日常の崩壊
『閃光により、全てが書き換えらえられる。だからこそ、我々はーー』
オーパーツ文書『老狼の報告 アース1』より、解読可能な一部より、抜粋。
(また同じ、1日かーー)
少年は、通学に利用している電車の車窓から見える風景を、ため息まじりに、見詰めていた。
少年ーー水空勇磨は、首都圏高校2年生。傍目から映る彼の印象は、中肉中背、整った顔立ち、涼しげにみえる目元。ミドルヘアーの黒髪の前髪は、毛先に向かい、銀色を帯びている。
勇磨は右耳に装着した、ワイヤレスイヤホンに軽く触れた。お気に入りのバンドミュージックでも聴き、眠気をぶっ飛ばそうとーー
『始まるーーきみはどうする?』
(え?)
ドラムのスネアから唐突に、激しく開始されるミュージックでは無く、聞き覚えのない、女の子の声が、脳を刺激する。と、
閃光ーー車窓の外を見詰めていた勇磨の網膜が、眩い光りに、焼かれる。勇磨は意識を手離したーー
「きろ……起きろ!」
勇磨は、おでこを連打する何かの感触と、老人の声に、意識を取り戻す。
(ん?夜空?)
勇磨は、朦朧とする意識のなか、瞳を開けた。夜空が見える。夜空? 通学途中ではなかったか? など、様々な思考がふいに込み上げた。
「やっと目覚めおったか、人間!」
勇磨は、仰向けに寝転がっていることに、気付き、上半身を起こし、声のする方へ視線を送る。
「猫?」
二足歩行で、短足の猫が一匹、勇磨をなじる。
(猫が二足歩行?しゃべってる? しかも何故か怒られてーー)
勇磨の脳は、目の前の現象を受け入れられず、再び意識を失いーーかけたが、猫の頭突きが、鼻っぱしらを直撃した。
「バカもの! 儂の話を聞け、人間!」
猫は再び勇磨の鼻っぱしらに頭突き。
「痛いっ! 止めてくれ! たんま、ストップ!」
勇磨は、両の腕を振り回し、猫の頭突きを止めようともがいた。
「解ればよい。それよりも、儂の話を聞け、人間」
猫は三度、頭突きの体勢をとっていたが、構えをとく。
「夢、じゃないんだな…… 」
勇磨は涙目で鼻をおさえながら、呟き、辺りを見渡す。
木々が淡く光を放ち、緩やかに吹く風に、強い土の匂い。
(森、なのか?)
見馴れない風景。電車に乗って、学校にーー
「混乱するのも無理はない……儂もじゃ」
猫が勇磨の気持ちを察したのか、言葉を放つ。
「それよりも、人間。話は後回しじゃ」
「はい?」
勇磨は訳がわからず問う。と、
「立て。物陰に隠れろ」
猫はそう言うと、勇磨の頭によじ登る。
「ちょ、ま、待って」
勇磨は頭皮に突き刺さる猫の爪に促され、立ち上がり、大きな樹木の陰へ歩む。
数瞬後、森の暗がりから、影が勇磨たちの方へ伸びて来る。
「あ、あれは何!?」「シッ、静かに」
勇磨の叫びを猫が制止する。
影の姿が淡く光る木々の間から、浮かび上がったーー