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バッチグー戦士ビューティーダー  作者: 九木十郎
第二幕 女子高校生
13/52

2-4 懸念材料がある

「そうですね。いきなり初対面の方に取る態度ではありませんでしたね」


 不躾なのは自分の方だった、ごめんなさいと彼女に頭を下げられた。

 そんなに下手に出られても困る。

 恐縮していると「取り敢えず今後の予定を説明します」と言われた。


「悪い奴を見つけて懲らしめる、以上です」


「は、あの、それで?」


「それでとは?」


「具体的にどうすれば良いのでしょう」


「悪党をまず見つけ出さねばなりません」


「はい、それは判ります。ですからそれをどの様にして、という子細をお訊きしているのですが」


「そして見つけたら懲らしめるのですよ。二度と悪事を企まないように」


「ですから、見つける為の方策はいったい何をすれば良いのかと、そういうお話を聞きたいのですけれども」


「目で見るのです。探すのです。口や鼻では見ることが出来ませんからね。そして学校の中を探すのです。外に出てはいけませんよ。学校の悪は学校の中にしか居ませんから」


「あ、はい。それも知っています。オレたちのテリトリーはこの学校の中限定ですからね。で、この大勢の生徒の中でいったい誰がその『悪党』なのか、見分ける方法を知りたいのですよ」


「観察するのです。観察は人生においても大切な技能です。そして『ああ、コイツ悪い奴だな』という人物を見つけ出して鉄槌を下すのです。それがわたしたちの大切な役目なのです」


 彼女は握り拳を作って力説している。

 丹念に辛抱強く説明する姿には好感が持てた。

 元々素直な性格なのだろう、こういう人物は嫌いじゃない。


 だが人柄はかく、情報が何も増えていなかった。

 いくら言葉を重ねても言い回しが少しずつ変わって行くだけで内容は何も変化が無かった。


 嗚呼、どうやらこの人は壊滅的に説明下手らしい。


 自分が当然至極と承知している事柄を、端から順を追って話す話術に欠けるのである。

 たまに居るよな、と思った。


 オレは何とかフォローしようとはした。

 しかし彼女はそれを上手い具合に咀嚼そしゃくすることが出来ず、色々な部分をすっ飛ばし、結論だけをリフレインする。

 口下手な人がよくやらかす空回りっぷりだ。


 そして途方に暮れているオレを見て、彼女もまた途方に暮れていた。

 上手く説明できない自分に焦れているのがよく分かった。


 身振り手振りを織り交ぜ、やがて彼女渾身の説明は初めて見る創作ダンスのような様相を呈し始めた。

 髪が乱れ、もはや額に汗が滲んでいた。

 どうにかしてあげたいけれど、オレではちょっと力不足だ。

 自慢じゃ無いけれどコッチも口達者な訳じゃない。


 しばしの奮闘の後、やがて肩で息をしながら彼女は「ちょっと、お待ちになって下さい」と断りをいれ、数度の深呼吸を繰り返した。

 そして一際大きく息を吐き出した後「そう言えば」と話題を替えるのだ。


「あなたはコレが初めてのお仕事だとおっしゃってましたね」


 遂に講釈を諦めたらしい。

 賢明な判断だと思った。


「そうですね、先ずはわたしがお手本を示すというのが先決でしょう。分からない事があったらその都度質問して下さい。その方が手っ取り早いような気がします」


「そうですね。オレも何だかソッチが良いような気がします」


 オレは素直に相づちを打った。

 先程の調子では、明日の朝日が昇ってもこの場で同じ説明を繰り返しているだけであったに違いない。


「改めて、これからよろしくお願いします」


 オレは頭を下げた。


「それはわたしの台詞でもありますわね」


 こちらこそ、と言ってオレの手を取ると、その指先に軽くキスをした。

 余りの自然な動きにされるがままだった。

 そして彼女は「ふふ」と優しげに微笑むのだ。


「恐縮ですっ」


 叫んで咄嗟とっさに手先を引っ込めていた。


 我ながら凄い速度だったと思う。

 誤って熱い薬缶やかんなどに触ってしまった時のリアクションに似ている。

 うなじの産毛が逆立っていた。

 ゾクリと得体の知れない怖気が背筋の真ん中を這い上って来る感触があった。


 そして、それとなくジワリと彼女と距離をとった。

 迂闊うかつに彼女の手の届く範囲に居てはいけない気がしたからだ。


 一見天然。しかし油断してはいけない相手。


 何故なぜだかよく判らないけれど、そんな気がしてならなかったのである。




 取り敢えず今日は顔合わせ、この辺にしておきましょうと言われ彼女と別れた。

 そして自分のクラスに戻る最中、肩の上のアドバイザーに一言投げかけた。


「さっきのアレ、ニュートさんが途中で助け船を出してくれれば良かったのに」


 芳田さん決死の説明大会のことだ。

 このヒトなら彼女のフォローに入ることも出来たのではないか。

 少なくともオレよりは余程にマシな対応が出来たろう。


「彼女の方から要請されれば、それもやぶさかではありません。ですが彼女にも彼女のやり方があります。余計な口出しは無い方が良いでしょう」


「スパルタだなぁ。芳田さんが困っていたのは判っていたでしょ」


「彼女もまた今回が指導先輩としての初仕事になります。何事も経験ですよ。それにご主人様とも良いコミュニケーションがとれたのではありませんか」


「全部計算()くってことなの?やれやれ、まるでニュートさんは彼女の指導役も兼ねているみたいだ。いや、実はそうなんじゃない?彼女の事もずっと以前から知っているみたいだし」


「ご想像にお任せします。私から説明する権限はありませんので」


「やれやれ」


 軽く肩をすくめると微笑んでいるような気配があった。


 そして次の日からは始終芳田さんの後ろにくっついて、一緒に学校の中をぐるぐると巡り歩くことになったのである。




「ニュートさん、こんな悠長なことでいいのかな」


 授業の最中、オレは小声で肩の上の彼女に話し掛けた。

 隣の席の子も居るから本当に小さな声でだ。

 まぁ机と教科書の陰でスマホ弄るのに夢中だから、気にも留めないだろうけれど。


「よろしいのではないのですか。特に支障があるとも思えません」


「え、でも、授業の合間にうろついて適当な生徒つかまえ、世間話や井戸端会議に勤しんでいるだけのような気がするけれど」


「ご主人様や彼女は此処ここに転校して来て日が浅く、親しい方々も然程さほど多くありません。既知の友人を増やすというのは悪くないと思います。昨日彼女も言いましたが地道は近道ですよ。今は積み重ねが必要な時期かと」


 まぁニュートさんがそう言うのならそれでイイけれど。


「彼女も新たに単独で契約を結び直し、カチカチ社の専属になりました。全てを一人でこなさなければなりません。つたないところもあるかもしれませんが、私も可能な限りフォローしますので長い目で見てはいただけませんか」


 年長者の物言いだな、と思った。


 新入社員を指導する女性先輩といった風格がある。

 オレ専任の担当者とか言っていたけれど、芳田さんへの補助や対応もきっと最初から業務範疇に違いない。

 何だか手慣れていて堂に入っている感じがするし。


 それに芳田さんへの不満が在るわけじゃないのだ。

 ただちょっと大丈夫かなと思っただけの話で。


 でもね、オレはソレ以外にも懸念材料があるのですよ。

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