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バッチグー戦士ビューティーダー  作者: 九木十郎
第二幕 女子高校生
14/52

2-5 また溜息を一つついた

 芳田さんは見知らぬ相手に話し掛けて実に簡単に友人になる。

 整った容姿に加えておっとりとした物言い。

 人見知りをせず、相手の話をよく聞き決して不快になる事を言わない。

 常に相手を立てるのである。話も面白くて話題も豊富、機知に富んでいる。


 その一方で、言うべき事はキチンと云うという姿勢を貫いているものだから、好意と支持とを集め続けていた。


 持って生まれた資質だろうか。

 もし計算尽くでやっているのだとしたら大したものである。


 そして恐らく自分の好みと思しき相手には、「あなたは素敵な方ね」と歩み寄ってその手を取り、柔らかく微笑むとその指先に軽くキスをする。


 オレにもされたアレである。

 コレでやられた女子はいったい幾人になるのだろう。

 オレの目の前で即沈した女生徒だけでも結構な人数。

 もう片手に余るほどだ。

 お陰で芳田さんのシンパはかなり増えた。

 陰では「キス姫」と呼ばれているらしい。


 きっと不快に思っているアンチな連中(特に同性)も居るだろうに。

 その噂が聞こえてこないのはオレが疎いだけなのか、それともホントに誰も居ないのか。


 後者ならかく、前者だったら怖いなと思った。

 やがて積もり積もったナニかがどかんと爆発しなきゃいいけれど。




 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 オレが一年生で彼女が二年生であったから、学校内の役柄でも先輩後輩の間柄ということになる。


 そして授業が一区切りする度に彼女のクラスに出向くようになったものだから、自然と周囲の衆目を集めるようになっていった。

 オレが彼女の所に出向くと、いつの間にかその教室の廊下に人垣が出来る。

 遠巻きではあるが一挙一動を観察する視線が痛いほどだった。


 芳田さんは分かるが、どうやらオレの容姿も人目を引くものらしい。


 クラスでも感じたが、学校の中をウロついていると尚のことそう感じた。

 そんな二人が揃っているのだから注目度数も高い。

 倍率は更に倍、といった感じである。

 まぁ半ば予想出来たコトであったが、はっきり言って居心地が悪かった。


「ニュートさん、何とかならんものですかね」


「何をおっしゃっているのです、ご主人様。人目を引く、これぞ正に我が意を得たりバッチグーという感じではないですか」


「バッチグーって・・・・」


 何でわざわざそんな死語を選んで使うんだろ。


「ナニを怪訝な顔をされていらっしゃるのです」


 正に心外といった面持ちだった。


「言葉は世代を超えて受け継がれてゆくものですが、時代と共に刻一刻と変化してゆくものでもあります。

 一千年前の日本語が現代では一部の識者にしか通用しないように、それは美しくも儚いものなのです。

 紡がれては忘れ去られてゆく言葉にも愛情を注ぐべきです。

 良いモノは良いと再発見し、日常の中で繰り返し使われるべきです。

 そうお思いには為りませんか」


「あ、うん。ニュートさんがその言葉に、並々ならぬ思い入れがあるってコトだけはよく分かったよ」


 この頃の彼女は、当初感じていた「出来る大人の女性。プロの社会人」といった雰囲気が段々と薄まってきていた。

 道理よりも勢いを好む、妙なラジオのパーソナリティーといった物腰である。

 あるいはコチラが彼女の本来の姿なのかも知れない。


「ニュートさんって、ホントはスタンドなんたらとかいう小型のロボットとかじゃなくって、生きた小柄な人間なんじゃないの?いつの間にか段々とこなれてきている感じだし」


 昨日そんな具合にツッコんだのだが、「学習機能です」の一言で一蹴された。


「前世紀のワープロソフトですら持ち主の使い込みに合わせて変化します。使用頻度の高い語句や単語などを優先変換するではないですか。同じ事ですよ」


 つまりは、ご主人様であるオレに合わせての変化なのだという。

 それは有り難いと言うべきなのか、ソコまで凝った事をしなくても、と言うべきなのか。


「調査とめい打ってはおりますが、目的はそれだけではありません。悪党に対して、正義の味方が此処ここに居るぞ、お前達を追ってきたぞとの示威行動。そして広報活動も含まれています」


