始まりの街
目の前がだんだんと明るくなってきた。
「おお、これはすごいな…」
目を開けるとそこは中世ヨーロッパのような街並み、その奥には大きな山が見える。
「リアルすぎるだろ…」
ゲームの世界がこれほどとは思ってもいなかった。
雲は形を変えながら流れてゆき、町の中を走る馬車の騒音や振動までも感じる。
照りつける太陽の眩しさや、肌をなでる風の感触までもリアルだ。
「ここが楓が言ってた始まりの街『アーチ』か。人が多くて賑わってるな」
僕が目覚めた場所は大きな広場になっていて、そこの泉の周りには同じプレイヤーらしき人たちがたくさんいる。
一番最初は皆この大きな広場に転送されるらしい。
「えーと、スキルの使い方はっと…【マップ】おお、ほんとに出た」
目の前に半透明のウィンドウが現れる。
このウィンドウは他の人には見えないって楓が言ってたな。
「ここが今いる場所で…この剣のマークは何だろ?武器屋かな?この本のマークは図書館?マークだけじゃわからないな、名称も<???>だし」
どうやら自分で行ってみないとどんな場所かわからないらしい。
「よし、楓が帰ってくるまで時間はあるし探検でもしようかな。まずは…この買い物袋?のマークは市場かな?」
ゲームの世界の食材がどんなものなのか興味あるし…よし、ここに行ってみよう。
目的地を決めて、マップを頼りに歩きだした。
「この街並みを見ていると修業時代を思い出すな…」
市場を目指して歩いていると、自分が修行していたフランスやイタリアを思い出す。
「あの頃はきつかったな…言葉もよくわからないし、怒られてばっかだったし」
それでも料理が好きだったからあそこまで頑張れたし、その分師匠たちも教えてくれた。なんだかんだでいい思い出だ。
「でも絶対あの頃に戻りたいなんて思わない!ああだめだ。特にサイモン師匠のことを思い出したら殴りたくなってきた」
サイモン師匠はフランスのパリにあるレストランのオーナーシェフで、色々面倒を見てくれた僕の師匠の一人だ。
最初は「ミスするくらいなら皿洗いでもしてろ」ってよく怒ってきて、『ああ、この人は料理に対する情熱がすごんだ。すごいな』って少し憧れてたんだけど…
お店のお酒勝手に飲むし、気に入らないお客と喧嘩するし、面倒がって買い出しいかないし…でも料理の技術はめちゃくちゃ高いし。
まぁ色々すごい人だった。
「はぁ…嫌なことを思い出しちゃったな。あの人のことはもういいや、忘れよう」
「ゲームの世界にはどんな食材があるんだろう。楽しみだな」
僕がこのゲームを始めたのは仕事の憂さ晴らしもあるが、本当の理由はゲームの世界にしかない食材に触れたいからと思ったからだ。
そうして歩いていると、最初の広場のような場所についた。
「おお…!ここが市場か。テンション上がるな!」
僕はたくさんの人たちがいる中に走り出した。
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