴をつけた。
「クロ。無理…しないでね。目を離すと、あなたは無茶する」
「やらないよ…むしろ、今は…身体が動かせれない…」
また強い睡魔がクロを襲った。
「やばい…」
「大丈夫。城の事は私に任せて」
ウルフがそういうと、クロは眠った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字の報告やいいね、評価よろしくお願いします!