解雇通知
東京都 港区のとある有名ホテルの厨房の中…
「3番テーブルオーダーです!」
「スープ完成しました!確認お願いします!」
「メイン用のソースは!? まだね?わかった1分で仕上げて」
皆が集中し、張り詰めた空気の中調理する。
ここはまるで戦場だ。
「坂本副料理長!チェックお願いします!」
そんな戦場で俺は副料理長を務めている。
「…よし、オッケーだ。盛り付けは担当に回してデザートの作業に移って」
今日は料理長が不在のためこの場は俺が仕切らないといけない。
ただ、アクシデントとはこういう日に限って起こるものらしい。
「ふ、副料理長!デザートのソース用のラズベリーがたりません!」
今日のデザートはクリームチーズとミックスベリーのアイスだが、その仕上げ用のソースの材料が足りないという。
「なっ…!?いやわかった…。今からメニューを変更する!クリームチーズのアイスをアイスからケーキに変更!ブドウと赤ワインを使ってソースを制作!盛り付けは調理中に考える!急ぎになるがミスはするなよ!」
「「了解!」」
ー--------そんなこんなで今日をなんとか乗り切ることができた。
「今日は忙しかったがみんなよくやってくれた!まだ仕込み作業が残っているが、それは俺がやっておく。帰って体を休めてくれ!」
「「はい、ありがとうございました!」」
皆疲れ切った顔をして帰っていく。
「よし、作業をするか…」
誰もいなくなった厨房でコーヒーを飲んで休憩をした後、明日の仕込み作業を始めるためにエプロンをつけようとした時だった。
誰かが厨房のドアを開けて入ってきた。
「すみません、今から仕込み作業を始めるところで…って深海料理長?今日はお休みのはずでは?」
「よっ坂本君。探したよ」
そうにっこりと笑う男性はこのホテルの総料理長で、色々賞もとってるすごい人。
まぁいわゆる僕の上司だ。
「いやね、さっき帰ってくシェフ達に会ってさ『坂本君どこにいる?』って聞いたら厨房に残って1人で仕込みしてるって言うからここまで来たんだよ。」
「あーそうだったんですね…なんか、すみません」
「いやいや、全然大丈夫だよ。君に用事があったわけだし」
用事?なんだ用事って…僕がそう考えていると、深海料理長が急に真面目な顔になった。
「用事っていうのは…なんていうか…その、言いにくいんだけどね?…
…君はクビだ」
……………?
「は?」
僕の思考は完全に止まった。
「いや実は僕の息子の達也が来月海外修行から帰ってくる予定で、僕のもとで副料理長として経験を積ませたいってオーナーにかけあったらね?その…副料理長の枠は増やせないって言われてさ…」
つまり料理長は息子さんのために僕を切るってことか…
「そ、そうですか…わ、分かりました」
「わかってくれたかい!?本当にごめんね。いやー僕も頑張ったんだけどね?ほんと、仕方なくね?」
笑いながら話す料理長への怒りをぐっとこらえる。
「じゃあ僕は失礼するね、坂本君、今までほんとにありがとね。仕込み作業頑張って~」
そう言って深海料理長は足早に厨房から去っていった。
そのあと僕は「これが最後の仕事か…」「何で僕が」そう言いながら明日の仕込みを終わらせ、包丁など自分の荷物をまとめてふらふらと厨房を出た。
そのままたまに仕事仲間たちと行く居酒屋に入り、レモンサワーとカキフライを注文した。
そのあとのことはあまり覚えていないが、気が付いたら自宅のドアの前だった。
「ただいま…」
「ん、お兄ちゃんおかえり。もう1時だけど今日はやけに遅かったねってお兄ちゃんお酒臭いよ!」
妹の楓が玄関まで迎えに来てくれた。
「んぁ…ちょっとね…」
「こんなになるまで飲んで…何かあったの?ねぇ!お兄ちゃん!?」
「………」
「寝ちゃった。ここ玄関だよ…まぁいいや何があったかはあした聞こっと」
そう言うと楓は自分の部屋へと戻っていった。
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