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VRMMO

料理人になりたいと思ったのは、まぁ何かとよく聞く理由だったりするのだが、僕がまだ小学校4年生の時。

妹の楓が生まれて間もないころに事故で死んでしまった父親に代わり、楓の世話で忙しい母の助けになろうと、家事の手伝いをすることにした。


「僕がやるから任せて!」そう言って張り切る僕を母が心配そうな目で見ていたのを今でも覚えている。


その時初めて作った料理は今と散々なものであったが、母親はそれでも美味しいと言って食べてくれたのが料理人を目指すきっかけだった気がする。


成長してもその気持ちは変わらず、18歳で調理の専門学校に進学。

2年間学校で学び、卒業後海外にわたり修行した。

修業時代に出会った三島さん。

三島さんは深海料理長が来る前まであのホテルで総料理長を務めていた人で、僕の師匠だ。

三島さんのもとで1年ほど修行させていただいた後「このまま俺についてこないか?」と誘われた。


もちろん僕はイエスと答えた。

そしてすぐ日本に帰国し、あのホテルで副料理長として働くことになったのだ。


しかし三島さんも引退し…代わりに入った深海さんにはクビを言い渡され…


「君はクビだ……………………君はクビだ!!…………………………。



「ん……ゆ、ゆめ?」


起きると頭が割れそうなくらい痛かった。


「うぅ…頭痛たいってここ玄関か。昨日はお酒飲んで帰ってきて…僕はそのまま玄関で寝ちゃったのか」

そうやって昨日のことを思い出していると、料理長の顔が浮かんできた。


「うわぁ…そういえば僕、クビにされちゃったんだな…」

いやなことを思いだしていると、階段から楓が下りてきた。


「ふわぁ…あ、おはようお兄ちゃん」


「ああ、おはよう楓。朝ごはん作ろうと思ってるんだけど何がいい?」


「んー、卵焼き?ってかその前にお兄ちゃん着替えてきたら?」


そういわれて自分の服を見下ろすと、玄関で寝ていたせいか砂などがべったりついている。


「ああ、確かにそうだな。ちょっと着替えてくる」


そう言って僕は脱衣所に向かった。

脱衣所で服を脱ぎ、顔を洗って部屋着であるジャージに着替えた僕は楓の待つリビングへと向かった。


リビングに行くと楓はソファの上に寝っ転がってスマホを眺めている。


「楓、準備してないけど今日学校はないのか?」


「うんー。今日は文化祭の振り替え休日だから」


おお文化祭か…確かに今は9月だしそんな時期だろうな。


「そうかじゃあ今日は暇なんだな。卵焼きだっけ?作るからちょっと待っててな」


僕はダイニングキッチンに行き、冷蔵庫から卵と白出汁を取り出す。

卵焼き用の四角いフライパンを火にかけ、薄く油をひく。


「高校に入って初めての文化祭は何やったんだ?」

僕はカチャカチャと卵を溶きながら楓に話しかけた。


「私のクラスは仮装してステージで踊ったんだよ。ネットで流行ってるやつ」


「おおーすごいな。ちゃんと高校生してるな」

卵に出汁と砂糖少し入れかき混ぜる。

溶いた卵の3分の1をフライパンに流しいれる。


ジュウウウという音とともにほのかに出汁の香りが漂ってくる。

弱火にしてフライパン全体に卵液が行くように回す。

卵を熱している間にやかんに水を入れ、お湯を沸かす。


そして卵を巻いて、その空いたスペースに卵液を流し込んで…を数回繰り返して、卵焼きは完成だ。

お茶碗に昨日の残りのご飯を盛り付け、お湯も沸いたのでインスタント味噌汁を二人分作る。


「はい、できたぞ。ごはんとシジミのみそ汁と卵焼きと納豆。ふりかけは自由にかけな」


「ん、ありがと」

そう言って楓はソファからたちあがってテーブルの席に着いた。


「「いただきます」」


「ほぅ、インスタントでもみそ汁はうまいな」


インスタントだが、シジミのみそ汁が僕の肝臓を浄化する。

卵焼きもいい感じな焼き加減で甘さもちょうどいい。

うん、我ながらいい感じに作れたな。


そうやって満足していると、楓が納豆を混ぜながら話しかけてきた。


「お兄ちゃんさ、昨日なんかあった?」


「え…な、なんでそう思うんだ?」

ふりかけをかけている手を止めて聞き返す。


「いやさ、昨日帰りも遅かったし…あのお兄ちゃんが珍しく泥酔状態だったからさ、なんかあったのかなーって」


「あーああ、まぁべつに隠したいわけじゃないんだが…」

さすがに家族にクビになったというのは気まずい気がする。


「えー気になるじゃん!」


「まぁ…あれだ、兄ちゃんな…仕事…クビになっちゃった」


僕は楓にすべてのことを話した。


「えぇ!?うそ、おにいちゃんが?なんでそんな理由で!?」


「まぁクビになっちゃったのは仕方ないよ。怒ったところで今更だしね」


「この話お母さんには言ったの?」


「いや、これから話すよ。母さんも忙しいだろうしね」


母さんはデザイナーとして働いており、今はフランスの企業で住み込みで働いているらしい。


「ふーん、お仕事はどうするの?あのホテルの副料理長を務めてたんだからすぐ見つかるでしょ?」


「いや貯金ならたくさんあるし、しばらくはゆっくりして暮らそうかなって思うよ」


「確かにお兄ちゃん料理以外の趣味とかないし、彼女もいないもんねー?」

楓は僕のことをこうやってよくからかってくる。


「む…そう言うお前はどうなんだよ、高校に入っていい感じの男はできないのかよ」


「わ、私はいいの!私は!作ろうと思えばいつでも作れるんだから!」


確かに楓はすらっとした体形に最近は身長も伸びてきて165cmはあるんじゃないか?

肩のあたりで切りそろえられた艶のある黒髪に、顔も整っているし…性格も優しくて人懐っこい。

目はいつも眠そうにしているせいか少し目つきが悪く見えるが、確かにモテるのであろう。


「もう!そんなことはどうでもいいの!お兄ちゃんさ、暇だったら一緒にゲームやんない?ゲーム」


「ゲームってスマホの?もう25だぞ?瞬発力とか結構落ちてるし…」


「ちがーう!VRMMOのゲーム!ほらこの前私買ってたでしょ?」


「あぁ、あの入学祝で買って貰ってたやつか?」


「そう!それ!私がやってるのは『ユートピア』ってゲームでめっちゃ自由度が高いの!配信もできるし、ゲーム内でモノを売って得たコインは実際のお金に換金することもできるんだよ!」


「へぇそれはすごいな。どうせ暇だし、やってみるか」


「ほんと!?やったー!じゃあ今日本体とソフトセットのやつネットで買っちゃお!」


「はいはいわかったから早く食べな、冷めちゃうよ」


僕は際に食べ終わり、ご馳走様を言ってキッチンで食器を洗う。


「ご馳走様!ねーお兄ちゃん!早く注文しようよ」


「わかったから、自分の食器は洗いなさい。そのあと一緒に見ような」


「わかったー」


しぶしぶと洗い物をする楓を横目で見ながらソファに座り、スマホでVRMMOっていうのを調べ始めた。

ブックマーク、評価お待ちしております。

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