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バッチグー戦士ビューティーダー  作者: 九木十郎
第三幕 不埒な者ども
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3-2 正義というのは貫くからこそ正義

「何やら昼休みになる度に、屋上で不穏な集会が開かれているという訴えを聞き、こうしてやってまいりました」


 その日も快晴で青空が綺麗だった。


 オレと芳田さんたちは、いつものようにいつもの場所でいつものランチをとっていた。

 そうしていたら、居丈高な女生徒とその取り巻きと思しき二人の男女が屋上にやって来て、開口一番そう宣ったのだ。

 見れば三人は三人とも腕章を着けていて、ソコには生徒会と書かれていた。


「生徒会の皆様、お昼休みだというのにご苦労様です」


 芳田さんは立ち上がると丁寧なお辞儀をした。


「あなたが主犯格ね。お名前を伺って宜しいかしら」


 その物言いに、ちょっと待って下さい、と声が上がり女生徒が二人立ち上がった。


「生徒会長、その言い方は無いのではありませんか」


「そうです。わたしたちは芳田さんと共に仲良く昼食を頂いているだけです。まるで犯罪者のような扱いは心外です」


「あら、芳田さんとおっしゃるのね」


 女生徒二人の抗議を軽く押しやり、生徒会長は言葉を続けた。


「集会の届け出は無かった筈です。これはいったい何事なのですか」


「ですから昼食会だと言っているじゃあ」


「あなたには訊いておりません。芳田さんどういう事なのです」


「そうですね、先ずはご挨拶から。申し遅れました、二年生の芳田芳子と申します。申し訳ありませんが、寡聞にして生徒会長さんのお名前を存じません。お教え下さいませんか」


「あら失礼。わたしは戸隠涼子、本年度の生徒会長を務める三年生です。しかし本校の生徒でありながら生徒会長わたしの名前も知らないとは、些か不勉強ではありませんか」


 座ったままの女子から「何様のつもり?」「アンタの名前なんか知らなくても何の支障もないわよ」等々、そんな聞こえよがしな独り言が呟かれた。


 間違いなく耳に届いているのだろうに戸隠とか言う名の会長は素知らぬ顔で、特に意に介した風でもなかった。

 風の音、くらいには思っているのかもしれないけれど。


「申し訳ありません、転校して来たばかりで至らぬこと多く恥じ入るばかりです。

 此処に皆様が集まっているのは特に他意は無く、ただ皆で一緒にお昼ご飯を食べたいとそれだけの話です。教室で仲の良い者同士、机を付き合わせてお弁当をつつくのと何ら変わりはありません。

 それすらも集会として届けねばならぬと言うほどに、この学校も狭量ではないかと存じますが」


「器量の有無ではなく人数が問題なのです。教室以外の場所で、学校の認めた行事でもなく多数の生徒が集合する場合には生徒会に届ける義務があります」


「その人数は如何ほどでしょう」


「六人以上」


「それでしたら今此処で、六名未満の小グループに分かれてしまえば何の問題もないということに」


「そうはいきません。屋上は本来生徒が無断で出入りできる場所ではなくて、教師の許可、もしくは立ち合いの元で使用する学校の施設です」


「明確な禁止事項ではないとお聞きましたが」


「そう、グレーゾーン。ですから我々が不適当と判断することもまた、職権の乱用とはなり得ないということです」


 横暴、詭弁きべんよ、という声がまた聞こえたがそれもまたあっさりと黙殺された。


「その逆もまた可、ですわね」


「意義があるのでしたら次の生徒総会の議題として提出し、学校の管理責任者と討議することです。

 そこで認可されれば昼食の場所として屋上の使用許可がもらえるでしょう。

 しかし今は互いの意見が対立していますね。

 是非が問われ決着が着く迄、この論争は一時預けと致しましょう。

 我々も総会までこれ以上追及することはしません。

 ですが同時にこの場所を封鎖、使用も禁止します。即刻退去して下さい」


「会長、あなた何様のつもり?」


 一人の女生徒が声を荒げた。


「たかがみんなでお昼を食べてるだけなのに、なに屁理屈カマして妨害すんのよ。どんだけケツの穴が小さいの」


「あなた、三年の小谷さんね。陸上部も引退間近ともなれば余程に暇なご様子。下級生の子に必死で尻尾振ってみっともないわよ」


「なにっ」


「落ち着いて下さいお二方。折角のお昼休みに口角泡飛ばして口論でもないでしょう。皆さん、一旦いったんここを出ましょう。運動場の片隅でも芝生の上なら悪くない座り心地だと思います。運動場は使用してもよろしいのですよね、会長さん」


「この人数なら集会の届け出が必要よ」


「六名未満の小グループでもですか?」


「・・・・好きになさい」


 こうして突如として始まった生徒会との昼休みの対立は、芳田さんが折れることで一応の終息を見たのである。




 ぞろぞろと皆で屋上を出て階段を下りるさなか、オレはオレのファンだとかいう奇特な女子に「会長っていつもあんな感じなの」と訊いてみた。


「うんまぁ、あの通り物凄くアクの強い人だけれども有能な人でもあるの。あの人のお陰で無意味な校則がいくつも廃案になったり、老朽化した部室棟の改築案を学校側に認めさせたり。だからあの人のシンパも多いし、同時に敵視している人も多いって感じかな。今日みたいな事もアチコチでやらかしているみたいだしね」


 なるほど、能力があって自分に自信がある人なんだな。


 そして自分が正しいと思ったことは押し通す行動力もある、と。

 オレとは正反対の人間だ。

 あれで高校生だというのだから恐れ入る。将来は大物になるに違いない。




「会長、アレで良かったんですか」


 生徒会室にて購買部で買ったカツサンドを頬張りながら、腕章を着けた男子生徒が声を掛けた。


「何が」


 戸隠涼子は返事をしながら、朝早起きして作った自分の弁当箱をつついている。

 卵焼きはちょっと塩加減が濃かったかもしれないと思っていた。


「先ほどの屋上での一件ですよ。あの程度の集会、目くじら立てる必要も無かったのでは?使用権に関しては今回忠告だけに留め、もっと穏便に済ますことも出来たように思います」


「何を言っているのあなた。中途半端な対応は良くない先例を作ることになるわ。駄目なものはダメ。たとえ嫌われようとも、誰にでも分かるようにハッキリと示してやらないとこじれる原因になる。規律を正そうとするのならはらを据えなさい」


 男子生徒は諦めたように溜息をついた。


「正義というのは貫くからこそ正義というのよ」


「は?」


「何でもないわ。ただの独り言、忘れて頂戴」


 戸隠涼子はそう言ってちょっとしょっぱい卵焼きを口の中に放り込むと、後は黙って食事を続けた。

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