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Love me flower  作者: ぶどう屋
3/6

桜の花の咲く頃に

 花より団子と言います。でも、実際のところ花より団子より酒だと思わない?だって、結局みんな桜にかこつけて飲んで騒ぎたいだけじゃない。ねえ。

 じゃあ、何だったら花が勝つと思う?何より花、みたいなの。ないのかしら。ない?まあ、随分と無粋なのね。



 想像してご覧なさいな。4月のうららかな日差し。足元にはピンクの花びらが落ちていて、見上げるとあたり一面桜の木。あちこちでビニールシートを敷いた人たちが騒いでいるの。場所は、そうね、川の近くの公園。イメージできたかしら。

 桜を見上げてご覧なさい。今日がきっと満開。明日からどんどん散り始めるわ。今日だってこんなに風が吹いているんだもの。わかるでしょう。あんなに高いところに咲いているのに、どうして微かに甘い匂いがしてくるのかしら。不思議ね。

 桜に交じって別の匂いがします。何かしら。この香ばしい香り。ああ、団子屋よ。あれはこの時期になると、いつもより高い値段で団子を売りに来るの。こうしてみたらしの香ばしい香りを漂わせて、観光客を惑わせているのだわ。食べてみれば存外普通の団子だというのに。


 少し歩きましょうか。向こうの方に、小さな池があるの。ボートを漕ぐこともできるのよ。きっと落ち着いて桜を眺められるでしょう。

 まあ、こっちにも酒盛りをしている人がたくさん。どこへ行っても湧いて出てくるのだから。酒臭いったらないわね。ああいう人たちは、調子に乗ってすぐ無茶を始めるのよ。ほら、あちらには桜によじ登っている若者がいる。あんなに枝を折って、もったいない。自分はあの枝よりも価値があると思っているのかしら。あら、むこうでは男が池に落ちたわ。深い池ではないとはいえ、あんなに酔っぱらって、上手く泳げるもんですか。ほらご覧なさい。溺れてしまった。引っ張り上げようとしているけれど、あの人たちがはやし立てたせいで落ちたの、私は知っているわ。恥を知りなさい。


 大きいでしょう。この木だけは、いつまでも大きくなり続けているの。このあたりで一番大きな桜の木なのよ。どうしてこんなに大きくなったのかしら。不思議ねえ。

 そうだわ、この木の根元を掘ってみましょう。きっと何か秘密があると思わない?この木が育つ理由が。あなたなら掘れるでしょう。さっきからちっとも楽しそうじゃないのだもの。暇つぶしにちょうどいいわ。その有り余った体力を発揮してご覧なさいな。

 ほら、そこのあたり。何か見えます。あれは革靴じゃないかしら。もう少し掘ってみて。あら。やっぱり革靴ね。下に見えるそっちは何?白いヒールかしら。

 どうしてこんなところに靴が埋めてあるのかしら。ここには、一体何人の靴が埋まっているのかしら。ねえ、どう思う?

 あら。あなたも埋まってしまいそうよ。ご覧なさい。穴の中にどんどん花びらが落ちていく。いつの間にか、ずいぶんと掘り進んでしまうのだもの。もう私にはあなたを助けることができません。このまま埋もれるしかないのではないかしら。本当に残念だわ。

 今度桜が咲いたら、あなたの靴を探しに来てあげます。その時はきっと、今よりもっとたくさんの花がこの木についているのでしょうね。



 どう?想像できたかしら。人間なんて、花に比べたらちっとも美しくないのだもの。『あなたより花』。悪くはないと思わない?


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