「え、なになに。ひょっとして、相手はオレたちがソッチ方面の人間だってもう知っているっていうコトなの。バレバレ?」


「半信半疑といった辺りではないでしょうか。転校生二人がコレだけ話題になっていますからね。ですので、むしろご主人様の役割は広報専門と言って差し支えないでしょう。現在の捜査活動実務は私が担っている訳ですので、適材適所と云えば順当でしょうか」


「つまり目立つのが主なお仕事と、そういう訳なのね。晒し者になるのを避ける術はないと」


「人気があるのは誇るべきコトでしょう」


 役目上はそうなのかも知れないけれど、残念ながらこの本性は哀れで小さな子ネズミなのである。

 見知らぬ女子から遠巻きに熱視線を送られるだけでも落ち着かない。

 ましてや、親しげに微笑まれでもしようものなら、直ぐさま裸足で逃げ出したくなるのである。


 エライ仕事を引き受けちまったなぁ。


 これで何度目になるのか、数えることも止めてしまった深い溜息を吐き出していた。


 そしてげんなりしているオレを傍目に、芳田さんは今日も意気揚々と校内を闊歩かっぽしていた。

 オレたち二人の様子をしげしげと生態観察している女子達にも、にこやかに笑んで手まで振っていたりする。

 その堂々たる様子はまるでこの学校の女王さまのようだ。


「彼女、凄い人気ですね」


 肩の上がすっかり定位置となったニュートさんも感服したような物言いだ。

 ちょっと珍しいな、と思った。


 ニュートさんは色々なコト知っている上に万事用意周到だ。

 社会人なのだから当然なのかもしれないけれど、学生であるオレなんかよりもずっと落ち着いていて経験豊富で、全て承知の上で行動しているイメージだ。

 そんな人でも感嘆することはあるらしい。


 ん、社会人?


 間違ってはいない、よね。

 でもそれを言ったらまた自分はスタンドなんたらだ、自動人形なのだと反論が返って来そうだけれど。


「既にアチコチで親衛隊なるものまで出来上って居るようですよ」


「え、もう」


「もう、とは予想通りということですか」


「あの容姿だし充分あり得そうな話だよ。女の子ってそういうの好きそうだしね」


「余り驚いていらっしゃらないのですね」


「いや充分驚いているよ。それに彼女はスーパーヒロインなんでしょう?注目浴びるのは当然だよね。でもビデオとかネットの動画とかに出演して顔ばれしているのに、よく高校生として学校に入れたなぁと、むしろそっちの方が余程に吃驚びっくりだよ」


「たとえ、ビデオを見た、そっくりだと云われても只の空似、赤の他人と言い切ってしまえば良いだけの話です。またバレたとしても『正義の味方なのだから仕方が無い』ですよ。正体を隠して潜入など端から常識、さしたる問題ではありません」


「ぶっちゃけてるなぁ。その大雑把なスタンスがこのお仕事の特徴なんだろうけれどね」


「どうなさったんです、そのような開き直った物言いは初めてですね」


「もうね何だかね、こんなんが日常になってくるとね、今までの当たり前ってなんだったんだろうってね。女の子になって女子高生の制服を着て高校生に逆戻り?しかも正義のヒロイン予備軍研修中って」


 ホント何なんだろうな、罰ゲームにも程がある。

 とある宗教の敬虔な信者なら、これも神の与えたもうた試練とかおっしゃるのでございましょうか。


 そこでオレはまた溜息を一つついた。

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