通信
ぼんやりとした意識の中、少年は手を伸ばした。その先にあるのは電話。さっきから鳴っていてうるさい。目覚まし時計みたいだ、と少年は思う。
「はい、もしもし……」
『その声は……ケイタくんかい?』
「え、うん。あれ……? もしかして、おじいちゃん?」
『……そう、そうだよ、ケイタくん。まさか繋がるなんてねぇ』
「あ、う、うん……」
懐かしい声。電話の相手は少年が大好きだった、おじいちゃんだった。でもどうして……と少年は思う。
『ケイタくん。元気にしてるかい? おじいちゃんはね、いつもケイタくんのことを思っていたんだよ』
「あ、うん。ありがとう……」
少年はまだ動揺し、うまく言葉が出てこない。少しの間の後、少年のおじいちゃんは言った。
『おじいちゃん……今から会いに行こうかな』
「え! 会いに? でもそれはその」
『嫌なのかい? 会いたいよ。会いたい会いたい会いたい。ここは一人きりですごく寂しいんだ、寒くて寒くて仕方ないよ……』
「お、おじいちゃん、お、落ち着いて。ぼく……正直、こわいよ」
『おお、ごめんねぇ。こうしてまたケイタくんと話せると思わなかったから、おじいちゃん、嬉しくて嬉しくて……』
「う、うん。ぼくもうれしいよ。でも会うのは……だめ、じゃないかな?」
『どうしてだい。寂しいよ……ああ、すぐに行くよ。今すぐにすぐに行くよすぐに』
「お、おじいちゃん、やめて! だって……ほら、そんな急に来ても会えないんじゃない、かな?」
『そ、そうかい?』
「う、うん。そうだよっ。だからゆっくりでいいからね。待ってるよ、ぼくもパパもママもおじいちゃんのこと」
『ああ……そうだね。じゃあ、頑張っ、冬、えよ、かなぁ』
「うん、声が、かすれてきたね。そろそろ切れるのかも……じゃあ、またねおじいちゃん」
『ああ、また、ね……』
その老人は受話器を置いた。
そして、仏壇に並んだ三人の遺影を見つめた後、窓の外、降りしきる雪を眺め体を縮こませるも春を、その先を想像し胸がじんわりと温かくなる感覚に顔を綻ばせた。