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バッチグー戦士ビューティーダー  作者: 九木十郎
第一幕 契約
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1-7 足を踏み入れてはならない場所

「ほら、こう言ってるじゃないですか」


「うーん、そうねぇ。じゃあ百歩譲って、歌や踊りの要らないアイドルとかいうのは無いのかしら」


「踊りは流石に省けませんが、歌無しでしたら舞台劇の美少女アイドル戦士というパッケージもございます。最近人気の商品ですよ」


 ご参考までにと言われて見せられた画像は、フリフリの如何にも美少女然とした少女が、ステッキだのバトンだのを手に舞台の上で着ぐるみと思しきモノを相手に闘うものだった。


 なんじゃこの悪夢みたいなモノは。


 いやよく見ると、闘うというより着ぐるみとダンスを踊っているのに近い。

 アクションは激しいが予め決められたリズムで演技しているように見える。

 動画を見る限り寸劇かミュージカルに近いような感じだ。

 「魅惑の美少女戦士参上」とかいう台詞も聞こえて来るし、自分で言っちゃうかなと思うその一方、最初に受け取ったメールの表題はコレが元ネタかとも気が付いた。


 ヒーローヒロイン物が男の子向けなら、コチラは女の子向けといった感じなんだろうか。

 いずれにしてもこんなモノ言語道断、断固拒否。

 オレはまだ人間の尊厳を捨てられるほど精神修養出来ていないのである。


 いずれにしても画面の中で飛び跳ねているそれは、アニメなどでよく見る「魔法少女」そのものであった。

 こんな少女趣味全開バリバリなものが人気なんですか。

 ひょっとして中の人は元男なんですか、と訊ねたら「そうですよ」とにこやかに返事をされた。


「みなさんお仲間なので何の気兼ねも要りません」


 逆にヤダよ、そんな集団。


「あら、コチラも素敵じゃない」


 なんてことおっしゃるんですか。


「衣装のレギュレーションが厳しくて、ロリータ系統の路線を外すコトが出来ません。どんなにシックに決めてもゴシック・ロリータが限界ですね」


「無理です、コレこそ無理。絶対不許可ですっ」


「ええぇ、でもこれ楽しそうよ。歌わずに踊りだけだから難易度は低いのではないかしら。危険なんて微塵も無さそうだし」


「冗談でもよして下さい。コレも絶対安全って訳でもないと思いますよ。ほら、振り回したバトンが目に当たるとか、足を踏み外して舞台から落ちるとか。劇でも舞台演技でも骨折とか捻挫とかの危険はあるじゃないですか。リスクはヒロインと大して変わらないと思いますよ」


 オレは必死だった。

 こんなん推されて決まりでもしたら堪ったもんじゃない。

 まだスーパーヒロインの方がはるかにマシである。

 勢い込んでアドバイザーの人に「そうですよね」と同意を求めたのだが、何故だか「そうですね」と何処か乾いた返事があるだけだった。


「きみがどうしてもと言うのなら無理強いはしないけれど」


「ホントに大丈夫ですって」


 アドバイザーのヒトの説明を鵜呑みにしただけの、全く根拠の無い「大丈夫」であった。

 だが大家さんに無用な心配を掛けたくは無いと言う気持ちが強くて、同じ台詞を何度も繰り返した。

 まぁ確かに不安が無かった訳ではない。

 だが選ばなきゃならないんだから仕方がないじゃないか。


 そしてスーパーヒロインをやると決め、オレはカチカチ社とかいう妙な名前の会社と新たな契約を結んだのである。




「特例条項のご契約ありがとうございます。現時刻をもちまして、私ニュートラルグレーが田口さま専属のサポート役として就任致しました。引き続き宜しくお願いいたします」


「はい、コチラこそよろしく」


 自分の部屋に戻ったオレは、早速彼女から業務内容の子細説明を受けることになった。

 正直、もらったメールの文章だけでは上手い具合に呑み込めない。

 オレのポンコツな脳ミソでは堅苦しい文章を咀嚼そしゃく理解するには役不足なのだ。

 懇切丁寧な介添え役が必要だったから、彼女が手助けしてくれるというのは非常に有り難かった。


 活動の説明を始める前に、変身後に何か日常生活で不自由は無いかと訊かれ、学校の授業や周囲の人間関係の対応に頭を痛めていると言った。

 正直いまこの姿では以前の生活もままならないのである。


 それでしたらナリ替わりシステムを活用されては如何いかがでしょう、と言われた。


「え、なにそれ」


「ご用意するのは、ご主人様の容姿行動を全て複製模倣する半自立型の疑似生命体です。

 命じればその通り忠実に業務を遂行します。自分の替わりに仕事や学業などを肩代わりして、日常生活の煩雑さから開放され、空いた時間はご主人様が思うがままに活用出来るというサービスです」


「それはオレの身代わりを用意してくれるということ?」


「左様にございます」


「それは悪くないけれど、それよりもご主人様っていうのはひょっとしてオレのこと?」


「はい。ご契約締結に基づき私はご当人さま専属となりましたので、その場合はご主人様とお呼びするようにと命じられております」


「何か落ち着かないなぁ。別の呼び方出来ないの」


「では何とお呼びすれば良いでしょう」


「名前で呼んでよ」


 すると彼女は両手を胸の前で合わせ目を潤ませて、「章介さま」となどと呼ぶ。


 その途端、首筋の後ろ側に鳥肌が立って背筋に怖気が走った。


「あ、やっぱ止めて」


「ではご主人様で宜しゅうございますか」


「はいそれでお願いします」


 身震いの理由は分からない。

 だが得体の知れない危機感があって、それはダメだと小さく囁く声がしたのだ。

 何だか足を踏み入れてはならない場所、その入り口に立った気がして・・・・

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